第69話 慣れてきた学校生活

 それから、一週間ほどが経ったある日、俺は今日も涼風と一緒に登校していた。朝も帰りも、涼風と手を繋いで校門を通り抜けるのが日課になっている。


「謙人くん、今日も頑張りましょうね!」


 涼風はいつも、昇降口でそう俺に言ってくれる。


「うん!涼風の笑顔を見たら、頑張れる気がするよ!」


 そう言いながら涼風の頭をなでるのも、これまた日課だ。


「朝からお熱いねぇ!毎日毎日、あんたら本当に仲が良いんだから!」


 そう話しかけてくるのは、最近俺たちに話しかけてきて、それからというもの何かと一緒にいるクラスメイトの堺杏夏さかいきょうかさん。


「あ、おはようございます、堺さん!」


「うん、おはよ、姫野さん。二人は今日も絶好調なんだね?」


「あぁ、涼風のおかげでな」


 そう言ってまた涼風の頭をなでると、涼風は人前だからか恥ずかしがって顔を赤くした。可愛い……。


「……あたし、先に教室に行ってるから」


 なんだか堺の声が暗くなったような気がしたけど、気のせいだろう。



 その時、彼女が俺たちの事を感情のこもっていない冷めきった目で見ていたということは、知る由もなかった……。





 教室に入ると、彼女は他の友達と仲良くお喋りしていた。


 やっぱり、暗く感じたのは俺の勘違いだろう。だって、楽しそうに話してるじゃん。


 俺は荷物を下ろしてから、涼風と一緒に椅子に座った。そう、に。


 涼風が教室で、俺の上に座ること。これまた日課の一つなのである。


「ここはもう、涼風の定位置だな」


「謙人くんといると、どうしても謙人くんにくっつきたくなっちゃって。その……いや、ですか?」


 またそんないじらしいこと言っちゃって~!涼風たんはどれだけ俺を悶えさせるつもりなのかな?


 俺は涼風のおなかに手をまわして、後ろからぎゅっと抱きしめた。


「いやなわけないでしょ?俺だって、涼風が近くにいてくれて嬉しい」


 涼風は耳まで真っ赤だった。そんな様子をクラスのやつらは……


「ぐぬぬぬ……。う、羨ましい……」

「よ、よくも……!南のやつ……!」

「俺もあんなことしてみたいなぁ……」

「私も南くんにああやってされたいかも……」

「南くん、本当にかっこいいんだよねぇ……」

「でもさ……」


「「「あの雰囲気じゃ、どう頑張っても絶対に俺(私)たちなんか無理って分かっちゃうんだよねぇ……」」」


 ようやく俺たちの事は諦めてくれたようです。これで面倒くさいこともなくなったな。めでたしめでたし。




 そして、昼休み。最近は涼風見物も少なくなったので、二人で教室で食べている。もちろん、涼風は俺の膝の上だ。


「はい、涼風。あ~ん」

「あ、あ~ん」


 相変わらずちょっと照れながら食べる所が何とも可愛い。そんな感じで、和気あいあいと昼ご飯を食べていると、廊下がざわざわしだした。


 なんだろう……?まさかとは思うけど、涼風関係じゃないよね?


 これまで俺の見せつけの甲斐あって、まだ涼風が告白された回数はゼロをキープしているが、いつどうなるかは分からない。出来ればこのまま誰にも干渉されない平和な日々が続いてほしいのだが……。



「失礼します!姫野先輩と、南先輩はいらっしゃいますでしょうか?」


 後輩か……。高2のクラスに一人で突入してくるなんて、勇気あるんだな。


 と、思ったんだが……


「失礼します!」

「失礼します!」

「失礼します!」

「失礼します!」


 え、まさかの五人で突入?しかも全員、男。これは俺、生きて帰れるのか?


 涼風を見ると、彼女もまた不安そうな顔をしている。俺は涼風の手をぎゅっと握った。


「大丈夫だよ、涼風。俺が何とかするから、心配しないで」


「で、でも、もし謙人くんになにかあったら……」


 俺は涼風の頭を撫でて、彼女を落ち着かせようとした。するとなぜか……


「おぉっ!流石は南先輩だ!ここでさらっとそういうことが出来るとは……!」


 え?なんか、思ってた反応と違うんだけど……?


「えっと……君たちは、ここに何の用事で?」


「あ!申し遅れました!俺たち、南先輩の弟子になりたいんです!」


「……は?」


 要約するとこういうことだ。彼らは一個下の後輩で、最近俺と涼風が付き合っていることを知ったらしい。そして、俺が涼風を甘やかしの達人であるという噂も……。


「それで俺たち、どうしたら彼女に対してそんなにまっすぐになれるのか、お二人のもとで勉強させていただきたいんです!」


 そう、彼らは全員彼女持ちだった。そして、彼女に対して素直になれず、困っているらしい。そんなわけで俺にまっすぐになれる方法を聞きに来たわけだけど……


「それなら俺から言うことは一つだけだ。いますぐ彼女のもとに行って、愛をささやいてこい」


「「「「「はい、師匠!」」」」」


 師匠になったつもりはないんだけどな……。


「謙人くんはいつも私にまっすぐで、優しくしてくれますよね。……大好きです!」


「ぐはっ⁉」


 そ、その不意打ちはつらいっす……。涼風さん、無意識でそういうめちゃくちゃドキッとすること言うから、まじで心臓に悪いって。


「あの南先輩が悶えたぞ!」

「えっ!あの南先輩が!」

「姫野先輩、いったい何者なんだ……」

「南先輩を一撃で……。強すぎる……」


 その様子はばっちり彼らに見られていたらしいです……。






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