第73話 処分

「失礼しました」


 俺は一通りの用事を済ませ、保健室へと急いだ。


「涼風、戻ったよ。大丈夫か?」


 涼風はベッドの淵に腰掛けていた。足には氷があてられている。


「あ、謙人くん。お帰りなさい」


 涼風は俺を見ると、とても安心したように顔を綻ばせた。


「うん。足、痛むか?」


「はい、こっちはまだ痛いです……」


「ひねって軽く捻挫してるから、しばらくは痛むと思うよ。あんまり長い時間歩いたり、走ったりしないでね」


 先生が説明してくれた。捻挫か……、痛いだろうな……。


「はぁ……できることなら変わってあげたい。涼風……」


「大丈夫ですよ、謙人くん。すぐに良くなりますから」


「いいわねぇ~。姫野さんったら、愛されてるわね~」


 涼風がポッと顔を赤くして、こくりと小さく頷いた。いつもの涼風だ。なんか、とっても安心した。


「それじゃ、帰るか。もう暗くなりだしたし」


「あなたたち、家は近くなの?あれだったら、タクシーとか使ったほうがいいと思うけど……」


「あ、その辺は、志賀先生に頼んであるので大丈夫です」


「そういうことね……。あなた、彼女さんのために、偉いわね」


「いえ、涼風を守るためなら、こんなことお安い御用です!それじゃ、ありがとうございました」


「先生、ありがとうございました」


 先生はにっこりと微笑んだ。


「早く治るといいわね。それから、お幸せに」


「「はい!」」



 保健室を出ると、涼風が不思議そうに聞いた。


「謙人くん、さっき言ってた志賀先生に頼んであるって、どういうことですか?」


「あぁ、実はさっきな……」


 俺は事の顛末を涼風に話し始めた。




 20分前。


 俺は廊下でプリントとスマホを回収して、職員室に向かった。


「失礼します。志賀先生はいらっしゃいますか?」


「お~い、謙人。お前、遅ぇよ……。一体コピーに何時間かかってんだ?」


「志賀先生、お見せしたいものがあるんですが、今いいですか?」


 俺の真剣な表情に先生も何か察したのか、俺の方を向いて、小さく頷いた。


「実は、さっき、涼風が堺に誘われて一緒に帰ったと言ったじゃないですか。あれ全部、堺の嘘だったんです」


「それは……どういうことだ?」


 俺は先生に、スマホに入っている動画を見せた。そこには、涼風が堺に頬を殴られる様子がしっかりと映っていた。


「おい、謙人……これって……」


「はい。どうやら堺は、俺が涼風と仲良くしているのが気に入らなかったらしく、その腹いせに、涼風を痛めつけようとしたそうです。俺が止めに入ったら、涼風を教育してやるところだったと言われました」


「まじかよ……」


 先生は頭を抱えた。無理もないだろう。自分のクラスの生徒がこんな暴力をふるっていたなんて知ったら。


「それで、肝心の姫野は今どこにいるんだ?」


「頬と、足もひねってしまったようだったので、保健室に連れていきました。今は手当てをしてもらっていると思います」


「そうか……なら一安心だ。よくやった謙人。後は、俺が校長とかと話しておくから、任せてくれ。……これは、一番軽く済んでも二週間の停学だな……」


 停学か……。個人的には追放してほしいくらいだけど、学校の決定に口をはさむわけにもいかないからな……。


「それで、今から帰ろうと思うんですが、彼女足が痛いようで……」


「そうか……、んじゃタクシーを学校の方で呼んでやるから、帰れそうになったら言ってくれ。……ちなみに、家はお前ら近いのか?」


 う~ん……、先生には言っておくべきなのかな?言わないと、この人も一緒に乗ってきそうだな……。


「実は……一緒に暮らしてるんです。もちろん、両方の親公認で」


 先生はたいして驚いたそぶりを見せずに話を聞いていた。


「そうか……。なんとなくそんな気はしてたんだよなぁ~。お前ら、仲良すぎるから……。あ、でも、高校生らしいイチャつきをしろよ?間違っても……?」


 そこは誓っても大丈夫だ!俺の理性は素晴らしく強固だからな!


「はい!そういうことは、お互い結婚してからにしようと話しました。だから、大丈夫です!」


 今度は先生も驚いたようだ。


「結婚て……、そんなことまで考えてるのか?」


 え?おかしいことかな?普通はそうじゃないの?


「涼風の両親に、次来たときは涼風を貰いますって言ってありますけど……?」


 するとなぜか先生は深くため息をついた。


「はぁ……。お前らはいいな……。両親までもう認めてくれてるなんて……。俺は苦労したからな……」


 あ、そういうことか!確かに俺も娘ができて、先生みたいな人が貰いに来たら、すぐに断ると思う!


「なぁ謙人。お前今、すご~く変なこと考えてないか?」


「えっ?か、考えてないですよ~。そ、それより、そろそろ涼風を迎えに行ってきてもいいですか?帰って晩御飯も作らないといけないので」


「お前、晩御飯を作ってるのか⁉早くも尻に敷かれてんのかよ……」


「は?涼風が毎食作るのは大変だから、俺の方から作らせてくださいって頼んだんですけど……。そんなに変ですかね?」


「いや、なんかもう、いいや……。早く迎えに行ってやれよ。待ってると思うぞ?」


「はい、そうしますけど……?あ、同棲してることは、クラスの奴らには内緒にしておいてくれませんか?」


「あぁ……そのつもりだよ……」


 なんだかよくわからない人だ。そんなに俺がご飯をつくることはおかしいのか?




「……な~んていうことがあったんだ。だから、先生がタクシーを手配してくれるってわけ」


 一通り話終わると、涼風も納得がいったというように、大きく頷いた。


「やっぱり、謙人くんは優しくてかっこいいですね……!私、謙人くんが大好きです!」


 今の話の中に、優しくてかっこいい要素はあったのか?まぁでも、涼風からの好意はありがたく受け取っておこう。


「ありがとう涼風!俺も涼風が大好きだよ!」


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