第29話 遊園地デート①

 俺たちはそのまま歩いて遊園地に行った。どこの子も夏休みが始まったのか、やけに人が多い。


 はぐれないように気を付けないとな……


 俺は涼風と離れないように少し強く手を握った。すると、涼風の方からもぎゅっと強く握り返してくれた。


「はぐれないように気を付けないとな」


 すると涼風は少し恥ずかしそうにしながら言った。


「そ、それなら、もっといい方法があります……」


「どういう方法なんだ?」


「こ、こういう方法ですっ!」


 そう言って涼風は俺の腕に抱き着いてきた。


「うおっ!」


 これはまずい!なんか、色々と柔らかくて……って、これははぐれないようにするためにやったんだから、余計なことは一切考えては駄目だ!無心だ無心!


「け、けんとくん。今日はずっと、こうしていてもいいですか……?」


 だから、上目遣いやめて!俺、このくだり何回やればいいの⁉


「お、おう。はぐれると嫌だもんな!」


「そ、それもそうなんですけど、……私、謙人くんとこうしてみたかったんです。謙人くんは、嫌だったですか……?」


「そんなわけあるか!この方が涼風とくっつけるし、むしろこっちからお願いしたいくらいだ!」


 涼風は少しほっとしたような顔をした。


「良かったです……。謙人くんに嫌われてしまったら、私、死んじゃいます……」


「安心していいぞ、涼風!俺は絶対に涼風を嫌いになることは無い!逆に俺も涼風に嫌われたら死んじゃうな……」


「私が謙人くんのことを嫌いになるわけないじゃないですか!絶対に大丈夫です!」


「涼風……好きだ」

「私もです、謙人くん……」



「あ、あの~……」


 はい問題です!ここはどこでしょう!


 正解は、入場待ちの列でした!……と、いうわけで……


「そういうことはとりあえず、中に入ってからお願いします……。他のお客様もお待ちになっているので……」


 すっかり忘れてた~~~!入場待ちの列の中心で、愛を叫んでしまった……。


「す、すみません。すぐに行きますから!」


「ふふっ、慌てなくて大丈夫ですよ。それから……お幸せに」


 俺たちは声を合わせて言った。


「はい!ありがとうございます!」






「くっそ~~~~!私もあんな彼氏が欲しい~~~!でも無理だな……彼女さん、めちゃくちゃ美人だったし……。はぁ……、私にもいい人いないかなぁ……」


 俺たちが入場した後に、係員の人がそんなことを叫んで、お客さんを驚かしていたのは、知らなくていい話だろう……。





 さて、遊園地に入った俺たちは、まずどこから行くか話し合っていた。何せ、人が多すぎる。上手く回らないと、待ち時間ばかりで全然乗れないだろう。


「涼風は何に乗りたい?」


「う~ん、謙人くんと一緒なら何でも楽しいと思うんですけど……」


「そういう可愛いこと言ってくれるのは嬉しいけど、せっかく来たんだから涼風が乗りたいものに乗ろうよ!」


「じゃ、じゃあ、あれに乗ってみたいです……!」


 涼風が指さしたのは、メリーゴーランドだった。


「よし!決まりだ!……じゃあ、さっそく行こうか?」


 メリーゴーランドはそこまで混んでいなかったため、待たずに乗れた。


「謙人くん!お馬さんがいっぱいいます!」


 やべぇ……可愛すぎるぅ……。目キラキラさせながら、そでをクイクイ引っ張ってくるのって、もう反則じゃない?その純粋な瞳が眩しすぎるよ……!


「そうだな、楽しみだな」


 あっぶねぇ……!ここで涼風に思いっきり抱き着かなかった俺を褒めて!よくやった俺の理性!


 ……なんか最近、俺の発言がどんどんきもくなってる気がするんだけど、気のせいだよね?



 メリーゴーランドに乗った涼風は、もう言うまでもなく可愛かったです。見惚れすぎて落ちそうになるくらいには……


 そして、三分ほど経って、メリーゴーランドが止まると、俺は真っ先に降りてずっとやりたかったことを実行した。


「足元にお気をつけてお降りください、お姫様」


 俺は涼風が乗っている馬のすぐ横まで行って、涼風が降りられるように手を差し出した。


 涼風も顔を真っ赤にさせながら俺の手を取って馬から降りた。


「あ、ありがとうございます。わ、私の王子様……」


 それだけ言うと、涼風は近くのトイレに駆け込んでいってしまった。俺は何度もそのセリフを頭の中で再生しながら、この上ない幸福感に浸っていた。


 私の王子様。って最高すぎでしょ?ああ、やってよかったぁ……!


 そんな風に完全に浮かれていると、涼風がトイレから戻ってきた。


「け、けんとくん。お待たせしました。……それで、その、さ、さっきのことは忘れてくださいっ!」


 忘れる?そんなのは無理な話だなぁ。


「それはできないよ~。もう俺の全身に記録しちゃったから」


 涼風はまた顔を真っ赤にさせて、俺の腕をポカポカ叩いた。


「うぅ~~~~!忘れてくださいっ!じゃ、じゃないと私が恥ずかしいじゃないですかっ!」


「俺はめちゃくちゃ嬉しかったんだけどなぁ……。涼風、愛してるよ」


 涼風はもういよいよキャパオーバーだったらしい。プルプル震えだしたかと思ったら、どこかに走って行ってしまった。


 ……さすがにちょっとやり過ぎたかな?


 慌てて俺は涼風の後を追おうとしたが、すごい人の量ですぐに見失ってしまった。


 彼氏のひいき目なしに超絶美少女である涼風が、こんなところで一人で歩き回っていたら、変な奴らに声をかけられてしまうかもしれない。早く合流しないと涼風が危ないな……


 俺はさっきまでの浮かれていた気持ちをいったん捨て、急いで涼風を探し始めた。

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