第46話 おそろいの

「お疲れ、涼風。どうだった?」


 涼風は満面の笑みを浮かべている。


「はい!とてもよく分かりました!自信たっぷりです!」


 俺も嬉しくなって、涼風の頭をなでながら微笑んだ。


「それは安心したよ。涼風は本当に頭が良いんだな」


「えへへ。謙人くんに褒められると嬉しいです!」


 可愛すぎる!もうこのままずっとこうしていたいけど、流石にこの暑さの中、熱中症にでもなったら大変だもんな……。


「涼風、ここじゃ暑いから、駅まで戻って喫茶店にでも入ろうか。涼しいところでゆっくりしよう?」


 俺たちは駅まで戻って、さっきまでいた喫茶店にもう一度入った。


「頼んでくるけど、涼風は何が良い?」


「じゃあ、アイスティーをお願いします」


 なんかこうしてると、勉強を教えてもらったあの日を思い出すなぁ……。もうあれから四カ月も経つのか。


 なんだか懐かしくなって、俺もあの時と同じようにアイスコーヒーを注文した。



「涼風の試験終了に、乾杯!」


「ありがとうございます!乾杯!」


 二人きりのちょっとした祝賀会が始まった。俺たちの中では涼風の合格は決定事項になりつつあるから、もう合格祝いと言ってもいいのかもしれない。


「涼風と一緒に学校かぁ~!本当に楽しみだ!」


「私も楽しみです!……そういえば、お昼ご飯って、お弁当なのでしょうか?」


 そういえば、涼風に学校の事、説明してなかったな。


「うちの学校には食堂があるんだよ。だからそこで食べる人が多いけど、でもお弁当を持ってきてる人もいるね。ちなみに涼風はどうするの?」


 涼風はなぜか少し恥ずかしそうにしている。


「あ、あの、もし謙人くんが迷惑じゃなければ、お昼ご飯、私がお弁当を作ってもいいですか?」


 まじすか⁉


「本当に⁉めちゃくちゃ嬉しいんだけど!……でも、お弁当を朝からって、大変じゃない?」


「いえ、今までも作ってましたから。全然平気ですよ」


「じゃあ、お言葉に甘えて、お願いします!」


「かしこまりました!」


 これからは涼風のお弁当が食べれる……!早く学校始まらないかな~?楽しみすぎる!


「あ、そうだ!実は涼風に渡したいものがあってね……」


 涼風との話に夢中で、すっかり忘れてしまっていた。俺はカバンから白い箱を取り出して、涼風が見えるように開けた。


 そこには……


「おそろいの……指輪……?」


「ペアリングっていうんだ。なんか、おそろいのものがあってもいいかなって思って、涼風が試験受けてる間に、アクセサリーショップに行って見てきたんだよ」


「うわぁ……!すっごいすてきですよ!謙人くん!」


 どうやら気に入ってくれたようだ。俺が選んだのは、シンプルなシルバーの指輪だ。真ん中に、作り物ではあるが、小さなダイヤが入っている。


「涼風、右手を出して?」


 俺は、右手の薬指に指輪をつけた。


「いずれ、左手の方につけるものを用意するからね?」


 涼風も意味が分かったのか、顔を真っ赤にした。


「はい……私はずっと待ってますから……」


 けなげな涼風たんも可愛いけど、俺はそんなに待たせるつもりはない。すぐに迎えに来るからね?マイプリンセス?


 それから、しばらく二人でおしゃべりを楽しんでから、涼風が買いたいものがあると言うので、デパートへと行った。




「今使っているボールペンの芯がなくなりそうなので、替えを買っておこうと思いまして。こんなことに付き合わせてしまってごめんなさい」


 流石は涼風たん。俺なんか、買いに行くのなくなってからだよ?


「涼風は偉いな。それに、俺は少しでも長く涼風と一緒にいられて嬉しいから、全然そんなこと気にしないで」


「じゃ、じゃあ、お洋服も見に行ってもいいですか?せっかくだから、謙人くんの好みのものを買おうかなって……」


「俺の好みは涼風だからなぁ……。涼風が着るものならなんだってめちゃくちゃ可愛いと思ってるよ?」


「あ、ありがとうございます。で、でも、謙人くんの好みが知りたいんです。例えば、ズボンが好きか、スカートが好きかとか」


「俺は涼風が好きです」


「あ、あの、そうじゃなくてですね……」


 どうやら困らせてしまったようだ。これはいけない。


「ごめんごめん。でも、いろいろ着てみてもらってから決めたいなぁ。もしかしたら、やっぱりズボン!とか、やっぱりスカート!とかがあるかもしれないし」


「それもそうですね。では、行きましょうか」


 俺たちはお目当ての洋服屋さんまで歩き出した。すると……


「あれ?謙人じゃねぇか。こんなところで一人か?」


 どこかで聞き覚えのある、出来ればあんまり聞きたくないようなめんどくさそうな声が……


 俺が振り返ると、そこには間抜けな顔をした康政がいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る