第14話 異変
「つっかれたぁ……」
今は放課後。駅で涼風を待っている。
昼休みは宣言通り、康政に根掘り葉掘り聞かれました……。ちゃんと答えないと後が怖かったから、名前は出さずに友達に誘ってもらって髪を切りに行ったとごまかしたけど、流石に特定されないよな?
ちょっと怖いな……。
と、そこで後ろから肩をたたかれた。見なくてもだれか分かる。
「よう、すず、か……?」
後ろを振り向くと、立っていたのは涼風ではなかった。いかにもギャルといった見た目の子がいた。
「こんにちは!私は姫野さんのクラスメイトの
「あぁ、涼風と同じクラスの子か……。涼風はどこにいるか知ってる?」
そう言うと、一条さんは頬を膨らませた。
「もうっ!女の子と一緒にいるときに、他の子の名前を出しちゃいけないんですよ?私じゃなければ嫌われちゃいますからね?……姫野さんは今日は具合が悪かったのか、早退しました」
「早退?……朝はそんな感じしなかったんだけどな。でも連絡も来ないってことは相当つらいのか」
一条さんは驚いたというように声を上げた。
「えっ!連絡なかったんですか?いつも一緒に帰ってるのに?」
「あぁ、そのようだな。……ん?なんで君は俺たちが一緒に帰ってるのを知ってるんだ?」
一条さんは少し肩を震わせて答えた。
「そ、それは……、姫野さんから聞いたんです!最近一緒に帰ってる人がいるって。で、どんな人か気になったから、この前後ろから様子を見てたんですよ~」
それ、ストーカーじゃないの?……まぁいいか。
「そうか。で、今日はまた何の用なんだ?」
そもそも彼女がここに来た理由を聞いていなかった。彼女はにこにこしながら答えた。
「それはですねぇ……、一人で寂しく帰ることになるあなたと一緒に帰ってあげようと思ったからです!」
は?何言ってんの?
「いや、別に寂しくないし、一人で帰れるよ?」
「またまた~。いつもは姫野さんと楽しそうに帰ってるじゃないですか~!」
うん、何か勘違いしてるみたいだな。
「あれは、涼風と一緒だから楽しいんだ。失礼なこと言うようだけど、君とは今日初めて会って話してるわけだし、そんな子がいきなり一緒に帰ろうなんて詰め寄ってきても、多少は警戒するよ?」
どうやら地雷を踏んでしまったようだ。目の前で彼女の顔がみるみる険しいものへと変わっていった。
「あ~あ……。本当は言うつもりなかったんだけどな。……実は、今日姫野さんに言われたんだけど、正直あんたのことうざったいって思ってるってさ。だから今日もあんたを避けて帰ったんだよ。せっかく私が気を紛らわしてあげようと思ったのに、残念な人だね」
「そうか……、じゃあ涼風に会いに行って、改善すべき点を教えてもらわないとな」
「はぁっ⁉あんた、あいつの家まで知ってるわけ⁉」
ついに本性を現したな、このギャルめ!なんとなく、最初から仮面をかぶっているような気はしていたが、当たりだな。
大体、涼風は人の陰口を言うような子じゃない。一緒にいる時間が短い俺でもそれくらいは分かる。
「じゃあ、そういうわけだから、俺もう行くわ。……それと、涼風を悲しませるようなことをしているんなら、ただじゃおかないからな。あいつは俺の大切な友人だからな」
俺は後ろを向いて改札にむかった。彼女は呆然と突っ立っていた。
……ああいう時、彼氏だ!とか言えたらかっこいいんだけどなぁ。
……それと、考えたくはなかったが、おそらく涼風は学校で良い思いをしてないんだろう。
この間出かけた時の言動と、今日のあいつの話す態度から、そんな気がした。
「お見舞いに行くとするか……」
何となく、というには大きすぎるほど、俺の中には不安な気持ちが渦巻いていた。もしかしたら、涼風はあの時の俺と同じ思いを今しているのかもしれない。なら、今度は俺がそういう思いをしている人を助ける番じゃないか!
涼風と二人でしか歩いたことのない道を、一人歩いて行った。片手には駅で買ったお見舞いを持っている。
……どうか無事でいてくれよ!頼むから!
振り払っても振り払っても浮かんでくる不安の種が、俺を前へ前へと突き動かし、涼風の家に着くころにはもう、駆け足になっていた。
ピンポーン
涼風の部屋の前で呼吸を整え、呼び鈴を押した。
「はい。どちら様ですか?」
朝ぶりに聞く涼風の声はどこか沈んでいるようだった。俺の予感は的中していると言っていいだろう。
「俺だ。南謙人だ。涼風、だよな?」
緊張して少し声が震えてしまう。女の子の家に自分から訪ねていくなんて人生初だから、どうしても緊張してしまう。
「謙人くん⁉どうして……?」
「涼風が心配だったから、お見舞いに来たんだけど、上がっても大丈夫かな?」
流石に俺も、追い返されたらおとなしく帰ろうとは思っていたが、その心配は不要だったらしい。
「あ、ちょっと待っててください。……今開けますね」
しばらくしてドアが開いた。そこには、目元を真っ赤にして、朝見た時よりも何倍も小さく、か弱くなったように見える、一人の女の子がいた。
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