プチ遠征

 ベッドに入ってから3時間後、睡眠と言うか仮眠に近い休息を取ると、とみみとパンドラの待つ1階の食堂へと向かった。朝食を食べ終えて、目覚めのブラックコーヒーを胃に流し込む。目も少し冴えた所で今日のクエストを確認する為に冒険者ギルドへと向かった。


 冒険者ギルドに到着すると、とみみは足早にクエストカウンターに向かい、クエストを吟味する。俺も当然クエスト掲示板に目を通すが、多くは知らないモンスターや素材の名称であったり、聞いた事もない地名が並んでいた。一応頭の片隅に記憶はする。当面はとみみの指示で動く方が効率は良さそうだ。


「今日は少し遠出っす。町から1日ほど歩いた先にある湖畔が目的地になります。今回のターゲットはリザードマンっすよ!」


「リザードマン? 蜥蜴人間っぽいやつ?」


「お!? 知ってるんすか?」

 俺はゲームとか小説の知識でならと答えた。


「結構メジャーなモンスターっすもんね。ジェネシスのリザードマンも多分イメージ通りの見た目っすよ。ただ、実際に見ると目つきとか獰猛で凶悪な面をしてるっすけどね」

 俺とパンドラはとみみの説明に耳を傾ける。


「リザードマンは、ゴブリンやコボルトと同じ亜人種系のモンスターっす。ゴブリンやコボルトよりも知性が高いので、連携した攻撃をしてきます。あと、めっちゃ硬いっす!」

 ふむふむ。


「あとは確率は相当低いですが装備品もドロップしますので金策としても有効っす! ちなみに、ナビゲーターに聞けば教えてくれますが、推奨レベルはソロなら20前後っすね」

 20前後かぁ。相当高いな。まぁとみみの見立てだしきっと平気なんだろう。


「あと、今回は野宿もするので、快適な旅を過ごしたいのなら道具屋でキャンプセットを買うことをオススメするっす!」

 野宿かぁ。キャンプセットなんてあるんだ。パンドラと二人でノーブルの町を目指してた時は普通に地面で横になって寝てたぞ!?


「とみみん! とみみん! おやつは――」

「食料は開拓者で覚えた調理スキルがあるので、それで済ませます。おやつは好きにしてください」

 俺はお決まりのセリフを最後まで言わせてもらえなかった。




 ◆




 三人で道具屋に向かった。ノーブルの町の道具屋は少し大きいドラッグストアほどのサイズのお店だった。


 キャンプセットは、30万を超える様な高価なモノもあったが、俺とパンドラは店員が勧めてくれた"初めてのキャンプセット"という簡易的なモノを購入した。ちなみに、お値段は1200Gとそこそこの値段だった。


 湖畔までの道のりは、いつも見かけるゴブリンやコボルト、青鼠に角兎に鳥 (ハーピー)と代わり映えのしないモンスターしかおらず、順調に進むことができた。


 お昼過ぎに通りにあった川辺で遅めのランチ(自炊)をする事にした。


「ソラさん、戦い方変えました?? なんか今日はすっごく動きやすかったです」

 スキルで作った味気ない食品を食べていると、パンドラが質問をしてきた。昨夜は槍を使って経験値稼ぎをしていた。自分で使うと、槍の動きというか概念の理解が深まった。それがパンドラが戦いやすいように立ち回れた要因だと思う。


「うーん。パーティー組んで二日目だし、連携力が高まったのかな?」

 夜に秘密訓練? していることは隠すことではないが、何となく恥ずかしかったので、答えを濁した。




 ◆




 ランチを食べた後も順調に旅は進み、陽も沈みかけた頃、目の前に広がる草原に幾つかのテントが見えてきた。


「お疲れ様っす! ここが目的地っす。人気の狩場スポットなので、ここを拠点にしてるプレイヤーも結構いるっす」


「へぇ。かなりの人数がいるんだね」

 ノーブルの町中や道中のフィールドではプレイヤーを見かけることは多かったし、会話をしたりすることもあったが、とみみとパンドラ以外のプレイヤーと同じフィールドで戦うのは初めてだ。


「リザードマンはリポップ? が早いというか、スゴイ数のリザードマンが次から次と湖畔の奥からやって来るっす。ギルドの事務員さんの話では、定期的に倒さないと徒党を組んで縄張りを広げる為に町を襲うらしく、ギルドでも退治を推奨されているモンスターなんすよ」

 へえ。繁殖能力が高いのかね?


