第49話 初のお仕事!①

「それじゃあ、お店を開けるから、二人ともスタンバイよろしくね!」


「「はい!」」


「……って言っても、お客さんが来るの、大体お昼近くなってからなんだけどね?」


 俺の意気込みを返してください……。でも、それまでできることはやっておいたほうが良いよな!今日は雇われの身ですから!


「まずは何をすればいいですかね?」


「そうねぇ……。思う存分にあなたたちの愛を語り合って!私に聞かせてちょうだい!」


 うん、やっぱ康政と血つながってるわ、この人。今、俺の中で疑問が確信に変わったよ。……この人、よくこんな調子で店なんか経営できるよな。


「あ、愛、ですか……。えっと、どんなことをすれば……」


「あははっ!涼風ちゃんったら、まじめなのね?今のは冗談よ、冗談」


 涼風の顔が真っ赤になった。やっぱり、高田家の人間とは深くかかわらないほうが身のためかもしれないな……。


「じゃあ、二人には……テーブルでも拭いておいてもらおうかな?」





 そして、なんだかんだでお客さんが来るのを待つこと三十分。


「いらっしゃいませ~」


 本日一人目のお客様が来店した。


「こんにちは。あら?見慣れない子たちね。バイトの子?」


 どうやらこの人はこの店の常連さんだったらしい。店長さんとも親しげに喋っている。


「今日は、皆都合が悪くて来れなくてね。それで、康政君のお友達に助けに来てもらったの」


「あぁ、そうだったのね。それじゃ、若いお二人さんに注文してもいいかしら?」


「「は、はい!」」


 いよいよ初の実戦任務だ!自然と身体が緊張してしまう。大丈夫だ……。注文を聞くだけ、注文を聞くだけ……。


「ご注文お決まりでしたら、お伺いいたします」


 えぇっ!涼風さん、すごくないですか⁉あなた今までどこかで経験したことあるんですかね?


「じゃあ、これをお願いします」


「かしこまりました。少々お待ちください」


 涼風が厨房の方へと入っていこうとしていたから、俺も後を追った。


「す、涼風。注文聞くのとか上手過ぎない?もしかして、アルバイトとかしてたの?」


「いえ、違いますよ。明日は料理屋さんでお手伝いだって思ったら、知っておかなければいけないことがたくさんあるような気がして。昨日の夜、いろいろなサイトを見て、挨拶の仕方などを一通り勉強してきたんです」


「涼風は偉いな。ほんと、俺も見習わなくちゃな!」


 俺は涼風の頭を優しくなでた。これ、最近の俺の一番のお気に入りかもしれない。


「えへへ。謙人くんに褒めてもらえるなら、頑張った甲斐がありました!もっと頑張ります!」


「でも、頑張り過ぎないようにしてね?それでもし涼風に何かあったらって考えると……」


「謙人くん……。私を大切に思ってくれて、ありがとうございます。嬉しいです……!」


「本当に、俺にとってはこの世のどんなものよりも、お金なんかよりも涼風の方が大事なんだからね」


「謙人くん……!私も謙人君の事、とっても大切ですよ。きっと謙人くんがいなくなってしまったら、私、もう生きていけません」


「じゃあ、そうならないためにも、二人でずっと一緒にいような」


 涼風は顔にぱあっと花を咲かせた。


「はい!」



「二人とも。そこで愛を確かめ合ってるのもいいけど、今は一応、仕事中だからね?」


「「す、すみません!」」


 俺たちはしばらく、恥ずかしさで目を合わせることができなかった。職場で愛を叫ぶのはやめておこう。



 それから二時間ほどはお客さんがひっきりなしに続いた。正直、忙しすぎて周りに見られてるとか、涼風が狙われているかもとか、そういうことまで全く気が回らなかった。ただ、一回だけ、あれは面倒くさかった……。


 丁度、正午を回ったころ、背の低い、まだ中学生に見える女の子が、会計のために席を立った。たまたま手が空いたこともあり、俺がレジに向かったのだが……


「あ、あの、これ!私の連絡先が書いてあります!」


 うわぁ……店長さんの言ってたこと当たっちゃったじゃん……。面倒くさいなぁ……。


 真っ先に反応したのは、俺の中ではもうこの店の看板娘、涼風だった。


「あ、あの!当店では、そういったことはお断りしていますので、どうかご遠慮ください」


 おい、涼風?助けてくれるのはありがたいけど、勝手にルール付けくわえちゃっていいの?


 まぁ、あの人なら「そうなんだ~」くらいのノリで話終わらせそうだけどな……。


「あの、それでも、受け取ってもらえませんか?別に連絡していただかなくてもいいんです!」


 ん?それって裏を返せば、私から連絡しますって言われてるようなものじゃないの?


「と、とにかく、ダメなものはダメなんです」


 涼風、落ち着いて。そうムキにならずに……。俺はカウンターの下で、お客さんには見えないように、こっそり涼風と手をつないだ。


「なんであなたにそんなに言われなきゃならないんですか!私は今、こちらの男の人と話しているんですよ!」


 なんか始まっちゃったんですけど。これが修羅場ってやつなのか……?女の子って、怖い……。



 さて、困った困った。誰か、助けてぇ~!


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