第18話 両親と対面③

 俺は、中学三年生の時に自分に起こったことを話した。正直、振られたことを他人の親に話すのは嫌だったが、話を進めるためにも言うしかなかった。その時に全員が心底驚いたという風な顔をしていたのは誰も知らなくていい話である。


 そこから学校に行くのが嫌になって休んでしまったこと。康政が助けてくれなかったら今の自分はいなかったかもしれないということ。


「僕の両親は僕に全く興味がないんです。僕が高校に上がると同時に、僕をアパートに住まわせて、二人で海外に行ってしまいました。……だから、もし涼風さんが僕と同じ状態になっていたらと思うと怖かったんです。せめて僕が心のよりどころになってあげられたらと思い、いろいろと話を聞いた結果、涼風さんのご両親はとても優しい素敵な方々だと分かったので、今日こうして来ていただいたんです。会って、本当に素敵なご両親だと思いました。……正直、羨ましいです」


 三人とも黙り込んでしまった。自分のことを人に話したのは今まで康政しかいなかったから、正直反応が怖い。


「気安く聞いてしまって申し訳なかった。謙人くんも色々と辛かったんだな」


「涼風さんに比べれば、全然ですよ。それに、もう終わった話ですからお気になさらないでください」


 そう、もう終わったことなのだ。それをいつまでも引きずっているのは、偏に俺が臆病だからだろう。


「……そうだ!今日は、せっかくだし一緒に夕飯を食べていかないか?涼風のことについてお礼もあるし、謙人君の事ももっと知りたいな」


「そんな……悪いですよ。久しぶりにご家族がそろったっていうのに」


 お父さんは首を振った。


「いいんだよ。家族とは会おうと思えば会えるけど、謙人くんとは次いつ会えるかわからないじゃないか」


「……本当にいいんですか?」


 俺は涼風のお父さんに確認をとってから、お母さんと涼風の方を見たが、二人とも嬉しそうな顔をしていた。


「大歓迎よ!なんだか息子ができたみたいで嬉しいわ!」


「私も謙人くんと一緒にご飯食べたいです!」


 涙が出そうになった。人の優しさがこんなにも温かいものだなんて知らなかった。


「ありがとうございます……!じゃあ、お言葉に甘えて夕飯ご一緒させてください」


「もちろんだよ!……じゃあ、何を作ろうかなぁ?」


 夕飯は、姫野家オリジナルのカレーだった。たまに自分でも作ることがあるが、自分のとは味が違って美味しかった。


「おいしいですね、このカレー!」


「でしょでしょ!姫野家の人間しか作れない、秘伝のカレーなのよ!」


 涼風のお母さんは、亜紀さんといった。とても陽気な人で、話をしているだけでもとても楽しい。


 涼風のお父さん、義治さんは、とても温厚な人だ。さっきまでは、俺の正体が分からずにきつめの態度をとられていたが、今ではとても親切にしてくれている。


「謙人くんは学校ではどんな感じなんだい?」


 義治さんが俺に話題を振ってくれた。


「そうですね……、地味な感じで過ごしていたんですが、さっき言ったように、一カ月ほど前に涼風に美容室に連れて行ってもらってからは何かと絡まれますね……」


 亜紀さんも会話に混ざった。


「そりゃそうよ!謙人くん、めちゃくちゃかっこいいじゃない!最初見たときはびっくりしたんだから。タイミング的にそんなこと言えなかったけどね?」


 知らない人を自分の娘が押し倒している状況で、誰がイケメンだね!と褒められるだろうか。押し倒すのが逆だった場合は通報されること間違いないだろうが……


「おまけに性格もばっちりじゃない!こんなんじゃ学校でも引く手あまたなんじゃないの?」


「あはは、……でも、誰にもなびかないと思いますよ?」


 亜紀さんが試すように俺を見てきた。


「あら、そんなの分からないじゃないの?どうしてそんなことが言えるのかしら?」


 誰かまでは言わなければ、ばれることはないだろう。


「実は……好きな人がいるんです。心に決めている人が。俺はその人の事しか見えてませんから」


「あら?それなのに涼風のことは心配で助けてるのよね?あらら?どういうことかしら?」


 しまった!こんな言い方したら、涼風が好きっていうのがばれちゃうじゃないか!


 南謙人、告白経験があるとはいえ、恋愛関係はほぼ初心者です。


「い、いや、す、涼風のことは、と、と、友達として助けただけですから。け、けっして、す、好きとか、そういうわけではないんで……、ごちそうさまでした!」


「あらあら、そんなにおろおろしちゃってどうしたの?面白いわねぇ、謙人くんは」


 涼風にだけは気づかれていませんように!と願いながら、そーっと涼風の方を見ると、そこには何が何だか分かっていないような顔でこっちを見ている美少女がいた。


 彼女も彼と同じく、鈍感な恋愛初心者なのです。


 ひとまず、涼風にはばれないで済んだか。あっぶねぇ……。


 と思ったのもつかの間、隣から殺気を感じた。


「ほう、そういう可能性がありそうだな。どうだ、謙人くん。食べ終わったことだし、ちょっとあっちの部屋で男同士の話し合いでもしないか?」


 あ、詰みましたね。もう完全に包囲されてますわ。逃げ場ないし……俺殺されるんですかね?どうしましょ……


 結局、五分後に食べ終わった義治さんに、リビングの隣の部屋に連行されました。


 ……俺これからどうなっちゃうんだろ?



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