第42話 花火大会⑤
「はぁ……。本当に皮肉なもんだよな、美男美女というのは。なんか偉そうなこと散々言ってたけど、どうせ顔だろ?本当、得だよな。美人はそこらへん歩いてれば男がバカみたいに寄ってきて。どうせお前もこいつが美人だから近づいて、たまたま顔が良いから付き合えただけなんだろ?」
「そんなんじゃないですっ!謙人くんは「涼風、もういいよ」」
俺は涼風を遮って大声を上げた。涼風の方がビクッと震えたのが見えた。すこし怖がらせてしまっただろうか?
俺は涼風の方を向いて優しく頭をなでながら、微笑んで言った。
「俺たちの大事な思い出を、こんな奴に話したくないからさ。それにそろそろ花火始まっちゃうから、別のところに行こうか?」
涼風も分かってくれたらしく、こくりと頷いた。俺はもう一度だけあいつらの方を向いて言った。
「お前らが俺たちのことをどう思おうが知ったことじゃないが、涼風に危害を加えるようなことをしたら、どうなるか覚えてろよ?」
ちなみに、武道の経験ゼロです……。生まれてこの方、人を殴ったことはおろか、人に脅しをかけるのもこれが初めてだと思います……。
どうやら脅しはばっちり効いたらしく、そいつらはそそくさと去って行ってしまった。
「あれ~、あいつらがどっか行っちゃったよ。じゃあ、ここで見るか」
「謙人くん!ありがとうございました……。守ってくれて……」
俺は涼風の手を少し強く握った。
「当たり前でしょ?涼風のこと、あんなふうに言われたら、俺も怒るよ。俺は涼風がそんな子じゃないって分かってるから、安心していいからね?むしろ、今まで本当によく頑張ったね、怖かったよね」
涼風は静かに涙を流した。中学の時のことなんて全く聞いたことがなかったから、クラスで独りぼっちだったなんて全然知らなかった。高校でだってあんなことがあったんだから、相当辛かったんだろう……。
「大丈夫。大丈夫だから」
俺は涼風を包み込んだ。彼女の体がいつもよりも一回り小さくなってしまったように感じた。
―ただいまから、花火大会を開始いたします
五分くらいして、そんなアナウンスが流れるとともに、空に花火が打ちあがった。涼風も泣き止んで空を見上げている。
「綺麗だなぁ……!」
「素敵ですね……」
しばらく二人で黙って夜空を見上げていた。次々と光っては消えていく花火にまるで視線が吸い取られているようだった。
そろそろ花火も終盤だという頃になって、隣から視線を感じた。
「どうした、涼風?」
「謙人くん、ずっと一緒にいてくださいね。私はもう、謙人くんのいない将来なんて、考えられないです……」
返事は、考えるよりも先に口から出てしまっていた。
「もちろんだよ。ずっと一緒にいよう?俺だって、涼風がいてくれなきゃ生きていけないよ。もう俺は、涼風の可愛さに虜になっちゃってるからね」
「私も同じです。謙人くんはとってもかっこよくて、優しくて、私のことをすごく大切にしてくれる、私が世界一大好きな人です……!」
やばい、泣きそうだ……。自分のことをこんなにも想ってくれる人がいるというのは、なんて幸せなことなんだろう。この子は、何が何でも俺が幸せにしてあげたい……!
「俺も愛してるよ、涼風……」
「謙人くん……」
そして、最後の花火が、満天の星空のもとに咲き誇った時、
俺と涼風は、
少しづつその距離を縮めて……、
初めてのキスをした。
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