第41話 花火大会④

「さ~て、そろそろ場所探しにでも行くかな?」


「そうですね!お店は十分楽しめました!」


 俺も、涼風の可愛いお顔をたくさん眺められて最高に楽しかったです……!まだ見てないけど、花火最高!


「それで、どこで見ましょうか?」


「そうだなぁ……」


 涼風いわく、ここにはいつも家族と来ていたから、いわゆる秘密の穴場的な場所は知らないらしい。


「あのさっき写真撮った、ちょっと高くなってるところとかはどうかな?」


「あそこなら周りが開けてるからよく見えそうですね!流石、謙人くんです!」


 ふと思いついたこと言っただけなんだけどなぁ……。まぁ、涼風が可愛いからそれでいいか。



 俺たちがそこに着くと、さっきまではあまり人がいなかったというのに、今は多くの人がそこで花火を待っていた。


「ここもすごい人だな……」


「でも、下よりは空いてませんか?」


「そうだな、ここで見ようか」


 俺たちはすこし空いていたスペースまで移動して、そこに座った。おっと危ない!俺は紳士だから、女性が座るところにはちゃんと汚れないように敷物を敷いてあげないとね?


「ありがとうございます……!今日一日だけで、謙人くんのことがもっともっと好きになっちゃいました……!」


 神様、ありがとうございます!生きててよかったぁ!こんな笑顔をされたら、どんな嫌なことも全てどうでもよく思えてくるわ……。


 俺は涼風を自分の方に引き寄せ、肩にもたれ掛けさせた。


「俺もだよ、涼風……」


 この、穏やかで幸せな時間が続けばいいのに……。そう思ったのもつかの間、次の一瞬で俺たち二人だけの平穏な時間は一気に崩された。


「あれ、お前、涼風じゃないの?」


 後ろから声がかかった。二人して振り返ると、そこには同年代に見える5,6人のグループが立っていた。


「えっ……。なんでここに……」


「なんでって、ここうちらの地元だし。っていうか、なんであんたがここにいるわけ?それに、隣の人は誰……って、めっちゃイケメンじゃん!誰よ、この人!」


 はぁ……おそらくは涼風と小学校か中学校が一緒だった人たちだろう。それに、涼風の様子を見た感じ、そこまで仲が良かったようには見えない。むしろ逆に見えた。


「初めまして。多分君たちと同じ高校二年の南謙人です」


 さっきから一人でめちゃくちゃ喋っている、気の強そうな女の子が反応した。


「は、初めまして。それで、南さんは涼風とはどういう関係なんですか?」


 ここではぐらかすのも後々面倒なことになりそうで嫌だからなぁ……。正直に言うのが一番かな?


「涼風とは恋人の関係にあります」


 俺は、これ見よがしに涼風を横から抱きしめて見せた。そのグループの全員が驚いて声も出なくなったその光景に思わず笑いそうになってしまう。


 ところが、そこからの復活が早かったのもやはりあの女の子だった。


「そうですか……、涼風の恋人だったんですか……。単刀直入に言います。その女はやめておいたほうが良いと思いますよ」


 俺の中で怒りという感情が段々と熱気を帯びていくのを感じた。だが、怒り狂うのはまだ早い。ここは冷静に。


「それはつまり、どういうことなんでしょうか?」


「はい。私たちは彼女と中学が一緒だったんですが、すでにそのころから彼女はそのような容姿だったので、信じられないほどの告白を受けていました。でも結局、それらに一つも頷くことは無く、それからついたあだ名が冷酷女王です。彼女はあだ名の通り、すごくそっけない性格だったので、誰も仲良くなろうとはしなかったんです。そんな中、私は親切にも彼女と仲良くなってあげようとしたというのに……」


 そこで、隣からかすかな悲鳴が聞こえた。


「もう……やめてください……!」


 そこで、俺の中で何かが切れる音がした。大切なものをさんざんに痛めつけられたことへの憎しみが、沸々と湧き上がってきた。


「高校だって、知り合いが誰もいないところに逃げた弱いやつですよ。と、言うわけでそんな人でなしはとっとと捨てることをお勧めします。その代わり、私があなたの彼女になってあげますよ、謙人さん?」


「おい、ふざけるのもいい加減にしろよ。お前らはいったい、涼風の何を知ってるっていうんだ?何を見たっていうんだ?聞かせてもらうが、お前は告白を受けて、それを断るということの辛さを知ってるのか?勇気を出して想いを伝えた相手を断るっていうことは、とても辛いんだぞ?それを涼風は一人で何回も何回も繰り返して……。周りには誰もいなくて、どうせ近寄ったお前だって見下すような感じだったんだろ?そんな辛さを一人でずっと抱えてたらどんなに強くたって逃げたくなるだろ!むしろ俺は中学校生活を耐え抜くことができた涼風は本当に強いと思う。俺だったら絶対に途中で逃げだしてしまってるよ。……少なくとも俺がお前のような人の心も分からない最低な人間に好意を抱くことは死んでもない!お前なんかよりずっと強くて、優しくて、心がきれいな涼風の方がよっぽど魅力的だ!人でなし?そんな言葉、そっくりそのままお前に返してやるよ」


 涼風を侮辱された怒りは、俺の中で収まるところを知らなかった。

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