第43話 花火大会⑥

 花火が終わった。見に来ていた人たちは次々にそれぞれの家路についた。俺たちはというと、お互いに俯いて頬を赤らめていた。『初めてのキスはレモンの味』なんてよく言うが、俺的にはあれは綿あめの甘い味だったと思う。


「す、涼風。そろそろ帰ろうか?」


「そ、そうですね……」


 どうしてもぎこちなくなってしまう。意識しないようにすると余計に意識してしまって、脳内がパンクしそうだ。……こういうところが恋愛初心者なんだよな。


「け、謙人くんは、ああいうことするのは初めてなんですか?」


「うん、は、初めてだったよ……涼風は?」


「わ、私もです。今までしたことありませんでしたので……」


 俺はそれを聞いて、嬉しかった。だってね……


「じゃあ、俺は涼風のファーストキスを奪っちゃったんだ。嬉しいな……」


 涼風の顔がもっと赤くなった。着物を着て頬を赤らめると、とっても色っぽく見える。この涼風は可愛いというよりも、きれいという感じだ。


「そ、そうですよ。あ、あれが私のファーストキ、キスだったんですからね?」


「これはもう、一生責任取るしかないね?それに、セカンドもサードも俺が奪っちゃいたいからね?」


 涼風は耳まで真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。



「あら、お帰りなさい。花火は楽しめたの?」


「はい、おかげさまで。お二人は行かなかったんですか?」


「うん……、行こうかなんて話してたんだけどね?ここからも見えるからいいかなってなって。庭で二人で見てたの」


 なんか、悪いことしたかな?


「あ、全然謙人くんのせいじゃないから、気にしなくていいのよ」


 この人、本当にエスパーじゃないの?なんで俺の思ってることがすぐにわかっちゃうのさ?


「それより、どうしたの涼風?さっきから黙っちゃって」


 おっと、これはまずいやつかな?涼風、変なこと言わないでくれよ……


「べ、別に、何でもないですよ⁉け、謙人くんとはなんにもなかったですから!あの感触が忘れられなくて、花火のことを全然覚えてないとか、そんなんじゃないですから!」


 涼風さん……全部言っちゃってますよ?


「あの感触?……ほほ~う。謙人くん、ついに奪っちゃったのね?」


 もう、観念するしかないのか。この人には本当、一生敵いそうにないな……。


「はい……」


 亜紀さんは目を輝かせた。


「それでそれで⁉どんな感じだったの⁉」


 涼風が意気揚々と暴露しだした。涼風……嬉しそうにしてくれるのはこっちも幸せなことだけど、流石に恥ずかしいよ……


「じ、実はですね、中学の時の同級生に会ったんです……」


 そこで亜紀さんの表情が少し硬くなった。きっと、知っていたんだろう。


「それで、いろいろ言われたんですけど……謙人くんが守ってくれたんです!その時の謙人くん、すごくかっこよかったです……!あ、もちろん、いつもかっこいいですよ?」


 涼風が可愛すぎるんだけど⁉めっちゃ一生懸命しゃべってるところとか、ちょっと慌ててるところとか……もう、最高!


「それで、その後一緒に花火を見て、ずっと一緒にいようって言ってくれて、それで、その……」


「キスしたのね?」


 涼風がこくりと頷いた。自分で話して恥ずかしくなったんだろう、顔が赤くなっている。可愛いやつめ。


「謙人くん、ありがとね。私たちも中学で涼風があんまりだってこと知ってたからあえてちょっと離れた高校に行かせたんだけど、まさか今日会うなんて思ってもみなかったから……。本当にありがとね」


「いえ。彼女を守るのは当たり前のことですよ。それに、涼風、とっても強かったんですよ?あいつらの前では絶対に泣かなかったんです。本当に、強いなぁと思いました」


 亜紀さんは少し涙目になっていた。


「涼風も、頑張ったわね。……さあ!今日はもう遅いから、お風呂に入って寝なさい?明日も二人で一緒にいるんでしょ?」



 それから、順番でお風呂に入って、寝室に向かった。涼風はすでにベットの淵に座っていた。


「涼風、パジャマも可愛いね」


「ありがとうございます。お風呂上がりの謙人くんもかっこいいです!」


「ありがと」


 すると涼風は少しもじもじしながら言った。


「べ、ベットは謙人くんが使ってください。私は床で良いですから」


「だーめ!涼風を床でなんか寝かせられないよ。俺が床で良いから」


 今度は涼風が首を振った。


「だめですよ!そんなことしたら明日の朝、体が痛くなっちゃいます!ベットで寝てください!」


「それは涼風もだよ!」


 もう、お互い気付いていた。この状況を一発で解決できる方法があること。ただ、恥ずかしくて言えなかっただけなんだ。


「一緒に寝ようか?」


「そうですね……」


 俺が先に横になって、涼風がその後に俺に寄り添う感じで横になった。ベットは思ったよりも大きくて、二人で寝っ転がっても問題ない広さだった。


「けんとくん……おやしゅみなさい……」


 横になったら一気に疲れが出てきたんだろう。涼風はすっかり眠そうだった。


 それにしても、「おやしゅみなさい」は可愛すぎないか?


「おやすみ涼風。また明日ね」


「うん……」


 なんかめっちゃ幼く見える。この涼風もめちゃくちゃ可愛いな……!


 ……あ、俺決してロリコンじゃないからね?涼風だから可愛いって思うだけだからね?



 その夜俺は、涼風を抱き枕にして寝ました。抱き心地?最高に決まってるだろう。

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