「あと、暗黙のルールっすけど、戦利品は基本ファーストアタック(最初に攻撃)をしたパーティーに権利があるので、横ヤリとかはしないほうがいいっすね」

 ここら辺のルールは、あっちの世界のオンラインゲームと同じだ。恐らく、こちらの世界に来ている人はオンラインゲームの経験者しかいない為、その様なルールが定着したのだろう。


 俺たちは空いてるスペースにテントを張り、自分たちのスペースを確保した。


 ちなみに、"初めてのキャンプセット"の内容は、一人用のテントと寝袋、簡易調理器具であった。


 テントを張った俺たちは夕飯の準備する。


 火はパンドラが"従者"の魔法で興した。道中に狩ったネズミやウサギの肉はとみみが"狩人"のスキルで精肉にする。精肉をパンドラが"従者"のスキルで調理する。


 あっという間にアウトドアでのバーベキューパーティだ。町で買ってあったパンも端末から取り出して楽しい時を過ごす。


 食事中は、俺ととみみのGS時代の冒険譚を話せば、パンドラもとあるファンタジーゲームで所属していたギルドの仲間たちの事を話してその日は大いに盛り上がった。今晩の話から判明したのだが、パンドラは大手ギルドのサブリーダーであったようだ。パンドラ曰くリーダーである"ガイア"と言う男性もこちらの世界に来ているだろうと言う話しであった。


 夜も更けてきた為、それぞれのテントに戻り就寝することにした。


 みんなと解散してから、3時間ほど経過したころだろうか。俺はムクッと起き上がりみんなが寝静まったのを確認してから、来た道を少し戻りゴブリンの群れで夜の経験値稼ぎを行った。


 2時間ほど狩りを続けた後はテントに戻り、今度こそ就寝した。




 ◆




 翌朝、目が覚めてテントから出ると簡易的なテーブルの上に朝食が用意してあった。


 俺が「おはよー!」と二人に挨拶すると、とみみが耳元で「あまり突っ走りすぎないで下さいね」と呟いた。どうやら、昨日俺が抜け出したことはばれていたようだ。


 朝食も済んだので、キャンプをした草原から少し進んだ先にある湿地帯にやって来た。辺りを見渡すとすでに4組ほどのパーティーが二足歩行で武器を構える蜥蜴人間と戦っていた。


 先客のパーティーとは少し離れた場所を陣取ると、早速1匹で彷徨いているリザードマンを発見した。


「ダブルアロー!」


 とみみが放った先制の2本の弓矢が 遠く離れた蜥蜴人(リザードマン)の頭部にヒットする。


 蜥蜴人は、すぐにこちらに気付いて水しぶきをあげながらこちらに迫ってくる。迫り来る蜥蜴人にとみみが連続した弓矢を放つ。カンッ! と鉄と鉄が衝突した音が響き渡る。よく見ると蜥蜴人は手に持った盾で数本の弓矢を受け止めていた。差し迫った蜥蜴人に俺とパンドラがそれぞれ剣と槍を構える。蜥蜴人は片手に持った槍で鋭い刺突を繰り出してくる。


 うぉ!?


 俺は咄嗟にバックダッシュで回避する。敵が硬直している隙に、パンドラが手にした槍で刺突を繰り出す。俺も蜥蜴人の正面に戻ると、手にしたフェザーソードからスラッシュを放つ。今まで戦ってきたゴブリンやコボルトとは違い、蜥蜴人の外装を固める鱗は硬かった。ガツッ! という鈍い斬撃音で手応えは薄い。


 フェザーソードによる斬撃とパンドラによる刺突を受けながらも蜥蜴人は負けじとこちらに槍を刺突してくる。繰り出された蜥蜴人の槍捌きは意外にも華麗で、躱しきれずに数回の攻撃を受けてしまう。


 1対1の勝負であれば負けていたかもしれない。しかし、状況は3対1。数の暴力で俺たちは蜥蜴人を圧倒する。


「スラッシュ!」


 フェザーソードから放たれた鋭い斬撃は蜥蜴人の首筋を切り裂くと、蜥蜴人は静かに倒れた。その時……


 ヒュン! と耳元に風を切り裂く音がする。振り返るととみみが倒れた蜥蜴人の横に弓矢を放っていた。


 ん? 珍しく外したのか?? 弓矢の行方を目で追うと……パンドラの背後に2体の蜥蜴人が迫っていた!?


