第30話 遊園地デート②
「……見つけたっ!」
十分ほど園内を探し回っていると、自動販売機のところで一人で立っている涼風が見えた。急いで涼風のもとへ駆け寄ろうとすると、大きな人影が三つ、涼風の前に立っているのが見えた。さっきの場所からでは角度的に見えなかったようだ。
「ねぇ、君、俺たちと遊ぼうよ。金は要らないからさぁ、一緒に来てよ」
いかにもガラの悪そうな大学生に見える三人組だった。俺は急いで涼風のもとへ行った。
「涼風っ!大丈夫か?」
三人から涼風をかばうように立つと、俺は涼風に向き直った。涼風の目にはうっすらと涙が浮かんでいる。
「涼風、もう大丈夫だから、落ち着いて」
俺は涼風の手を一度ぎゅっと握ってから三人を睨みつけた。
「おいおい!いきなり出てきて何邪魔してんだよ!ふざけたことしてるとただじゃすませねぇぞ!」
……そんな、いかにも漫画の悪役が言ってそうなセリフを堂々と叫んで恥ずかしくないのかね?
「あの、俺の彼女に手を出さないでもらえますか?」
「お前、この子の彼氏なのかぁ。どうせちょっと顔が良いからって、そこら辺で引っかけてきたんだろ!なら俺たちはその子を奪い返す!」
「奪い返すって、もともとお前らのものじゃないだろ。それに、何も知らねぇくせに、適当ぶっこいてんじゃねぇぞこらぁ!」
あ~、こいつら雑魚だわ。俺がちょっと叫んだだけで全員ひるんだもん。よし、こういう人たちには~!
「あ、ちなみに、今までの全部撮ってたから。これ以上しつこいと、警察行きだなぁ。証拠もそろってるから、一発アウトだね!」
もう、早くいなくなれよ……雑魚いんだから……
「ちっ!てめぇ、覚えてろよ!」
はい、出ました!お決まりの捨て台詞!ありがとうございま~す!
……って、そんな場合じゃなかった。
「涼風、けがはない?」
俺は慌てて涼風の方を振り向いた。
「謙人くん……怖かったです……」
俺は優しく涼風を包み込んだ。こんな周りから見えずらいところで、大きな三人に囲まれたら、さぞかし怖かっただろう。
「もう大丈夫だからね。なにも心配することないよ」
俺は涼風の頭をそーっと撫でながら、小さい子供にするように言った。
しばらくすると、涼風も落ち着いてきて、二人で近くにあったベンチに座った。
「謙人くん、ごめんなさい。私が逃げなければこんなことにはならなかったのに。……こんな面倒くさい人、嫌ですよね?」
「謝らないで、涼風。俺も、涼風が恥ずかしがるの分かってて、ああやって言っちゃったんだ。だから、悪いのは俺。それに言ったでしょ?俺が涼風を嫌いになることは絶対にない!って」
俺はそれを分からせるために、涼風の手を握った。
「ありがとうございます、謙人くん。もう大丈夫です」
「そっか。……じゃあ、そろそろお昼時だし、ご飯食べに行こうか?」
「はい!」
俺たちは園内のレストランに入った。どうやら食べる場所がここしかないらしく、入るのにも一苦労だった。
「やっと入れたなぁ~。涼風は何食べる?」
「そうですね……このオムライスがおいしそうです!」
「了解!……じゃあ俺は、このハンバーグでも頼もうかな?」
しばらくして、注文した料理が運ばれてきた。どちらも美味しそうだ。
「「いただきます!」」
まずは自分が注文したものを一口。
やはりハンバーグは安定の美味しさだ!比較的どこで食べても外れがないのがこの料理の魅力だと思う。
ハンバーグに浸るのはこの辺にして、俺はおいしそうにオムライスを食べている涼風の前にスプーンを差し出した。
「はい、どうぞ?」
「あ、あ~ん」
家の中じゃないのが、少し恥ずかしいんだろう。涼風は顔を赤らめながら、俺のスプーンを口に入れた。……可愛い
「どう、美味しいでしょ?」
「は、はい。でも、ちょっと恥ずかしいですね……」
「恥ずかしがる涼風も可愛いよ?」
涼風はまた顔を真っ赤にさせた。
「もう!本当にすぐにそうやって!……でも、嬉しいです。ありがとうございます。……謙人くんもとってもかっこいいですよ?」
今度は俺が顔を赤くする番だった。
「あ、ありがとな」
「で、では、謙人くんもどうぞ」
そう言って涼風も俺の前にスプーンを持ってきた。
「あ、あ~ん。……うん!このオムライスもうまいな!」
「ふふっ。謙人くんも顔が真っ赤ですよ?」
「……うるさい。俺だって恥ずかしいんだよ……」
「恥ずかしがる謙人くんは、かっこいいっていうよりも可愛いですね」
それは、どうなんだろう……?
「この世で涼風よりも可愛い子はいない。だから、俺は可愛くない」
「だ、だから、すぐにそういうことを言うのはやめてくださいっ!」
お互いに顔を真っ赤にして黙り込んでしまった。すると……
「ままぁ~~!このお兄ちゃんたち、お顔が真っ赤だよぉ?」
はい、出たぁ~!なぞに登場する、あおり幼女。まさか本当に出現するとは……
これ、本当に気まずいわ。……早く食べて出よ
どうやら涼風にもその思いは伝わったらしい。しばらく二人で黙々と食べて、席を立った。
「お会計は、2200円になりま~す!」
俺はすぐに自分の財布から二人分のお金を出した。
「ちょ、ちょっと、謙人くん!自分のものは自分で払います!」
「さっきのこともあるから、ごめんなさい料って意味で、払わせて?」
「で、ですが、あれは私のせいで……」
「じゃあ、こうしよう!また今度、どこかに二人で遊びに行った時は、きちんとそれぞれで払おう!それでいい?」
これ、当たり前のこと言ってるんだって気づかないでね、涼風。
「そういうことならいいですけど……」
ふぅ。どうやら気づかなかったみたいだ。これにて、一件落着。
「お二人は、カップルであってますか?」
レジのおばちゃんがほほえましそうに聞いてきた。
「はい、そうですけど……」
「それでしたら、ここの遊園地の観覧車は、一緒に乗ったカップルはこの先ずっと一緒にいられるという伝説がありますので、是非乗ってみてください。ちなみに、夕焼け時がとってもロマンチックですよ」
そいつは良いことを聞いた!
「そうなんですか!ありがとうございます!是非乗ってみます!」
「えぇ、お二人とも、お幸せに」
なんだか今日は、いろんな人から言われるなぁ。横を見ると、涼風も嬉しそうにしていた。
「よし!夕暮れまではまだ時間があるし、遊ぶか!」
「はい!楽しみましょう!」
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