第17話 両親と対面②
十分後。
俺はさっきまで座っていたソファーの上で縮こまっていた。涼風のお父さんはあれを見てから一言も口を開いていない。俺と涼風は必死に弁解を試みたが、全く取り合ってもらえなかった。
「で、今日呼んだのは、どういう用だね?」
しばらくした後、涼風のお父さんがようやく話し出した。相変わらず、俺を射抜くように見てくる。
……やばい、怖すぎる。俺は何もしてないんだよ?むしろ涼風を助けたんだけどなぁ……。
「実は、お父さんたちに聞いてもらいたい話がありまして……」
涼風が口を開いた。俺は隣で涼風が一生懸命話しているのを聞いていた。
「それで私たちに来てほしいといったな。それは、あれか?そこにいるやつとそういう仲になったという報告か?」
「「ち、違います!」」
俺と涼風は同時に反応した。俺は誤解を解くため、慌てて口を開いた。
「僕は、涼風さんの友人の南謙人と言います。今日の件については、僕の方から提案させていただきました。……先ほどのことは本当に事故なんです。それが誤解であることを分かっていただくためにも、これからの涼風の話をしっかり聞いてあげてください」
俺は涼風の方を見て、小さく頷いた。
……がんばれ!
「お父さんたちにはずっと隠していたのですが、実は私……学校でいじめられているんです」
「「えっ……」」
それから涼風は、俺にしたのと全く同じ話をご両親にした。
「みんなから無視されて、とってもつらかったんです。……でも、謙人くんだけはまっすぐに私を信じてくれました。だから、謙人くんは私の恩人なんです!」
そう言い切って、涼風はそれ以上話すことはないといった合図でもあるかのように、大声で泣き始めた。俺は涼風との間を詰めてそっと背中をさすってやった。ご両親はさっきから不安そうに涼風を見ている。
「涼風……頑張ったな。怖かったよな」
涼風は俺の服の裾をぎゅっと握った。その手はまだ震えている。
どうやらここからは俺が言う番のようだな……
「涼風は、ずっと一人で抱えていたんです。お二人にも、余計な心配をかけたくないと思って言えなかったそうです。涼風に言葉をかけてあげてください」
涼風のお父さんが口を開いた。
「涼風……どうして言ってくれなかったんだ!」
「だって……お父さんたちに迷惑をかけてしまうと思いまして……」
お父さんが声を張り上げた。
「馬鹿かお前は!俺たちにとっては何よりもお前が大切なんだ!もしそれで、涼風に万一のことがあったらどうするんだ!」
「そうよ!迷惑なわけないじゃない!涼風と仕事なんて比べるまでもないわ!」
涼風のお母さんも声を上げた。
この状況で、親身になってくれる親がいることを羨んでしまうのは場違いなんだろうか……?
「お父さん……お母さん……、ありがとうございます……」
お母さんが涼風を優しく包み込んだ。その上からお父さんも優しく抱きしめた。
涼風はまだ泣き止んではいなかったが、どこか幸せそうだった。
どうやら、俺の役目は終わったらしい……
三人の邪魔にならないようにそーっと帰ろうとしたら、お父さんが気付いてしまった。
「おい、どこに行くんだ?」
「あ、三人の邪魔にならないように、ここら辺で失礼しようと思いまして……」
流石に家族水入らずの場に俺がいるのはおかしいでしょ?
そう思って帰ろうと思ったのだが、どうやら俺はただで解放されることは許されないらしい。お父さんに引き留められた。
「おいおい、待て。君の話を全く聞いていないんだが。君がなぜ、女子校に通っている涼風と関わるようになったのか聞かないと、心配で帰れない!」
あ、俺まだ疑われてたんだ。そんなに怪しいやつに見えるのか、俺は?
「あ、分かりました。ただ、決して男女の関係などではないので、そこは誤解しないでください。涼風さんとはただの友達です」
「ただの友達というには家に普通に上がり込んでいるあたり、親密すぎるんじゃないか?」
どうやら逆効果だったようだ。これは、包み隠さず全部話さないとやばそうだな……
「その点も含めて、すべてお話しします。……僕と涼風さんが最初に会ったのは、学校の最寄りの駅でした」
それから俺は、涼風と出会ってから今日に至るまでを事細かに話した。落とし物を拾ってあげたこと、一緒に登下校をするようになったこと、休日に出かけたこと、すべてを細かく話すのは少し恥ずかしかったが、記憶をたどって思い出を振り返るのは楽しかった。
思えばもう、涼風と出会ってから二カ月が経とうとしている。
「これが、僕が覚えている全てです。……涼風、まだ何かあったっけ?」
涼風はもうすっかり泣き止んで、両親と一緒に俺の話を聞いていた。
「いえ、私もそれで全部だと思います」
良かった。忘れていることがあったら涼風に失礼だ。それを聞いてお父さんが口を開いた。
「そうか……、涼風は昔からおっちょこちょいなところがあるからな。その点は迷惑をかけた」
「いえ、僕が拾ったのもたまたまですから。それに、僕も涼風さんにはいろいろと迷惑をかけてしまっているんで、お互い様です」
勉強を教えてもらったり、励ましてもらったり、俺のほうが貰ってばっかりだろう……
「あらまぁ!聞けば聞くほど好青年って感じね!顔もかっこいいし……涼風、いい人と出会ったわね!」
どうやら涼風のお母さんには好印象だったようだ。涼風もなぜか嬉しそうにしていた。
「本当にその通りだな……。謙人くん、さっきまでは疑って申し訳なかった。てっきり、涼風の弱みに付け込んだりしたのかと思ってな……」
「そう捉えられても仕方なかったと思いますよ。僕の方こそ、最初に言わなくてすみませんでした」
「君は本当にいいやつだ!これなら涼風も安心して任せられる。……ただ、なぜここまでしてくれたんだ?流石に友達だったとしても、ここまで親身になってくれる人はなかなかいないと思うが……」
これは、俺の話もしないといけなさそうだな……。そういえば、涼風にもまだしてなかったよな。これはいい機会になるか。
「実は、僕も似たような経験をしてるんです……」
俺は自分の過去を話しだした。
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