第78話 休み明け

 さて、俺たちは無事、涼風の体調も回復して今学校に向かっているわけなのだが……、


「け~んとくんっ♪」


 なんだか涼風がめちゃくちゃ甘えてくる。いつもは恋人つなぎするだけなのに、今日は涼風が腕まで絡ませてきている。


 いや、もちろん嬉しいよ。もうそれは飛び上がりそうなんだけど、だけどね?そういう可愛い顔は二人だけの時にしてほしいんだよね……。ほら、今だって、通りすがりの変なおじさんが涼風の事がん見してたし……。


「ねぇ、涼風。甘えてくれるのはめちゃくちゃ嬉しいんだけどさ、もうちょっと控えめにっていうか……」


「えっ……、いやでしたか……。ごめんなさいっ!謙人くんがそんなこと思ってたなんて知らなくて!」


 えっ?いや、そういうことじゃなくてね!


「涼風、違う、違うよ!これは俺のただの独占欲の問題なんだけどさ……、あんまりそういう涼風のとびきり可愛い顔を、他の知らない人に見られたくないんだよね。俺の方こそごめん。こんな面倒くさいやつで」


 涼風は怒るどころか、柔らかく微笑んでくれた。


「面倒くさくなんかないですよ。それに私、言ったじゃないですか?謙人くんになら独占されたいって」


 あぁ、もう可愛すぎ!俺は涼風の手をもう一度ぎゅっと握った。



 そして、1日ぶりに学校に来たわけだが、涼風と一緒に廊下を歩いていると、前方からなにやら集団が近づいてきて、俺らの前で止まった。


「師匠!お疲れ様です!昨日は欠席されていたと聞きまして、とても不安でしたが、とくにお二人ともお変わりありませんようで安心しました!」


「あ、あぁ……うん、特に何ともなかったよ。それよりさ、師匠っていうのは……ね?」


 ところが彼らは全く聞いていないらしく……


「師匠!早速なんですが、彼女を甘やかすための第一歩はなんでしょうか?」


 えぇ、自分で考えてよ。俺は早く教室で涼風と一緒にいたいんだけど……。


 俺は涼風をぎゅっと抱きしめて、耳元で「愛してる」とささやいた。急な出来事に涼風もびっくりしたらしく、顔は真っ赤だ。


「これでいいんじゃない?涼風にはよくやってあげてるけど……」


「し、師匠はやはりレベルが高いですね……!わ、我々にはとても……」


「お前らの愛はその程度なのか?お前らはその程度しか彼女を愛することが出来ないのか?」


「はっ!わ、我々が間違っていました!今から行って、実践してきます!」


 ふぅ。やっと行ってくれた。これでようやく教室に入れる……。


 教室の方へ歩き出そうとすると、涼風にクイクイと袖を引っ張られた。


「ん?どうした涼風?」


「あ、あの、私だって、謙人くんの事、愛してますよ?」


「ぐはっ!」


 涼風さん。袖クイクイ+上目づかい+真っ赤なお顔+可愛すぎるセリフ=オーバーキルだって……。俺のHP、今ので全部持っていかれたんだけど……。


「さ、さあ、謙人くん。早く教室に行きましょう!」


 なんだかんだで、涼風も結局恥ずかしいんだな。可愛いやつめ……。




 教室に入ると、全員から話しかけられた。


「ねぇ!二人して昨日休んでどうしたの?」

「お、おい、南。まさか、お前……」

「ひ、姫野さんと、い、一線を……?」

「なになに?二人でさぼってデートでもしたの?」


 う~ん、説明が面倒くさいな。適当にやり過ごすか……。


 隣を見ると、涼風も困ったような顔をしている。それでも相変わらず、涼風は俺の腕に抱き着いている。


「は~い、席に就け~!」


 志賀先生の大きな声に、クラスは一気に静かになって、それぞれ自分の席へと戻っていった。


 ふぅ……ひとまずは助かったな……。


「よし、出席とるぞ~!あ、二人は復活したんだな!姫野はもう大丈夫なのか?」


「はい、もう大丈夫です!その、け、謙人くんが……」


 あ、待って。涼風、それ以上言ったら!


「看病してくれたので、すっかり良くなりました!」


 あぁぁぁぁぁぁぁ!終わった……。同棲ばれた……。


 クラスのやつらは、反応ないけど引いてるのか?そりゃそうだよな。同棲してるなんて、なかなかいないもんな。


 ところが、クラス中から響き渡ったのは、なぜか拍手だった。


「南くん、優しすぎるよ!」

「わざわざ涼風ちゃんの家まで行って看病するとか、神すぎ!」

「南~、お前まじで良いやつなんだなぁ~!」

「南!俺は今、すごく感動している!彼女のためにそこまでするやつ、なかなかいないぞ!」


 えっ、皆さん、考えるのそっちなんですか?それはそれでびっくりなんだけど……。


 すると志賀先生が、声のトーンをすこし落として言った。


「それと、堺は事情があっていきなり転校することになったんだ。急だったから、驚いてる奴もいるかもしれないけど、まぁそういうことだから。……謙人と姫野、ちょっと来てくれるか?あ、ホームルームは終わり~!」


 正直、あの話を朝からされるのは気が進まないが、やはり聞いておかなければならないだろう。


 俺と涼風は少し緊張した面持ちで、先生の後について行った。






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どうも、はちみつです。


本作のPVがだいぶ伸びてきているので、ここらで一旦、もう一つの宣伝をさせていただきたいと思います。


https://kakuyomu.jp/my/works/1177354054898335574


もう一つの作品は、短編の『五年の時を経て、君と』です!こちらはシリアス要素は特になしの、幼馴染っぽい距離感にある二人のラブコメになっています!5話完結の読みやすい話なので、是非お願いします!



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