第31話 遊園地デート③

 それから、俺たちはいろいろな乗り物に乗って遊んだ。童心に帰ってゴーカートで遊んでみたり、全く怖くないお化け屋敷で二人でベタベタしたり、ジェットコースターでなぜか俺だけ死にかけたり……


 そして今、俺たちはこの遊園地で一番大きな乗り物、観覧車に向って歩いている。


「じぇっとこーすたーですか?あれ、とても面白かったです!」


 あれに耐えられる人って、本当にすごいと思う。あんな、命を捨てるような乗り物に乗って何が楽しいの……?本当に俺には理解できない……。


「涼風って、意外とああいうの平気なんだね……。俺は、ダメなんだよね……」


「謙人くんにも苦手なもの、あるんですね」


「逆にないと思ってたの?」


 俺、涼風の中でどんだけ超人設定になってんの?


「だって、私の前では今までダメなところなんて見せなかったじゃないですか。だから、知らなかったんです……」


「そういえば、この前までは少しでも涼風によく見られたくって頑張ってたんだよなぁ。……でも、今はそんなことする必要ないだろ?こうして通じ合えたんだから。……あ、でも、それで涼風に幻滅されたらいやだな」


 すると涼風はぷくーっと頬を膨らませた。なにそれ、可愛すぎ。


「ぜーったいに幻滅なんてしませんっ!私が謙人君の事嫌いになるわけないじゃないですか!」

「じゃあ、好き?」


 俺はすかさず聞いてみた。


「は、はい……。大好き、です……!」


 やばい!たまらなく可愛いんだけど!まじでやばいわぁ~!涼風、神すぎ!


 ……涼風のことになるとすぐに俺、爆発するなぁ。まぁ、しょうがないか。涼風が可愛すぎるのがいけないんだし!


 俺は涼風の肩を抱き寄せて、自分に引っ付けた。腕を組んでいたからもともと俺たちの距離はゼロだったが、なぜだかさっきよりもずっと距離が縮んだ気がした。


「俺もだよ、涼風。……そろそろ見ごろだから、行こうか?」


 こうして俺たちは最高の気分で、観覧車待ちの列に並んだ。


 一組、また一組、と列の前にいた人たちが、観覧車の中へと消えていく中、夕焼けもだんだんとその赤色を増していった。そして、いよいよ俺たちは観覧車に乗った。


「うわぁ!きれいだなぁ!」


 思わずそんな声を漏らしてしまうほど、きれいな夕焼けだった。大きな太陽が海に反射して、その色を赤く染めている。上に上がっていくにつれて、前に座る涼風の顔も赤くなっていった。


「謙人くん、隣に座ってもいいですか?」


 ふいに涼風がそんなことを聞いた。


「いいよ」


 俺たちは観覧車の中で、二人寄り添っていた。さっきから俺の視線は涼風に釘付けになっている。彼女の横顔が、夕日に照らされて、まるでこの世のものではないんじゃないかというほど美しく見える。俺は涼風が離れて行ってしまわないようにとそっと手を握った。涼風も少しだけ俺の方を向いてきゅっと握り返してくれた。


 俺は気づくと、そのまま吸い寄せられるように彼女に頬に自分の唇をそっと押し当てた。


「ひゃうっ!け、謙人くん⁉今、何を⁉」


 多分、何をされたのかは分かっているのだろう。涼風の顔は、さっきまでと比べ物にならないほど赤く染まっている。


「何したと思う?」


 涼風は恥ずかしそうにしてすっかり黙り込んでしまったが、やがてしばらくして顔を上げた。


「け、謙人くん。窓の外を見ていてくれませんか?」


 きっと、彼女も俺と同じことをするのだろう。おとなしく窓の外を見ると、観覧車はちょうど一番上に到達した。



 ……と、その瞬間、俺の頬に、何か柔らかい感触がした。



 そっと隣を盗み見ると、さっきまでと全く同じように俯いている涼風がいた。


「け、謙人くん!わ、私は何もしてませんからねっ!け、決して変なことは……!」


「涼風、落ち着いて?」


「あ、ご、ごめんなさい。……こんな恋愛初心者ですみません。本当だったら今だって、く、口にするべきなのに、私、恥ずかしくって……」


 どうやら涼風には相当恥ずかしかったらしい。俺的にはほっぺチューも大大大満足なんだが……。


「涼風、それは俺も一緒だよ。俺も初心者だから、どうしていいかよくわからないんだ。だからさ、二人で、俺たちのペースでゆっくり進もうよ。普通だったら、とかは気にせずにさ。……ただ、これだけは覚えといてね。俺は涼風のことが大好きだから」


「私たちのペースで……そうですね。焦る必要なんかないですもんね。……私にも、覚えておいてもらいたいことがあります。謙人くんのこと、大好きです……!」


 そして、観覧車は元の場所へと帰ってきた。観覧車を降りると、夕焼けはほとんど終わってしまっていた。


「なんか結局、あんまり夕焼け見れなかったなぁ……」


「でも、私は大満足です!いい思い出ができました!」


「そうだな。これからもいっぱい思い出作ろうな!」


 夕焼けが見れなかったなら、また涼風とこうして来ればいいだけの話じゃないか!



 付き合ってからの初デートは、お互いの気持ちを確かめ合ういい機会になったようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る