第32話 帰省の約束

 今日は朝から雨が降っていたから、涼風の家に来ていた。本当だったらどこか行こうかと話していたのだが、それがお預けになってしまった。でも、たまにはこういう日があっても悪くはないだろう。


「涼風、はい、あ~ん」


「謙人くんも、あ~ん」


 お昼ご飯を一緒に食べてから、涼風に俺の宿題を見てもらうことにした。俺の学校の問題なんて、涼風にかかれば……


「ここは、こっちの公式を使うと楽にできますよ。こっちの問題は、こうするとすぐに答えが出ます」


「おぉ……!」


 すごすぎない?この子。俺が全然わかんなかった問題を一発で解いちゃったよ?


「すごいね涼風!俺なんて、全然分からなかったよ」


 隣にいる涼風の頭をなでながら、素直に褒めた。涼風はすごくご満悦そうにしている。


「私が謙人くんの役に立てるなんて……。お勉強頑張ってて本当に良かったです!」


 俺は涼風の両側に手をまわして軽く持ち上げ、自分の膝の上に乗せた。


「ふぇっ⁉け、謙人くん⁉いきなりどうしたんですか?」


「いや~涼風のそのまっすぐなところが可愛いなぁって思ったら、こうしてた。教えてくれてありがとな」


「い、いえ。あ、あの、それで、謙人くん。な、なんでこうしてるんですか……?」


「あ、ごめんごめん。嫌だったか」


 俺が涼風を下ろそうとしたら、慌てて手を掴まれた。


「あ、あの、そういうことではなくてですね……。その、私もこうしていたいんですけど……い、いきなりで、びっくりしてしまって」


 最近涼風が自分の気持ちを素直に言ってくれるようになった。とても嬉しいことだ。


「そっか。じゃあ、落ち着けるように……」


 俺は涼風のおなかに手をまわして、ぎゅっと抱きしめた。


「ひゃうっ!だ、だから、いきなりはやめてくださいっ!」


 あらら、怒っちゃったかな?


 俺は涼風の頭をまた優しくなでることに徹底した。


「ふわぁぁ……!って、謙人くん!頭を撫でてごまかすのはやめてください!」


「じゃあ、もうこれからは頭撫でるのはやめるね。ごめんね……」


 そう言うと、涼風は驚いたようにこっちに顔を向けて、ひどく悲しそうにした。流石にこれ以上は可哀そうだろう。


 俺は涼風のほっぺたに軽くキスして、また頭を撫で始めた。涼風の顔はもう真っ赤だ。


「嘘だよ。いつでもやってあげるから、そんな悲しそうな顔しないで?」


「も、もう!謙人くんは私をどれだけ恥ずかしがらせたら気が済むんですかっ!」


「う~ん、恥ずかしがってる涼風は可愛すぎるから、一生やってたいかなぁ……」


「い、一生って!」


 涼風は俺の胸に顔を埋めると、ぐりぐり頭で攻撃してきた。俺は涼風の背中に手をまわして、しばらく抱きしめ続けていた。



 ……って、勉強しないと!これはまた終わってからだ!


 俺は恥ずかしがる涼風を一旦おろして勉強を再開した。……その日から、俺が座ると涼風がその上に乗ってくるようになりました。可愛すぎて最高です……!




「そういえば涼風。実家の方には帰省しなくていいのか?」


 勉強が一区切りしたところで、ふと気になっていたことを聞いてみた。


「はい、帰省しますよ。時期的には、八月の二週目ですね」


「そっか……。いない間は寂しくなりそうだなぁ……」


 思わず心の声が漏れてしまった。涼風はなぜか驚いたような顔をしている。


「えっ?謙人くんも一緒に行くんですよ?言ってませんでしたっけ?」


 は?え?俺そんな話一ミリも聞いてないよ?


「え、そうなの?」


「はい!お父さんたちが、是非謙人くんも来てくださいって!だから、寂しくないですよ!」


 なんだその超絶ご褒美は!神様仏様涼風のご両親様、ありがとうございます!


「良かったぁ……!一緒に行けるなんて嬉しいなぁ……!」


「私も嬉しいです!それにしても、謙人くんって私のこと好き過ぎませんか?」


 おっと!涼風さん、地雷踏みましたよ?あなた。


「そりゃ、世界中のどんなものよりも愛してるよ。俺たぶん、涼風がいなかったら生きていけないと思う。そういうわけで、よろしくね、涼風」


「うぅ~~~~~!……聞いた私がお馬鹿さんでした。で、でも!私も謙人くんの事、謙人くんが私を好きなのと同じくらい好きですからねっ!」


「それは無理だなぁ~。俺の愛に敵うと思うなよ?」


「私だって、負けてませんもん!」


 なんだかおかしくなって笑ってしまった。結局、俺たちはおんなじくらい、お互いを想ってるんだろうな……。なんか、照れるな……。


 その日初めて、俺の顔は少し赤くなった。

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