第40話 花火大会③

「涼風、ごめんって。もうしないからさ」


 さっきから涼風が怒ったままだ。流石に少しやり過ぎてしまったらしい。


「謙人くんは意地悪です!私を揶揄って、そんなに楽しいんですか!」


「別に揶揄ってるわけじゃないよ。ただ、涼風のほっぺがおいしそうだなって思って」


「それにしたって食べられてはびっくりしますよ!それに、こんなこと私以外の女の子にしたら、嫌われちゃうんですからね!」


「涼風以外のやつにそんなことしたいとは微塵も思わないよ。涼風だから、だよ?」


 涼風はまだ頬を膨らませながらも、すこしその頬が赤みがかった。俺はそこにそっと口づけした。


「ごめんね涼風。許して?」


「な、なんでいきなり⁉も、もう……わかりました、許してあげます。それと、ありがとうございます、さっきの言葉、嬉しかったです……」


 俺は涼風の肩をさっきまでよりもずっと強く抱き寄せた。涼風が可愛すぎて、直視できない……


「さて、まだ花火まで時間あるし、どうしようか?」


 まだ花火までは時間がある。俺的にはもう少し涼風と遊んでいたかった。


「涼風、聞いてる?」


 涼風から返事がない。気になって下に目を下ろすと……


「あぁ、なるほど。涼風も女の子だもんな」


 俺は涼風の手を引いて、射的の店の方へと歩いて行った。


「おじさん、一回」


「謙人くん⁉これをやるんですか?」


 涼風が驚きと、少し期待のこもった目で俺のことを見た。分かりやすいやつめ。


 俺は銃を持つと、弾を入れて目標物に合わせる。ちなみにこれをやるのは小学生の時以来だ。それからは、携帯のFPSゲームくらいでしか、銃を構えるなんてしていない。


 さて、五回で取れるといいけど……。


 とりあえず一発目。弾は狙っていたもののわずかに左をかすって後ろへと消えた。


「これならいけるぞ……!」


 そして、二発目。パンッ……!



 ポトン



「うっしゃぁ!取れた~!」


 最高記録更新かもしれない。二発であれを仕留めるとは……!


「にいちゃん、やるじゃねぇか!彼女さんのおかげか?がははは!」


 おじさん、典型的な祭りにいるタイプの人間だな、あんた……


 俺はおじさんから落としたそれを受け取って、後ろで見ていた涼風の方へと戻り、手渡した。


「はい、これ涼風にあげる」


 涼風は少し驚いているようだった。


「さっきからずっとこれを見てたでしょ?欲しそうにしてたからすぐにわかったよ?さっきのお詫びも兼ねて、俺からのプレゼント」


 涼風の顔がぱぁっと光輝いた。そのまま満面の笑みで、俺が取ったうさぎのぬいぐるみを自分の前でぎゅっと抱きしめた。


 パシャッ!


 俺はこそっとばれないように撮ったつもりだったのだが……


「謙人くん⁉勝手に取らないでくださいっ!今、すごく情けない顔をしてたんですからっ!」


「情けないわけないよ。ほら、めちゃくちゃ可愛い!国宝級だよこれは……」


 涼風の顔が真っ赤になった。


「あ、あの、そんなに言ってくれて、ありがとうございます……。それと、うさぎさんもありがとうございます……」


 何この子!可愛すぎるんだけどぉ!


「やっぱり本物が一番かわいいなぁ。写真も涼風のはいっぱい欲しいけど、一番はやっぱり本物涼風だなぁ」


 俺は涼風の頭をそっと撫でながら言った。


「わ、私も、本物の謙人くんが一番です!でも、私も写真が欲しいので、撮ってもいいですか?」


「じゃあ、一緒に撮ろうよ!う~んと、そことかどうかな?」


 俺が指さしたのは、後ろが星空を一望できるような、少し高くなっている場所だった。


「いいですね!行きましょう!」


 涼風もすっかり乗り気になってくれたらしい。これで、涼風と初のツーショット……!



「ここら辺で良いかな?じゃあ、涼風、寄って寄って」


「はい!」


 俺が自分の携帯の自撮りモードを駆使して撮影を試みる。正直、自撮りモード、初めて使うかもしれない……。


「う~ん、切れちゃうなぁ。もっとこっちに来れるか?」


 涼風は少し恥ずかしそうにしている。何かあったのかな?


「涼風、どうした?」


「え、えっとですね。写真を撮るときにこうするのはちょっと恥ずかしいんですけど……、私が謙人くんにぎゅってすれば入ると思うんです!」


 あ、ナイスアイデア!それに決めた!


「涼風、ナイス!それで行こう!」


「私の話聞いてました?恥ずかしいじゃないですか……」


「でも、それが一番だろ?それに、恥ずかしいのはその時だけだよ」


 俺は右手にカメラを持って、涼風を自分の胸に抱き寄せた。画面に映る涼風は、ぬいぐるみを抱いていて、ほんのりと頬が赤くなっている。


「じゃあ、撮るぞ~。はい、チーズ!」



 パシャッ!



「うん!いい感じにできてる!」


 出来上がりはいい感じだった。狙い通り、俺たちの後ろにはきれいな星空が広がっている。


 涼風はというと……送った写真を見てとても嬉しそうにしている。これは実にいい思い出になった!帰ったら、写真を現像して、アルバムでも作ろうかなぁ……。


 国宝級に可愛い涼風たんのことだから、一瞬で俺のハートと携帯の容量はいっぱいいっぱいになっちゃう気がするなぁ……。

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