第45話 編入試験へ……

 今日は八月三週目の土曜日。普段ならそろそろ夏休みが終わってしまうと嘆いているころだが、今年はそうはいかない。なぜなら今日は、涼風の編入試験があるからだ!


 もちろん、涼風の学力では全く持って心配ないとは思う。だが、万が一を考えてしまうと、完全には安心できない。


 そんなわけで、今日は朝早くから涼風の家を訪れている。


「謙人くん、そんなにそわそわしなくても大丈夫ですよ。私もばっちり勉強しましたから!」


「で、でもな……万が一を考えるとな……」


 こんな時、弱気になってしまうのが俺なのです……。


「私はむしろ、楽しみでいっぱいです!これからは学校でも謙人くんと一緒にいられるんです!朝は学校まで一緒に行けて、お昼ご飯も一緒に食べれて……楽しいことがいっぱいですね!」


 確かに、俺じゃどうにもならないことを心配するよりかは、受かった後のことを考えたほうが気が楽だし、楽しいか。


「うん、確かに楽しみだ!授業もさ、ペアワークとかあるから、ずっと一緒にいられるよ。あとは、涼風がやりたいなら俺も一緒に同じ部活に入るし」


「授業中も一緒にいられるなんて……!部活は、そうですね……。謙人くん愛好会がないなら入る予定はないです」


 俺の愛好会って、いったいなにをする会なんだ……?


「残念ながら、そんな部活はないなぁ……」


「じゃあ、入りません!放課後は謙人くんと一緒に帰ります」


「部活はないけど、家とかでだったらいつでも愛好してくれていいからね?もちろん俺も涼風を愛好するし」


「あ、あの、こっちに来てください……」


 涼風はソファーをポンポンと叩いた。ちなみに俺たちは今、床に座って机に向かっている。


 何でって?一応、涼風と一緒に勉強してるつもりだよ、一応ね?


 俺がソファーに座ると、涼風がその上に座った。俺は後ろから涼風に手をまわして抱きしめる。


「涼風は本当にここが好きだなぁ~。俺としても、こうしてれば涼風がすっごく近くにいるから最高だよ」


「えへへ。謙人くんのいい匂いがします。私、このにおい大好きです!」


「え~。においだけ?」


 すると涼風は少し照れながら言った。


「も、もちろん、謙人くんも大好きですよ?」


 やばい、可愛すぎる……!涼風が尊い……!


 俺は涼風をもっと強く抱きしめた。




 さて、そんなことをしているうちに、あっという間に試験に行く時間になってしまった。


「最後に確認とかしてないけど、大丈夫か?」


「はい!謙人くんが一緒にいてくれるだけで私は無敵です!」


 嬉しいなぁ~可愛いなぁ~。この子とこれから毎日一緒に学校に行けるなんて!


「じゃあ、もっと無敵になれるおまじないをしてあげようか?」


「なんですか?ぜひやってください!」


「んじゃ、遠慮なく……」


 俺は涼風にキスをした。


 ふっふっふ。涼風さんや、詰めが甘かったな!俺のおまじないと言ったら、これしかないだろうよ?さあ、どうする?


「あ、ありがとうございます……。すっごい頑張れる気がします……!」


 その返しは反則でしょ⁉口の前で小さく手を合わせながら顔を赤らめてぼそっとささやかないで⁉俺、涼風の可愛さに死んじゃいそうになるから!


 結局、詰めが甘かったのは俺の方だったようです……。



「じゃあ、頑張ってな。涼風ならきっと大丈夫だから」


「はい!じゃあ、行ってきます!」


 俺は高校の校門前まで涼風を見送った。今日は、学生であっても中には入れてもらえないらしい。


 涼風が校舎の中へ入っていってしまうと、俺は元来た道を、またバスに乗って引き返した。この間にどうしても買いたいものがあるからだ!


 駅まで引き返してきて、そのまま駅直結のデパートへと入っていった。そして、そのなかにあるアクセサリーショップへ。


「これを二つ、お願いできますか?」


「はい、かしこまりました。彼女さんとですか?」


「はい、そうなんです。こういうのもいいかなって思いまして……」


「優しい彼氏さんですね。それではこちらが商品になります。お幸せに」


「ありがとうございます」


 俺は時間をつぶすため、近くのカフェに入った。涼風が終わるまでまだ一時間ほどある。それまでここで待っていればいいだろう。


 俺は自分の携帯で、花火大会の時の写真を見ていた。浴衣の涼風、あれは本当にきれいだった。もちろん普段もとっても可愛いけど、やっぱり特別な格好をするとより一層きれいに感じる。


 ……また来年も、一緒に行けたらいいな。


 その時には、涼風をご両親に言って……。そのためにも、学校で涼風が変な目に遭わないように俺が気を付けないとな!


 そんなことを考えていたら、そろそろ涼風が終わる時間だった。俺は再びバスに乗って、校門前で待機していた。十分ほどして……


「謙人くん!」


 涼風が校舎から出てくるのが見えた。

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