夏、深まる仲

第28話 交際、始めました!

 日曜日、俺は涼風の家にむかっている。気分はこれ以上ないほど高揚していた。



 ピンポーン。


 インターホンを鳴らして反応を待っていると、しばらくしてドアが開いた。


「おはよう、涼風。迎えに来たけど、もう大丈夫?」


「は、はい。準備ばっちりです……!」


 そう言って彼女はドアを大きく開けて出てきた。


 ……涼風を見た瞬間、俺はぶっ倒れそうになった。


 可愛すぎる……!


 今日の涼風は、俺たちが初めて一緒に出掛けた時と同じ格好だった。あえて意識してそうしてくれたんだろう。彼女の心遣いがなんともこそばゆい。


「え、えっと、その、なんか変でしたか……?あんまりじろじろ見られるのは、恥ずかしいんですけど……」


 おっと、いけないいけない。彼女がおめかししてきたら、褒めて褒めて褒めまくるのが彼氏の役目だからね?


「ごめんな。つい、涼風が可愛すぎて見惚れちゃってな」


 そう言った途端、涼風の顔がポッと赤くなった。構わず俺は続ける。


「いや、本当にもう最高!それ、前に一緒に出掛けた時のやつだよね?あえて合わせてくれたところとか、もうまじで天使過ぎる……!神様、俺をこんなに可愛い彼女と逢わせてくれて、ありがとうございます!」


「ちょ、ちょっと待って下さい!そんなにいきなりいっぱい言われたら、恥ずかしいですよ……」


 何この可愛すぎる生き物は……!もうまじ、最っ高!


 俺は涼風を軽く抱きしめて、追い打ちをかけた。おまけに涼風のお気に入りらしい頭なでなでをしてみる。


「ひゃうっ!け、けんとくんっ⁉ど、どうしたんでしゅか⁉」


 噛むとか反則じゃない?どれだけ俺を悶えさせれば気が済むの?


 もう俺は、溢れてくる心の声を、自分の中に留めておくことができなかった。


「俺の彼女、可愛すぎでしょ……!」


 涼風が俺の背中をポカポカ叩いてきた。


「け、謙人くん!い、いい加減にしてくださいっ!これ以上言っても聞かないなら……今日一日中、謙人くんには私と手をつないでいてもらいます!」


 それってむしろ、ご褒美なんじゃ……?しかも、ねぇ?


「え?言われなくてもそうするつもりだったっていうか、俺が涼風の手を離さない予定だったから」


 涼風はまた顔を真っ赤にさせた。


「ん~~~‼な、何で謙人くんはそんなに平気なんですかっ!私じゃドキドキしないんですか?」


 う~ん、俺も十分ドキドキしてるんだけどなぁ。……あ、そうだ!


 俺は涼風の顔を自分の胸元に引き寄せ、ぎゅっと抱きしめた。


「だから、なんでいきなりっ!……あ、謙人くんもドキドキしてます。心臓が早くなってます」


「な?だから言っただろ?もう俺は涼風に会った時からずっと心臓バクバクだったんだよ?」


「私だけじゃなかったんですね……。それなら許してあげます」


 はは~。ありがたき幸せ……!


「そっか、それは良かった。じゃあ、行こっか?」




 俺たちは駅まで歩き、電車に乗った。


 行先は……遊園地だ。定番のデートスポットという感じだが、今回提案したのは俺ではなく涼風だった。どうやら、遊園地に行ってみたかったそうだ。


「私、動物園とか水族館なら行ったことがあるのですが、遊園地は初めてで。……なのでとっても楽しみです!」


 眩しい……眩しいよ、その屈託のない笑みが!


 ……おいそこ。俺の彼女に何見惚れてんだ。


 俺は周りへのけん制も兼ねて、涼風とつないでいた手を恋人つなぎにした。


「ひゃうっ!け、謙人くん⁉」


「驚かせてごめんな。こうしてみたかったんだけど、いいかな?」


 涼風は顔を赤らめながらも嬉しそうに頷いた。


 あかん……可愛すぎる……。これは、遊園地で変なハエどもが寄ってこないように、今以上にくっつかないといけない気がするな……。


 ……ん?単にお前がくっつきたいだけだろって?そ、そんなわけないだろ!お、俺はただ、涼風が他の人に話しかけられないようにって……


 ま、まぁ、それは何でもいいじゃないか!と、とにかく、遊園地へレッツゴー!

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