第10話 初デート②
一時間後……
俺は鏡に映る自分を見るなり絶句した。
「これが、俺……?」
思わず声を漏らしてしまうほどだった。
鏡に映る自分は、以前のような内気さが全く無くなり、前髪は短めに切りそろえられ、全体的にふんわりとおしゃれな仕上がりになっていた。もともと顔のパーツは整っているほうだったのか、なかなかにいい顔立ちになっていた。
「イケメンになりましたねぇ……!」
カットしてくれた美容師さんもそう言ってくれた。
「これじゃあ、学校でモテまくって、彼女さんに嫉妬されちゃいますね!」
合ってるような合ってないような……
めんどくさかったので否定しなかったら、早く見せてあげればと言われたので、入り口のほうへ出て行った。
視線が痛い。
なぜだか四方八方から視線が飛んでくる。カットを待っていたお客さんにもガン見された。その目はどこかうっとりしているように見えたが、それは俺の勘違いだろう。自惚れるのもいいところである。
「おまたせ、涼風」
涼風は店内の椅子に座って雑誌を読んでいた。声をかけるのに緊張してしまったが、ここまできて逃げることなどできないということは分かりきっていたので、意を決して話しかけた。
涼風の視線がゆっくりと上がっていき、俺と目が合った。涼風はしばらく呆然と俺を眺めてから、パッと目をそらした。
変だと思われたのか?
不安になった俺は涼風に感想を聞こうとしたが、涼風の呟きが俺を止めた。
「かっこよすぎる……!」
涼風はうっとりとした目をこちらに向けながらそう呟いた。
「あ、ありがとう。うれしいよ……」
「へっ⁉き、聞こえてたんですか!じょ、冗談です!いや、冗談じゃなくてほんとにかっこいいですけど……、ってわぁぁぁぁ!わっ、忘れてください!」
涼風が制御不能になってしまった。とりあえず店内で暴れられては困る……。
「落ち着いて涼風。ひとまず、会計をして外に出よう」
「ふぁいぃぃぃ……」
会計をしているときに俺の髪をカットしてくれた美容師さんがニヤニヤ見てきたが、反応するとめんどくさそうだったから無視した。
「取り乱しちゃってごめんなさい!」
「いやいや、気にしないで。俺も、その、涼風の率直な感想聞けて嬉しかったし……」
「~~~~~!ちょ、ちょっとお手洗いに行ってきます!」
「お、おう。じゃあこの辺で待ってるわ」
涼風は走ってトイレに駆け込んでいった。よほど恥ずかしかったのだろう。顔が真っ赤になっていた。
かわいいな。
涼風への愛しさで胸がいっぱいになっているところを大学生に見えるお姉様方三人組に話しかけられた。
「待って!超イケメンなんだけど!ねぇねぇ君~、うちらと遊びに行こうよ~。お金はいいからさっ!」
これが逆ナンパってやつかぁ。俺がされる日が来るとは思わなかったなぁ……
なんて呑気に考えていると一人が腕を組んできた。
正直、こういう遠慮のない人たちは好きではない。第一、こんな場面を涼風に見られたら何て言われるか。誤解されるのが一番怖かったから、腕をほどいて丁寧に断った。
「申し訳ないですが、今日は可愛い彼女とデートに来ているので他をあたってください」
「そんなこと言っちゃってさぁ。いいじゃん、どうせ大した子じゃないんでしょ。うちらのほうが楽しいよ」
めんどくせ。いつもナンパされて迷惑そうにしている涼風にひどく同情した。
これは確かにめんどくさい……。
どうしようかと困り果てていたところ、涼風が戻ってきてくれたので、慌てて彼女のもとへ行って手をつないだ。
すまない、涼風!耐えてくれ!
やつらを追っ払うための方法がこれしか浮かばなかった。
「遅かったな涼風。心配したぞ」
「ふぇ!な、なんで手を!」
涼風があたふたとしているところに彼女たちが近づいてきた。
「うわ~、まじで美人じゃん!いいなぁ~、こんな美男美女カップルとか。……邪魔してごめんね?うちら、もう行くから」
意外といい人だったらしい。俺の好奇心が口を動かしていた。
「あの……俺ってそんなにかっこよく見えるんですか?ちょっと自分じゃよくわかんなくて……」
「そんなにきれいな顔しといて無自覚なの⁉……安心しなよ、あんためっちゃかっこいいと思う。隣の彼女とよくお似合いだよ!」
「そうですか……ありがとうございます」
彼女たちは歩いて行ってしまった。
「いや~ごめんな?なんか話しかけられてな……」
「……さっき私がかっこいいって言ったの、信用してないんですか?」
どうやら少し拗ねてしまったらしい。困ったな……
「ううん、涼風にそうやって言ってもらえた時、とっても嬉しかったよ。ただ、人にナンパされるっていうのが人生で初めてだったもんだから、そんなに変わったのかと思ってな……」
「そういうことならいいですけど……今日は私とずっと一緒にいてください!」
……俺が行っちゃうかもって心配だったのかな?悪いことしたな。
「安心して?どこにも行かないから。ほら?」
俺は涼風に自分の左手を差し出した。涼風も恐る恐るといったように手を出してくれた。
俺はそっと握ると、涼風は顔を真っ赤にした。おそらく俺も同じだろう……
「これでどこにも行けなくなっただろ?」
「はい……、絶対に離しません!」
涼風は力を込めてぎゅっと握ってきた。涼風の柔らかな手が少しくすぐったい。
そんなことをしていたら、そろそろ見たい映画が始まる時間だった。
「よし、じゃあ行くか!」
「はい!楽しみです!」
俺たちは特にトラブルもなく映画館でチケットを買った。こういうとき、カップルシートしか空いていないという展開がありがちだが、そんなこともなく一般の席を並びで買って館内に入った。
暗い空間は周りの目がさえぎられるからいい。思う存分俺たちの時間を楽しむことができる。
次第にシアター全体が真っ暗になり、映画が始まった。
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