 慌ててパンドラへと駆け寄る。蜥蜴人はパンドラ目掛けて槍の刺突を繰り出そうとしていた。


 コマンド受け払い!


 カキーン! と金属同士が衝突する音が響き渡る。繰り出された蜥蜴人の槍の先端を手にしたフェザーソードが見事に払い除けたのだ。槍を払われた蜥蜴人はバランスを崩して硬直した。ぶっつけ本番での発動だったが、上手くいって良かった。


 パンドラも後方に迫っていた蜥蜴人に気付き、慌てて距離を取る。


「パンドラさん! とみみんの所に行って例のスキルを! とみみん! 敵は俺が引き付けるからまずは敵の数を!!」

 端折って伝えたがきっと伝わっただろう。

「「了解 (っす)!!」」


 パンドラはとみみの元へ駆け寄る。


 俺はフェザーソードを水平に大きく振るう。トレースされたスイープアタックで2匹の蜥蜴人の注意を惹きつけると、受け払いとバックダッシュを駆使して2匹の蜥蜴人を引き付ける。


 受け払いはタイミングがシビアでコマンドに頼らない場合の成功率は30%を下回る。蜥蜴人の熾烈な刺突が確実に俺にダメージを蓄積する。


 ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン!


 耳を劈(つんざ)く複数の風切り音と共に後方から蜥蜴人に対して凄まじい数の弓矢が放たれる。


 パンドラの精神力付与を受け続けた、ガス欠知らずのとみみによる"ダブルアロー"の連射だ!!


 頭部に数十本もの弓矢が刺さった蜥蜴人が、ゆっくりと倒れた。凄まじい火力だ!! 正直オーバーキルだろう。


 残り1匹となった蜥蜴人に対しては、攻撃パターンにも多少慣れてきた俺がタンク役をし、難なく葬ることができた。


「ふぅ。意外に手こずったね」


「いやいや。"3人で"この時間で倒せたのであれば、十分っす!」

 とみみは尻尾をパタパタさせながら答えた。確かに周囲を見渡すと全て4人パーティーだ。


「次回から、私は補助寄りの動きをしますね」

 パンドラの提案を受ける事にした。正直、3匹同時に来た時は捌き切れる自信は無いが頑張る事にした。


「さてと、戦利品を獲得して昼飯の時間まで頑張りますか」

 二人は「おー!」と肯定し、蜥蜴人の亡骸に端末をかざすと、周囲を見渡して次なる獲物を探した。


 遥か遠くまで見渡せば、無数の蜥蜴人が見えるが俺たちの狙いは1〜2匹までのリザードマンだ。

 慎重にターゲットに定めた蜥蜴人の数と他の蜥蜴人との距離を見計らい獲物を探した。


 少し離れて1匹づつ歩いてる蜥蜴人を発見した。


「ダブルアロー!」


 とみみが距離が近い方の蜥蜴人に先制の弓矢を放つ。


 迫って来た蜥蜴人の進行方向に立ち塞がり、攻撃を加えていると、奥の蜥蜴人もこちらに気付いて襲いかかってくる。どうやら、近くで戦闘を続けていると乱入してくる習性のようだ。


 俺は受け払いの練習をしつつタンク役をこなす。定期的にパンドラからヒールを受けているので、多少の被弾は気にならない。受け払いで蜥蜴人の槍を払いつつ、フェザーソードで斬撃を放ち、時々蜥蜴人の槍目掛けて手を伸ばす。目の前の蜥蜴人は手にしていた槍を突如失って、混乱する。


 ピコン!

