第35話 水辺の天使③

 さて、ちょっとイレギュラーではあったけれど、無事にナンパイベントも回避して、今俺たちは流れない、普通のプールに来ている。その理由は……涼風がカナヅチだからだ。


「私、泳ぐのが苦手なんです。歩いたり、浮き輪で浮かんだりするのは大丈夫なんですけど、自分で浮こうとするとどうしてもできないんです……」


 なんて悲しそうな顔をされたら、教えないわけにはいかないでしょ?


 ちなみに俺は運動ができないわけではない、やりたくないだけなんだ!……と、いうわけで、意外と水泳も四泳法しっかり泳げちゃうんですよね。


「まずは水になれるところから始めないとな。涼風、俺に掴まって浮けるか?」


「こ、こわいです……」


 ビビる涼風もまじかわぇぇ……じゃなくて!サポートしなければ!


「ほら、俺がちゃんと支えるから、絶対に沈まないって。ゆっくりでいいから、やってみ?」


「は、はい……」


 涼風はびくびくしながらも、俺に体重をかけて浮かんだ。


「どうだ?意外と簡単に浮けるだろ?」


「で、でも、絶対に離さないでくださいね!」


「大丈夫だよ。っていうか、涼風にそんなに掴まれたら、離れようにも離れられないって」


 涼風は今、俺の腕をこれでもかというほど握りしめている。


「なんか、こうやって涼風が水の中で浮いていると、人魚に見えるな」


「な、何言ってるんですか!って、きゃあ!」


 涼風はびっくりして掴んでいた俺の手を放してしまい、溺れそうになってしまった。


「涼風っ!」


 慌てて支えたから大丈夫だったものの、涼風はすっかり怖気づいてしまったようだ。


「ごめんな、頑張ってるときに変なこと言っちゃて」


「嬉しかったからいいですけど、時と場合を考えてください!」


 本日の、水泳の授業はここまでにして、俺たちはまた流されにいきながら、今後のことについて話していた。


「じゃあ、明後日に帰省するんだな」


「はい、なので、謙人くんも荷物の方の準備、よろしくお願いしますね」


「おう!その点は問題ない!」


 涼風の実家に行くのが明後日に決定したようだった。その日から三日間、俺も涼風の実家でお世話になることになっている。


 それまでに宿題終わらせちゃいたいなぁ……


 向こうで心置きなく過ごすためにも、不安要素はできるだけ取り除いてしまいたかった。


「謙人くん、難しい顔してますけど大丈夫ですか?」


 おっといけない!せっかく楽しくプールに来ているんだから、今は余計なこと考えなくてもいいじゃないか!


「ああ、大丈夫だよ。涼風がどうしてそんなに可愛いのか考えてたんだ」


「ふぇっ⁉」


 涼風の顔が真っ赤になった。この反応は何回見てもおもしろい。

 ……ドSとか言わないで?


「じゃ、じゃあ、私も謙人くんがどうしてそんなにかっこいいのかについて考えます!」


 むきになったところも本当に可愛いんだよなぁ。どんどん涼風依存症になっていく。これはもう、治療不可能そうだ。


 そんな感じで、水の中でただ砂糖をまき散らしていたら、あっという間に閉館時間になってしまった。


 俺たちはお互いに着替えてプールを出た。


「いや~、今日は楽しかったなぁ~!プールに来るのだって、久しぶりだったし」


「私も楽しかったです!また行きましょうね!」


「そうだな!今度は海もいいかもなぁ。……やっぱ駄目だ。涼風のナンパに遭う確率がめちゃくちゃ高くなる」


「それは謙人くんも同じことです!」


 海で逆ナンって聞いたことないぞ?まぁ、その話はいいか。


「とりあえずは涼風の実家に行くんだな」


「はい!お父さんもお母さんも謙人くんに会えるのを喜んでましたよ!」


「それは俺も一緒だよ。……そういえば、義治さんたちに俺たちの関係、説明した?」


「あ……」


 どうやらすっかり忘れていたらしい。まあでも、この調子で行けば、三秒でばれてしまうだろう。


「別に行ってから説明するでも大丈夫だよ。きっとあの二人は気づいてるだろうし」


「それもそうですね。とにかく謙人くんと一緒に帰れるのが楽しみです!」


 もう俺の彼女、本当に最高……!笑顔が眩しすぎるって……!



 その日の夜と次の日を一日使って、何とか宿題を終わらせることができた。これで不安要素は何もない!つまり、涼風と一日中イチャイチャできるんだ!


 なんか、日に日に俺の知能レベルが下がっていってる気がするんだけど、気のせいだよね?誰か気のせいって言ってくださいっ!


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