9 俺が異世界に行く条件はというと
「美緒を返せよ」
「駄目だよ。味わってないからね」
そうやってクラウはまた俺の妄想と怒りを
暑さも相まって冷静に相手をしている余裕がなくなってきて、俺は
「味わうって何だよ……もう。わかった、教えてやるよ。俺は
投げやりに自己紹介して、俺はとぼとぼと、おばちゃんたちの消えた公園の入口に歩いて行き、横の自動販売機で缶のコーラを二本買った。クラウの横へ戻り、口を開けた一本を渡す。
クラウは最初不思議な顔をしたが、俺が先に飲んでみせると「ありがとう」と言って口を付けた。コーラなんて異世界人には初めてかもしれないが、「飲めるか?」と尋ねると「あぁ」とモデル級の笑顔が返ってくる。
「で、俺はどうやったらそっちの世界に行って美緒に会えるんだ? 女じゃないと行けないって訳じゃないんだろう?」
とにかく俺は美緒と話がしたかった。こうなった
「性別は関係ないけどね。そうか……どうしようかな」
「どうしようかな、って。アンタ魔王なんだろ? どうにかならないのかよ。アイツの事、味わうだとかお休みの挨拶をしただとか変なこと言いやがって。アイツを危険な目に
モンスターの徘徊だなんて、向こうはまさにファンタジー系の異世界のようだ。
精一杯の思いを込めて
「カーボは怖くないよ。向こうの女の子たちには可愛いって評判だしね。それに町の中には滅多に入ってこないから、不要な心配しなくていいよ」
「可愛いとは言っても、さっきみたいになったら殺さなきゃならないヤツなんだろ?」
少なくとも、こっちでいう犬や猫とは違う。
「町の外にはもっと強いのが居るのか?」
「そりゃね。この世界にだって強い猛獣はいるでしょ? 同じだよ。ミオは城の中に居るし、ちゃんと素敵な部屋は与えてある。従者もつけて不自由ない生活をさせるつもりだ。僕の所に来てくれたからには、その位もてなさないとね。庭にも花が咲き乱れているし、食べ物だって何でもあるよ」
「えっ……そうなのか?」
ハーレム女子への待遇に、少し
「け、けど、本当に大丈夫なんだろうな?」
「もちろん。それでユースケはどうしたい? 彼女に会いたいって目的だけじゃ、連れて行くのはちょっと難しいんだよ」
クラウはコーラをごくごくと飲み干して、改まった顔で俺を
「ここで僕が向こうへ君を連れて行っても、忙しくて面倒は見てあげられないからね」
「行った後のことは、自分で考えるよ。まずは向こうに行ける事が第一だと思ってるから」
「それは
「ルール?」
「例えば、街中で魔法を使ってはいけない、とか」
俺は魔法なんて使えないから大丈夫だ。
「夜の11時過ぎに無許可で外を歩いてはいけない、とか」
それは心得ておこう。
「夜中に何か起こるのか?」
「街の外に居るモンスターが、基本夜型だからね。もし何かあった時に、兵だけで対処できるように一般人にはそういう決まりを作ってる。さっきのカーボも本来夜型なんだけど、突然太陽を浴びて興奮したから攻撃的だったんだと思うよ」
「
「
それって、たまにはあるって事じゃないか。
「その他にも色々あるのさ。それでもユースケは向こうに行きたいと思う?」
「当たり前だ。アイツを説得して連れ戻す」
俺は至って真面目に答えたのだが、クラウはこの期に及んで苦笑を
「そんなに君に
「ほんとだな!?」
俺に魅力がないだなんて、ハッキリ言われると少し傷つく。
超ムカつくけれど、今コイツの機嫌を曲げるわけにはいかない。
(向こうに行くまでは我慢だぞ、俺)
「うん。この飲み物も美味しかったし、特別に許可してあげようか?」
「ありがとうございます!!」
まさかコーラが決め手になるなんて!!
俺は自分とクラウのコーラの缶を、横のくずかごに連続で放り投げて、クラウの手を両手でガシリと握り締めた。
これは感謝の握手だ。
「俺も異世界に行けるんだな?」
「ただし、君には仕事をしてもらう。メルの
「討伐隊?」
それは意味のまま、何かを倒しに行く部隊って事だろうか。
「生きて帰れるんだろうな?」
「そんなに難しく考えなくてもいいよ。これは、君が向こうへ行く口実みたいなものだから」
クラウの微笑みの裏を読んで修羅場の戦場を思い浮かべた俺は、少しだけ異世界行きを
けれど、
「メルは強いし、
「行きます! やらせてください!」
まさかのメル情報に、俺は
だって俺は、ラノベ世界を夢見る、15歳男子高校生なのだから。
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