第79話 解決

「さて、お前たちもなぜ呼び出されたのかはもう分かっているかもしれないが……、他でもない堺の事だ。昨日、俺も直接堺と話して色々と聞いたんだ。全て謙人が言っていた通りだった。それで、校長のところにあいつと話に行って、暴力沙汰にして、さらに相手に怪我も負わせたから停学じゃ済まないだろうと……。そういうわけだ」


 そうだったのか……。あっさり認めたということは、彼女も彼女なりにしっかりと反省したのだろう。かといって処分がなくなるわけもなく、退学になったと……。


「そうなんですか……。やっぱりちょっと、かわいそうですね……」


「涼風……」


 涼風は本当に悲しそうな顔をしていた。この話を聞いた、彼女なりの本心なのだろう。自分を傷つけた相手のことも思いやれる人など、なかなかいないと思う。彼女は本当に心がきれいで優しい人なんだ。


「ま、そういうわけだから、二人はこれからも普通に学校生活を送ってくれ!これからは俺ももっと生徒の事をしっかり見るようにするからな!」


「先生、色々とありがとうございました。家の事も黙っててもらえたみたいだし……」


 先生は何を言っているのか分からないという顔をした。


「家……?何のことを言ってるんだ?」


「いや、だから、……同棲の事ですよ」


「あぁ!そういえばそうだったな!なんか色々あってすっかり忘れてたわ!そうだったそうだった!だから昨日の朝、謙人から電話貰ったんだよな」


 うん、この人やっぱりただの馬鹿なんだ。いくら色々あったからって、生徒の同棲話忘れる人なかなかいないでしょう?流石だね……。


「おい、謙人?」


「な、何も考えてなんてないですよ~!そ、それじゃ、授業あるんで、また!」


 危ない危ない。





 放課後、俺は今日も涼風と一緒に帰宅した。


「謙人くん!今日は私がやります!」


 おっ!久々の帰ってきた癒しタイム!


 涼風はさっと玄関のドアを閉めると、しばらくしてからエプロン姿で登場した。


「おかえりなさい、謙人くん!お風呂にしますか?ご飯にしますか?それとも……?」


 うん、やっぱり涼風は元気なのが一番だよね!


「もちろん涼風で!」


 玄関先で、俺たちはいつもより長い間抱きしめあった。




「なんだか今日は、疲れましたね……」


 病み上がりで登校したからか、涼風は少し疲れているようだ。今も夕飯を食べ終わってソファーですこしぐったりしている。


 俺は隣に座って、涼風の頭を自分の膝の上に乗せた。


「け、謙人くん?どうしたんですか?」


「うん?涼風がお疲れのようだから、癒してあげようかと思って。今日は甘やかし特上コースでどうですか?」


 涼風は顔を真っ赤にしてぼそっとつぶやいた。


「……毎日それがいいです……」


 可愛すぎるんだけど⁉はぁ……、もう俺は涼風を見てるだけで癒しになる……。


「了解しました!」


 俺は涼風の頭に手を添えて、そのさらさらな髪の毛をやさしく撫でた。涼風も気持ちよさそうに目を細めている。


 それから涼風を膝の上に乗せて、バックハグをしながら耳元で涼風を褒めまくった。涼風は耳まで真っ赤にして、俺の胸に顔を埋めてしまった。


「そんなことしちゃったら、せっかくの涼風の可愛い顔が見えないよ」


「さ、さっきから、け、謙人くんが、異様なまでに、私をドキドキさせてきます……」


「言ったじゃないか?今日は甘やかし特上だって。あ、今日はじゃなくて今日からか」


 涼風は勢いよく顔を上げて、首を横に振った。


「そ、そんな、毎日なんて、私恥ずかしくて、耐えられないですよ!」


 俺はすかさず涼風を抱きしめた。


「もう、可愛すぎる!涼風は絶対、誰にもあげな~い!」


 涼風は恥ずかしさで固まってしまっている。俺はさらに畳みかけた。


「一生大切にするからね!義治さんにはいつ話に行けばいいのかな~?あ!結婚式はどこでやりたい?海外なんかもいいよねぇ~。涼風のウェディングドレスとか、もうとびっきり可愛いんだろうなぁ……」


「け、結婚式……!はぅぅぅ……」


「将来が楽しみだなぁ……!でも、恋人っていう関係の今もとっても楽しいよ!涼風とこうして毎日一緒にいられるし!」


 涼風もとびきりの笑顔で答えた。


「私も毎日とっても楽しいですよ!謙人くんと一緒にいられて幸せです……!しょ、将来も、ずぅ~っと一緒にいたいですし……」


 なんて嬉しいことを!もう、今すぐにでも婚姻届けを提出しに行きたい!


 俺は涼風をもっと強く抱きしめた。


「もう、そうやって涼風は可愛いことを言ってくれるんだから!ますます涼風が好きになっていくよ。もう、絶対に離さないからな?」


「わ、私だって、謙人くんは誰にもあげません!私の将来の、だ、旦那様なんですから……」


 え?もう襲っていい?旦那様って、涼風にそんなこと言われたら、俺の理性なんて吹っ飛んでくよ?それこそ涼風を頂いちゃうけど?


「じゃあ、涼風は俺のお嫁さんだ!奥さんって言ったほうがいいのかな?」


「お、お嫁さん……!お、奥さん……!」


 はぁ……!涼風が可愛すぎるよぅ……!帰ってきて、涼風の笑顔を見れば、きっとどんな辛い仕事でも平気にこなせると思う!


「これからもよろしくね、涼風。それと、愛してる」


「私も、末永くよろしくお願いします!あ、愛してます……」


 将来の事を考えた、そんな夜だった。

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