 何やら端末が鳴いた気がした。

(レアドロップのスティールに成功しました)


 お!? 何を隠そう。俺は盗賊にクラスアップした時から必ず敵と戦う時には、1〜2度の"スティール”を実施していた。


 後で確認しようっと。


 その後も順調に無手になった蜥蜴人の攻撃を捌く。


 試行錯誤の結果、俺がタンク、パンドラがヒーラー、とみみがアタッカーという役割で落ち着いた。


 その後も3人の連携能力は高まり、時間の経過と共に蜥蜴人を倒す速度が速まった結果、昼過ぎまでには20匹近くの蜥蜴人を討伐することに成功した。


 パンドラがレベルアップしたタイミングで、昼休憩の為に一度テントが張ってあった場所まで戻った。




 ◆




「順調っすね!」

 とみみは嬉しそうだ。


「そういえば、さっき"リザードマンスピア"っていう槍をスティールしたんだけどパンドラさんいる?」

 リザードマンスピアは、フェザーソードよりは多少攻撃力が落ちるものの、夜にこっそり使ってる"青銅の槍"よりかは遥かに強い。

 自分で使いたい気持ちもあるけど、パーティープレイ中にドロップ品ではなく、スキルで獲得したものだ。オンラインゲームをしていた時もスティールと類似したスキルを習得してた事もあった。パーティープレイ中にそうしたスキルで獲得したモノは後でパーティーを組んだ仲間と分け合う事がマナーだろう。スティールのみを繰り返して、戦闘には貢献せずに、獲得したアイテム全てを持ち帰るプレイヤーも少なからずいたが、基本的にそういうプレイヤーとは二度と組みたくない。

 何より槍はパンドラのメインウェポンなので譲るべきだろう。


「わぉ! 攻撃力はいくつですかー?」

 後ろからとみみが「抜け目ないっすね」とか言ってるがスルーしよう。


「んと。162かなぁ」

 ちなみにフェザーソードの攻撃力は187だ。


「162ですかぁ。今使ってる槍の方が少し強いので、大丈夫ですー。ソラさんは全ての武器が扱えるので、ご自分で使ってみてはいかがですかぁ?」

 パンドラの槍はかなり高級品のようだ。


「んじゃ、お言葉に甘えて俺のモノにするね」

 後ろから「あっしには聞かないんですか?」とか聞こえるが、お前装備できないじゃん! と心の中でツッコミを入れてスルーすることにした。


 昼飯も終え、少し休んだ後再び湿地に戻って狩りを続けた。せっかく遠出したんだし、目一杯稼がないとね。


 午後は午前中よりも、リザードマンの動きに慣れて、連携力も高まっている為、更に順調に狩りを続ける事が出来た。途中、5匹のリザードマンがリンクしてきて、危険な状況もあったが、アイテムも駆使してピンチを切り抜ける事に成功した。

 ちなみに、更に1本のリザードマンスピアをスティールしたが、パンドラさんはやはり受け取りを拒否するので、同じく受け取りを拒否するとみみに押し付ける事にした。なんだかんだで、ここ数日はとみみにお世話になりっぱなしだしね。


 陽も沈みかけた頃、とみみのレベルが丁度20に達したので、俺たちはテントに戻り休むことにした。


 翌朝、俺たちはノーブルの町に戻るべく湖畔を後にした。


 今回のプチ遠征を通して、俺のレベルは16となり、パンドラは18、とみみは20になった。


 名前:ソラ

 クラス:盗賊(LV16)

 サブクラス:未設定


 生命力:280

 精神力:100

 腕力 :118

 耐久 :64

 敏捷 :208

 魔力 :82

 神力 :64

 運 :172


 攻撃力:277

 防御力:219


 所持金:1570G


 装備品

 左手:フェザーソード

 右手:木の盾

 頭:魔法のバンダナ

 腕:皮の籠手

 体:銀の胸当て

 足:オオカミの脛当て

 装飾品:なし

 アクセサリー:@ホームの絆

[サブウェポン]

 リザードマンスピア。青銅の斧。鉄の短剣。ブーメラン。


[ユニークスキル]

 マルチウェポン。大器晩成。

[汎用スキル]

 採掘。採取。採伐。料理。バックダッシュ。

[盗賊スキル]

 スティール。解錠。盗賊基礎魔法習得。

 二刀流(小)

(軽量な武器に限り、左右に武器を装備することができる)

[剣術スキル] 剣術LV16

 スラッシュ。スイープアタック。受け払い。

[槍術スキル]槍術LV7

 旋風突き。

 薙ぎ払い。

(槍を大きく振り回して前方の敵をまとめて薙ぎ払う)

[斧術スキル]斧術LV3

 スマッシュ。

(対象を渾身の力で打ち砕く)

[短剣術スキル]短剣術LV4

 スタブ。

[投擲術スキル] 投擲術スキルLV6

 パワースロー。

[魔法]

 ウインド。ウインドヒール。

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