第12話 変わる態度

 夢のような週末を終えて、月曜日。


 今日も涼風のことを駅で待っていると、後ろから肩をたたかれた。


 最近ではこうして先に来た俺の肩を涼風が後ろからたたくことが日課のようになっていた。振り返ると涼風は満面の笑みを浮かべて立っていた。


「おはよう涼風。今日も元気そうだな!」


「はい!謙人くんもイケメンモード絶好調ですね!」


 イケメンモードって……。まぁ、ちょっとは整えてみたりしたけどさ……


「それは大げさだって。どうだ、変じゃないか?」


「はい、とってもかっこいいです!」


「そ、そうか。……涼風も今日も可愛いな」


 涼風は顔を真っ赤にした。


「い、いきなり何ですか!は、恥ずかしいじゃないですか!」


「いや~、俺だけっていうのもどうかと思ったから。お返しみたいなもんよ?」


 でも毎回そこまで恥ずかしがることないんじゃないか?……でも、それってちょっとは意識してくれてる?……って、自惚れるのもいい加減にしないと、また痛い目に遭うぞ。


「よし、行こうか!」


 最寄り駅で電車を降りると、自分が変わったことで回りがどんな反応をするのか気になりだして、少し緊張してきた。


「大丈夫ですよ、謙人くん。かっこいいんですから、自信もって堂々としていればいいんです」


「堂々とねぇ……って俺が考えてること、よくわかったな」


「謙人くんの事なら何でもお見通しです!……と言いたいところですが、そんなに深刻そうな顔をしてたら、誰だって気づきますよ」


 やっぱり顔に出てたか……。どうしても不安になっちゃうんだよなぁ……


「ありがとう。なんて言われるか分からないけど、出来るだけ頑張ってみるよ!」


「特別何かしなくていいんですよ?普段通りにしてても、謙人くんの周りはいつもとは違う感じになると思いますから。……それはそれで、私は不安ですが」


「ん?なんか言った?」


 最後のほうが上手く聞き取れなかった。


「な、何でもないですっ!と、とにかく、謙人くんはかっこいいですから、自信持って下さい!」


 なぜ慌てているんだ?……まぁ、とにかくいつも通り生活してればいいんだな。


「なんか平気に思えてきたよ。ありがとな、気遣ってもらっちゃって」


「いつも私が助けられていますから、これくらいお安い御用ですよ。……それでは、また放課後に」


「おう、じゃあな!」




 バス停についてからずっと周りに見られている気がしてならない。なんか居心地が悪いなぁ……。


 俺みたいなモブキャラがいきなりイメチェンして一番つらいのは周りに注目されることだろう。涼風って、まじですごいと思う。街歩いてたら今とは比べ物にならないほどの視線が飛んでくるというのに、まったく動じていない。


 せっかく涼風に自信を持たせてもらったんだ!頑張らないとな!





 ……とは言ったものの、教室の前で固まってしまった。やはり周りの反応は怖い。涼風はいいと言ってくれたものの、クラスの人からはどういう反応をされるのか考えてしまうと不安で仕方がない。


 そうやってグズグズしていたからだろう。よりにもよって一番嫌な奴が来てしまった。


「あれ?お前見ない顔だな。転入生か?」


 あれだけ見知った康政ですら分かんないなんて……そんなに変わったのか俺は。


「康政……お前、本当に俺が分からないのか?」


「えっ…………、お前、謙人か⁉」


 うるさいなぁ。廊下で騒いではいけません!……って、そんな場合じゃなかった。


「あぁ、そうだよ。ちょっと髪を切ってね……」


「どういう経緯でそうなった?俺はお前が一生根暗のままで生きていくと思ってたぞ?」


 ちょっと失礼過ぎませんかね?まぁ、流石に冗談だと思うけどね?


「色々あってな……。週末に美容室に行ったんだ」


「色々ありすぎだろ……!でも、クラスのやつら驚くと思うぞ~!ほら、入れ入れ!」


 そう言って康政は俺を教室に押し込んだ。


「ちょっ……待てって!」


 つい大声を出してしまった。クラスにいた人たちが一斉にこっちを振り向いた。そして全員固まった。俺も固まった。唯一面白そうにしてたのはあいつだった。

 ……言わなくてもわかるだろう。


「こいつ誰だと思う?みんな知ったら驚くぜ!」


 お前と一緒に入ってきた時点で大体わかるだろ……。康政よ、俺の交友関係の狭さを甘く見るなよ?


 あぁ、なんか悲しくなってきたわ。もう寝よ……。


 俺は康政を振り払って自分の席に座った。


「えぇ~~~~!」


 クラス中から叫び声が上がった。


 うるさいなぁ……。そんなに注目されるほどか?


「あいつめっちゃ変わったよなぁ!俺もあんなの初めて見て、びっくりしたわ!」


 康政、マジで黙れ。話題を変えろ……。


 どうやら俺の祈りは届かなかったらしい。クラスメイトに席の周りに群がられた。


「ねえねえ、本当に南くんなの⁉」

「めちゃくちゃかっこよくなったね!」

「いきなりどうして?」

「連絡先交換しよ!」

「ちくしょぉぉ~!何で南がそんなにイケメンなんだよぉぉ~!」

「……うっざ」


 一気に声かけないでください……。私、もうすでにキャパオーバーです……。


 ……それと、最後のあれ誰?怖いんだけど……


「まぁまぁ、皆落ち着けって。こいつもいきなりそんな話しかけられたら、陰キャだから困るって」


 おい康政。助けてくれたのはありがたいが、お前、地味に俺を馬鹿にしたよな?


「というわけで、俺が昼休みに根掘り葉掘り聞きまくってみんなに教えるから、それまで待っとけ!……あ、これ謙人のIDな。欲しいやつ集合~!」


 俺の個人情報ってどうなってんの?とりあえず、康政は通報していいよね?


 ……はぁ、早く学校終わんないかな。ベットにダイブしたい……


「謙人!昼休み、覚悟しとけよ?」


 あ~あ、そんなに女子を味方につけちゃって……。これは正直に話さないと、つぶされそうだなぁ……


 その日だけで、チャットアプリのお友達が三十人ほど増えました。

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