第33話 水辺の天使①
涼風の実家に帰省する前に、二人で夏と言えば定番のプールに行こう!という話になり、今日は二人で近くの大きな市民プールに来ている。
ちなみに今俺は更衣室で着替えて、待ち合わせ場所で涼風を待っているところだった。
「ねぇねぇ、そこのおにいさ~ん!私たちと泳いで遊ばない?」
なんだか知らない人に声をかけられた。それも同年代っぽい女の人二人。
「いえ、人を待っているので遠慮しておきます」
「そう言わずにさぁ~。私たちと遊んだほうが、絶対に楽しいよ!それに……私たち結構ある方だと思わない?」
そういって彼女たちは自らの胸部を強調させた。周りの男たちが一斉に鼻の下を伸ばし始めた。
俺は心底あきれてしまう。勘違いしないでほしいが、俺は異性をそういう目で見て判断するようなことは絶対にしない。いまだかつて、涼風をそういう目で見たことだってない……多分……。
「女性の方をそういう目で見たくはありませんので、そういうことを公衆の面前でするのはどうかと思いますよ?」
「わぉ!紳士だね~!益々気に行っちゃった!早く私たちと遊ぼ~!」
面倒くさいなぁ……。涼風はまだかなぁ……。
もちろん涼風に遅いと責める気は毛頭ないが、この状況を打破するためには涼風に来てもらうほかない気がする。というわけで、来るまで耐えるしかないだろう。
「謙人くんっ!お待たせしました!」
割とすぐに涼風の声が後ろからした。助かった……。
「そんなに待ってないから、だいじょ……う……」
思わず固まってしまった。だって……
「ど、どうかしましたか、謙人くん?もしかして、変、ですか……?」
可愛すぎるぅぅぅ!何この天使は!
そこにいたのは、一人の天使様だった。清楚感を際立たせる、白色のビキニに、いつもとは違って、ポニーテールにしている髪型。どれをとっても可愛いの一言しか出てこない。
「涼風、可愛すぎだろ……」
「ふえっ⁉ど、どうしたんですか、謙人くん⁉」
と、そこで俺の思考がようやく冷静になった。ここは市民プール。辺りには大勢の男どもがいる。涼風のようなスタイル抜群の超絶美少女は、あっという間にナンパの標的になってしまうだろう。その証拠に、周囲から視線の量がいつもの比じゃないレベルに飛んできている。
「涼風、悪いけどこれを着てくれ」
俺は自分が羽織っていたラッシュガードを涼風に着せた。
「あ、あの……そんなに変でしたか?」
俺は涼風の耳元でそっとささやいた。
「……涼風が可愛すぎて、盗られちゃうといけないから、俺の彼女だっていうアピールがしたいんだ」
途端に涼風の顔が真っ赤になった。
「そ、そういうことなら、き、着ておきますね……」
「あぁ、よろしく頼む」
と、さっきまで俺にしつこく話しかけてきた二人組が介入してきた。
「ねぇ、そこの子さぁ、この人とは今から私たちが一緒に遊ぶ約束してるから、どっか行ってくれない?」
こいつら、涼風を見てすぐに引かないとは、なかなかにメンタル強いなぁ!よし、ここは一発で追い払わないとな!
俺は涼風を自分の方に引き寄せた。
「君たちには悪いけど、俺はこの子以外眼中にないから!んじゃ、俺らは行こうか?」
涼風は顔を赤らめて、こくりと小さく頷いた。そのまま俺たちは二人の脇を通り過ぎてプールに向かった。あの二人も流石に無理だと判断したらしく、そそくさと退散していった。
「ふぅ、ナンパって面倒くさいな……」
「そのくらい謙人くんがかっこいいってことですよ」
「ありがとな。でも俺は涼風にだけかっこよく思われてれば、他のやつらはどうでもいいんだよなぁ~」
「それは私だってそうですよぅ!謙人くんが私のことを想ってくれているなら、世界中の人が敵になっても生きていけます!」
スケールでか……。まぁ、俺もそうだけどね~。
そんなことを話しながら、俺たちは荷物をロッカーにしまって、プールに入った。なんともまあ、すごい混み具合だ。
「すごい人だから離れないように気を付けないとな」
「大丈夫です。こうしてますから」
そう言って涼風は俺の腕に抱き着いてきた。普段は洋服を着ているからそんなに感じないけど、水着だと色々と柔らかいのが……、って、いかんいかん!さっき堂々とそういう目では見ないって宣言したじゃないか!
「よ、よし。入るか!」
まずは流れるプールに入った。が、人が多すぎてもはや流れているのかどうかも分からない。俺たちは何をするわけでもなく、ただぶらぶらと水に浸かっていた。
「おりゃ!俺の水しぶきを受けてみろ!」
うわぁ……やんちゃそうな子供が騒いでるよ。こんなに混んでるのに、危ないなぁ……。って、あぶねぇ!
その男の子と一緒に来ているとみられた友達は涼風のすぐ後ろにいた。その子に向って男の子は水を思いっきり飛ばそうとしているんだから、どうなるかは明確だ。
「涼風!水かかっちゃうからこっち来て!」
「くたばれ~!」
声をかけたのはどうやら最悪のタイミングだったらしい。ちょうど涼風がこっちを向いたときに水が飛んでいったから、顔に思いっきり直撃して、水を飲んでしまったようだった。
「けほっ!けほっ!」
「す、涼風っ!ちょ、上がろう!」
俺は涼風を抱きかかえて、慌ててプールから出た。周りから何事だと注目を浴びていたが、それどころじゃない!涼風の身に危険が迫っているんだから、なんとかしないと!
俺は涼風をお姫様抱っこして、プールサイドをひたすら走った。
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