第70話 募る不安
「あいつら……涼風に告白しに来たんじゃなかったんだな」
とりあえず、面倒なことにはならず、ほっと一息だ。
「でも、私は誰に告白されても全てお断りしますよ。だって、私が好きなのは……謙人くんですから……」
「うん、ありがとな涼風。でも、なんか、涼風が他の男子から告白されるのって、見てて耐えられない気がするんだ。なんかごめんな。独占欲ってやつだな……」
「謙人くん……。私は謙人くんに独占されたいです。だって、そうすれば、謙人くんの心は私でいっぱいになって、他の女の子に盗られる心配が減ります」
「もうすでに、俺の心は涼風しかいないよ。涼風しか見えてないんだから」
そう言って涼風をぎゅっと抱きしめる。
「えへへ」
涼風も嬉しそうにしてくれている。これはなおさら、涼風に手を出そうとするやつには注意しないといけないな……。
そんなこんなであっという間に昼休みも終わってしまった。あぁ……。午後の授業、消えてくれればいいのに。そしたら今すぐ涼風と帰っていちゃいちゃできるのに……。
まぁ、そんな奇跡が起きるわけもなく、普通に午後も授業を受けて、ようやく待ちに待った放課後になった。
さて、いよいよ涼風と帰れるぅ~~!今日の夕飯は、何にしよっかな~?
「涼風~帰ろ~」
「謙人くん!帰りましょう!」
うん、いつも通り、息もぴったり!今日も絶好調だ!
今日は涼風をどうやってデレデレにしよっかな~なんて考えていると、後ろから声がした。
「姫野さん、一緒に帰らない?」
えっ……?す、涼風を盗ろうとするのは、いったい誰だ……?
恐る恐る振り返ると、そこにいたのは……堺だった。
「ね、南いいでしょ?あんたいつも姫野さんと一緒に帰ってんだから」
う~ん……非常に悩ましいところではあるけど、涼風にはいろんな人と仲良くなってもらいたいからな。あ、もちろん同性限定で。
「仕方ない。じゃあ、涼風。俺はここで」
「はい、また明日……」
「サンキュ~!南~!」
クラスの奴らには同棲していることは黙っているため、今日はここでさようならっていう感じにしておく。非常に悲しいけれど、仕方ない……。
俺がトボトボ廊下を歩いていると、担任に声をかけられた。
「おう、謙人!珍しく姫野と一緒じゃないんだな……って、お前、顔が死んでるぞ?」
俺は仕方なく、涼風と一緒に帰れなくなったわけを話した。
「はっはっはっ!そりゃ、お前、姫野だって友達付き合いとかあるだろう?そんなの仕方ねぇじゃねぇか!がっかりしすぎだろ」
そうだけどさ……。やっぱ、嫌なもんじゃないの?
「じゃあ、仮に先生は、石井先生が飲み会に誘われたとか言ったらどうしますか?もちろん、先生は行けません」
「いや、そ、それはだな……」
「ほら、やっぱり嫌でしょ?俺も今、それと全く同じ気持ちなんですよ……」
「まあまあ、そう落ち込むなって。気晴らしに、手伝ってくれないか?どうせ、姫野がいなけりゃ、お前も暇なんだろ?」
この人は俺を何だと思ってるんだろう……?涼風依存症?う~ん、否定できない。
「色々言ってるけど、先生が面倒くさいだけなんじゃないですか?」
「そ、そんなわけないだろう?こ、これは、お前のためにだな……」
わっかりやす……。まぁ、気晴らしにはなるかな?
「いいですよ、手伝います。それで、何をしたらいいですか?」
「おっ!彼女がいなくても強く生きていくって?いや~たくましいね、けんちゃんは!」
「先生、さようなら!それと、石井先生に、旦那が女子高生見て鼻の下伸ばしてたって報告しておきます!」
「ちょ、ちょっと待て!嘘は良くないだろう、嘘は?」
自業自得じゃね?そもそも俺にちょっかい出さなければ良かった話なのに……。あ、わかった。この人馬鹿なんだ!
「おい、謙人。お前今、すごく失礼なこと考えてないか?」
「うぐっ……。そ、そんなことあるわけないじゃないですか~。それより、何したらいいんですか?」
「怪しい……。ま、いっか」
馬鹿でよかった~。
先生は俺に、明日授業で使う資料のコピーを図書館でしてきてほしいと頼んだ。それって、軽く40部は刷らなきゃいけないんでしょ?めんどくさ……。
引き受けてしまったことには断るわけにもいかず、結局俺は十分くらいひたすらコピー機の画面とにらめっこしていた。
はぁ……涼風。涼風成分がもう底を尽きたよ……。はやく俺のもとへ戻っておいで?
涼風がいない寂しさと、放課後の疲れで、俺はふらふらと、コピーしたものを抱えながら職員室に向かった。
だが、たまたま外を見て、目にしてしまった光景に、俺の疲れやだるさなどは吹き飛んでしまった。
そこからは手段なんて選んでいられない。コピーした紙の束を廊下に無造作に置いて、俺は慌てて校舎裏に駆けていった。
頼む!涼風、無事でいてくれ!どうか、間に合ってくれ!
俺がたまたま目にしてしまった光景。涼風は、堺とその取り巻きどもに……
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