第47話 遭遇

「あれ?謙人じゃねぇか。こんなところで一人か?」


 何ということだ……。まさかこんなところでやつに会うなんて……。全く持って油断していた!


「謙人くん……この人は?」


 涼風がさっと警戒心を強めた顔をした。やっぱり知らない男の人だと自然と強張ってしまうようだ。


「大丈夫だよ。変な人じゃないから。こいつは前に話した康政だ。俺の中学時代の、ね?」


 涼風もどうやら思い出したらしく、はっという顔になった。ころころ表情が変わって面白い……。


「け、謙人さんや。ま、まさかとは思うけど……」


 あれ?そういえば言ってなかったっけ?


 俺は涼風をぐっと引き寄せて言った。


「紹介するよ。姫野涼風さん。この前の同窓会の時に、俺がちょっとだけ話題にした子だよ。それで、何といっても……俺の彼女だ!」


 同時に二つの顔が見えた。片方は自分のすぐ近くから。涼風が満面の笑みで俺に笑いかけた。そして、もう一つはというと……


「嘘だろぉぉぉ!お、おい、謙人。お前、だまされてるんじゃないのか?だ、だって、どうしたらお前が、そんなS級美少女と……」


 何でだろうなぁ?本当に。


「きっかけは本当にたまたまだよ。落とし物を拾ってあげたところから仲良くなってね。あれがなかったら、今頃はどうしていたかな?そう思うと、涼風と出会わせてくれた神様には感謝しないとね。それに、俺のこと好きになってくれた涼風にも!」


「それなら私も、神様と謙人くんに、いっぱい、い~っぱい感謝します!謙人くん、私を好きになってくれてありがとうございます!」


 眩しいよぉ……。涼風たん……。


 おい、外野。俺たちは今、最高にいい感じなんだから、唸ってないで黙って立ち去れ。


「うぅぅ~。謙人ぉ~恨むぞ~。お、俺を差し置いて、そんな、そんな美少女とイチャコラしてたなんてぇぇぇ!」


 本当にうるさいなぁ。よし!ここは涼風たんに粛清してもらおう!


「涼風、実は康政ってね……」


「えっ!この人、女たらしなんですか⁉な、なんだか怖いです……」


「大丈夫だよ。康政なんかに涼風は絶対に触れさせないから。こんな女たらしの変態野郎にはね?」


「か、彼女さん?そんな目で俺を見ないで……?心のHPがどんどん削れていっちゃうから……。それと謙人。よくも変なこと吹き込んでくれたなぁ?一発ぶん殴らせろ」


 もちろん冗談だと分かっているから、俺も軽く乗ってあげようとした。でも、ここには純粋で真面目な女の子がいたのだった。


「や、やめてあげてください!謙人くんは何も悪くないんです!私が口に出しちゃったから!だ、だから、謙人くんを殴るなら、代わりに私を殴ってください!」


「謙人……。姫野さん、良い人過ぎない?」


「だろ?……涼風、これは俺らの間では定番の冗談だから。本当に殴ったりはしないから大丈夫だよ?」


「本当ですか?」


 涼風がウルウルした目で俺を見上げた。どうやら本当に心配してくれたようだ。嬉しいけど、なんか悪いことしちゃったなぁ……。


 俺は涼風の頭をそっと撫でた。涼風も安心したように俺の腰に抱き着いてきた。


「お~い。俺のこと忘れてませんかね?」


 はっ!忘れてた!……なんてね?残念ながら、しっかり覚えてるよ。こんな時に、ムードなんか気にせずに割り込んでくる、非常識な馬鹿でしょ?


「うるさい。康政、邪魔だからどっか行って」


「謙人が女にうつつを抜かす日が来るなんて~!俺、泣いちゃうよ?」


「康政、一つ訂正させてくれ。俺は女にうつつを抜かしているのではなく、涼風だからうつつを抜かしてしまうんだ。俺もお前のような女たらしだと認識されたらいやだからな。そこは明確に区別させてくれ。俺は涼風一直線だから」


「謙人くん……!」


「二人とも本当に仲が良いんだな……。羨ましいわぁ……。俺も誰かとお前らみたいに親密になれたらなぁ……」


「何言ってんだよ。女たらしのくせに!あ、涼風は死んでも渡さないからな!」


「私だって、あなたみたいな女たらしはお断りです!謙人くんの方が何百倍もかっこいいです!」


「え、なんで俺、切実な思いを語っただけなのに、こんなにディスられてんの?」


「女たらしだから」

「変態さんだからです」


「うわぁぁぁぁん!この人たちが僕をいじめるよぉぉぉぉぉ!」


「「うわぁ……」」


 よくそんなことできますね?公衆の面前で泣きわめくとか、本当にどっか頭のねじ外れてんじゃない?


「な、なんだその目は!やめろ!そんな目で俺を見るなぁぁぁ!」


「はぁ……。とりあえず、こいつは放っておいて、買い物に行こうか?」


「そうですね。無駄な時間を使ってしまいました」


 俺たちは、騒ぎまくっている康政の脇を通り過ぎようとしたが、奴に腕を掴まれてしまった。


「ちょっと待ちな!ここであったが運の尽き。君たちに俺の頼みを聞いてもらおうじゃないか!」


「「嫌です」」


「待ってぇぇぇ!頼む!頼みます!ドリンク奢るから聞いてよぉ……」


「アイスティーで」

「アイスコーヒーで」


「もうやだ。この人たち怖過ぎる……。嫌い……」



 俺たちはひとまず、今出てきたばっかりのカフェにまたまた入っていった。


 一日に同じ店に三回も入るとか、初めてなんだけど……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る