第80話 体育祭の話し合い

 さて、今日も涼風と学校に来たわけだが……


「それでは、二週間後の体育祭についての話をしたいと思います」


 そう、そろそろ体育祭なんですよね……。運動部の人とかからすれば最高のイベントなのかもしれないけど、帰宅部の俺にとっては苦行のようなもの。まじできついんだよねぇ……。


「康政、お前は元気そうだな……」


「おう!だって、授業やらなくていいんだぞ!遊びみてぇなもんじゃねぇか!」


 康政はやる気満々といった様子だった。


 あいつ、運動だけはできるからなぁ……。こういうのも毎回すげぇんだよなぁ。


 康政は足も速く、いつもリレーで大活躍している。対して俺は、いつも地味な競技で地味に参加している。その気になれば運動ももう少し上達するのかもしれないが、やる気がないのだから仕方がない。


「そういえば、涼風は運動ってどうなんだ?水泳は、あれだったけど……」


「運動はダメなんですよ……。昔からあまり体を動かすことは好きではなくて……」


 やはりそうなのか……。涼風の細い腕や、真っ白な肌を見ればなんとなくそんな気はしていた。


「俺も体育祭は、面倒くさくてなぁ……」


 今年も適当に、玉入れでもしとくか。


 そう、うちの学校の体育祭には玉入れがある。小学校以来、玉入れなどしたことがなかった俺にとって、そんなものは高校の体育祭で競技と呼べるのかいささか疑問ではあったが、実際には五メートルの高さがあって、なかなかに面白いものだった。


「競技って、何があるんですか?」


「それは俺から説明させてもらうぜ!」


 康政が自信満々で話し始めた。体育祭に去年真面目に参加しなかった俺も、競技についてはよくわからなかったから、黙って康政の説明を聞いた。


「まずは、大きなものとしては、リレーとか徒競走とか、まぁ要するに走る系の競技だな。それに、玉入れとか綱引きとか、あとは借り物競争とか。んで、後夜祭っていうのもあって、そこでは男女一人ずつペアになって踊るんだ。ざっくりとこんなものかな?」


 なるほど……。意外と深いな、体育祭……。それにしても、後夜祭なんてものがあったとは。……去年は確か、一目散に帰った気がする。


「後夜祭で踊ったペアは結ばれることが多いから、皆それのために体育祭でいいところを見せようと頑張るってわけ」


 それで運動部は皆張り切るのか……。なんともまっすぐなやつらだなぁ……。


「ありがとうございます。よくわかりました!私は走るのは得意ではないので、玉入れとかそういう激しい運動ではないものに出ようと思います」


「俺もそうだなぁ……。リレーなんて、絶対に無理だ」


 康政にも大きく頷かれた。


「まぁ、謙人はまず無理だな。大体お前、リレーとかやったことあんのか?」


 確かに言われてみると……、中学の時は一回もなくて、小学校も……


「幼稚園の時にやっていると信じたい」


「おまえ、それはやったに入らなくねぇか?」


 え、幼稚園ダメ?そもそも幼稚園でもやったかどうかわからないけど。


「まぁ、とにかく俺は地味なのに出るとするわ。康政は、なんか頑張れ!」


「すごくどうでもいい感じのオーラ出しまくりの応援をサンキューな。俺は今年もリレー出たいなぁ」


 康政なら出れるだろう。皆、こいつが足早いのは知ってるし。


「高田さんって足早かったんですね。私は遅いので、すごいと思います」


 そうだよなぁ、やっぱり憧れるよなぁ……。


「ねぇ涼風。涼風もやっぱり、運動できる男子のほうが良い?」


 ところが涼風から返ってきた答えは意外過ぎるものだった。


「私はどっちでもそんなに気にしないですよ。だって、私が好きなのは、謙人くんですから。謙人くんがもし運動がすごくできても好きですし、今の謙人くんも大好きです」


 俺は涼風を膝に乗せて、後ろから抱きしめた。


「まったく……涼風は俺を慰めるプロなのか?本当言うとさ、ちょっと今、嫉妬したんだ。運動ができるやつに。やっぱりそのほうが良いのかな~って」


「謙人くんが運動神経抜群でしたらかっこいいとは思いますけど、そうしたらもっと他の女の子に人気になっちゃうと思うので、私としては今のままが良いですね。謙人くんには……私だけを、見ていてほしいので……」


 俺は涼風をぐっと引き寄せてささやいた。


「大丈夫だよ。俺は涼風しか見てないから。どんな子に言い寄られても絶対に大丈夫だと言い切れる自信がある」


「謙人くん……私、本当に優しい謙人くんが大好きです……!」

「俺もだよ、涼風……」


「お~い、お二人さん。ここ、ど~こだ?」


 あ、しまった。そういえばここ、教室だ。


 気づけばクラスの全員から注目されてしまっていた。しかし今では、そこに妬みの視線はほとんどない。皆、俺たちのことをようやく諦めてくれたようだ。今では興味深そうにこっちを見ている。




「なんだよ~、せっかく姫野さんの前で、運動できるアピールして振り向かせようと思ったのに……」


 康政、そんなことを考えていたとは……、油断ならんな。

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