パーソナルスキル

 大器晩成の詳細が判明した後も、とみみとの談話は尽きることなく続く。


「あ!? そういえば、あっしもソラさんに聞きたいことがあったっす!」

 GS時代の思い出を話していると、とみみが突然質問を投げかけて来た。俺は「何?」と質問の続きを促した。


「ソラさんは"パーソナルスキル"ってご存知っすか?」

 とみみの口から聞き慣れない言葉が飛び出す。パーソナルスキル?? ……キュロ? パーソナルスキルって何??

(パーソナルスキルと言う情報は持ち合わせておりません)

 キュロも知らない言葉らしい。パーソナルって確か和訳すると"個性"だったけかな?


「ごめん。知らないや」


「プレイヤーが勝手に創った造語っすからね。知らなくてもしょうがないっす」

 どうやらパーソナルスキルとは、プレイヤーが創った造語でこの世界の仕様では無いらしい。


「んで、パーソナルスキルって何??」


「えっとすね……」

 困惑した表情をしたとみみが、何かを思い浮かんだらしく、目を爛々と輝かせて言葉の続きを紡ぐ。


「ソラさんは、ジェネシスでは向こうの世界にいたとき、格闘技の経験もしくはスポーツをしていて優秀な成績を収めた事がありますね!」

 断定系でとみみが質問をして来る。向こうの世界にいた時、学生時代にハンドボールで日本代表のU18に選出された事はあった。今でも社会人のフットサルやバスケのサークルに混じって汗を流す事がある。とみみには、GS時代にフットサルを時々している事を話した事はあったがそれの事を言っているのだろうか。


「昔話したフットサルの事??」


「そういえば、ソラさんはフットサルしてたっすね。結構優秀な選手で大会とかでも目立ってたんじゃないすか?」


「んー。フットサルは下手では無かったと思うけど、趣味程度だよ。学生時代ならハンドボールでU18に選ばれたけどそれの事??」

 とみみの話の要領がイマイチ捉えられない。オンラインゲームの世界ではリアルの事を聞くのは御法度だ。信頼しているとみみだし話してるけど何が言いたいんだろ?


「U18って、日本代表っすか!? 凄いじゃないっすか!?」


「うん。ありがと」


「ハンドボールって、あっしは詳しく無いのですが、瞬発力が試されたり、その場の判断力が求められるスポーツっすよね?」


「まぁ、他にも求められるモノはいっぱいあるけど、そうだね」

 ハンドボールはバスケと同じく、全員で攻撃をして全員で守備をするスポーツだ。特に俺のポジションはとみみの言う瞬発力と判断力が必要とされる場合が多いスポーツではあった。


「なるほど! 納得っす!!」

 とみみが勝手に自己満足をしている。


「何が納得なの? パーソナルスキルって何よ??」


「ああ、すいませんっす。パーソナルスキルと言うのは、オンラインゲームの経験だけではなく、プレイヤーに元々備わっている能力っす」


「個性って事?」


「んー。例えばっすけど、元の世界でボクシングをしていたプレイヤーがいるとすれば、ジェネシスの世界でもボクシングの経験が活きて、敵の攻撃をスイスイと躱したり、柔道の黒帯のプレイヤーがジェネシスのコマンドには無い投げ技を使ったりする、仕様として付与されたユニークスキルではなく、元の世界での経験が活きる能力っすね」


「なるほどね」


「ソラさんの場合は、GS時代にも度々口に出していた"ロジカルシンキング"による考え方とか、ハンドボールで培った瞬発力や判断力等が他のプレイヤーには備わっていない能力で、それがソラさんのパーソナルスキルっす!」


「何となく理解した。とみみのパーソナルスキルは何なの?」


「あっしの場合は、サバゲーの経験っすかね。リアルであっしがやってたサバゲーはかなり広い森の敷地で本格的にやってたので、敵の位置と自分と味方の位置を把握する為の空間認識能力や森の中で道に迷わない方向感覚等が他の人よりも優れてると自称ですけど思ってます」

 ゲームのジャンルはFPSが好きだとか言ってたし、ゲームでもリアルでも対人の戦争をしてたのか。


「後は、情報収集能力とそれを分析する能力も他者より優れてるんじゃない?」

 俺が思っている、とみみのパーソナルを追加しておいた。


「それで納得できたって話なんすけど、今日の昼間に戦ったクレイベアとかハーピーやコボルトは確かに格下のモンスターっすけど、LV10だったソラさんが簡単に勝てる相手でも無いっす。単純に大器晩成の効果でソラさんのレベルは12相当の強さである事と、先程のパーソナルスキルを併せれば、今日の結果も納得できたと言う話しでした」


 ふむ。オンラインゲームと似ている世界だけど、ジェネシスはゲームの中では無く現実の世界だ。ともすれば、こういう現象も起きるのか。


「次は俺からのお願いなんだけどいいかな?」


「なんすか? 何でも言ってくれて構わないっすよ」


「実は今から、ソロで稼ぎに行こうかと思ってるんだけど、ソロ向けのいい狩場教えてくれないかな?」


「ソラさんの性格はバトルジャンキーなので今から稼ぎに行きたい気持ちは分かるっすけど、何で"ソロ"っすか?」

 とみみは"ソロで"の部分に力を入れて尋ねてくる。バトルジャンキーと言うのはGS時代に仕事さえ無ければ昼夜問わず、パーティーを組む相手がいなくてもソロで戦闘をしまくって経験値稼ぎをしていた頃の名残りの言葉だ。


「んー。さっきの大器晩成の話と絡んでくるんだけど、俺ってレベル低いじゃん? ステータス的には問題ないかも知れないけど、レベル関連の縛りがあるクエストとかクラスアップ関連で今後みんなに迷惑を掛けることになると思うんだ」


「いや、そんなこ――」

「みんなが気にしなくても俺が気にするんだ。それに、とみみんもさっき言ってたけど俺ってレベル上げ作業大好きのバトルジャンキーじゃん? だからみんなとの差を埋める為にも、教えてくれないかな?」

 とみみの発言を妨げ、一気に自分の考えと気持ちを伝える。


「ソラさんずるいっすよ。そんなこと言われたら、あっしが断れないの知ってる癖して言うんすから」


「ごめん。ありがとう」


「それでは、レベル10前後と15前後の人たちにオススメの狩場を2つ教えますが、絶対に無理はしないで下さいよ!

 あっしのせいで、ソラさんが消滅なんてことになったら、"@ホーム"のメンバーに殺されちゃいますからね?」

 俺が「了解!」と答えると、とみみはオススメの狩場を教えてくれた。とみみにお礼を伝えると、一度自分に部屋に戻って準備を整えると、真夜中のノーブルの町から抜け出してとみみのオススメの狩場へと向かった。


 俺は夜更かしが得意だ。最初はオンラインゲームの影響で夜の遅い時間(人によっては早朝ともいう)に活動していても、平気な体質になった。その体質は意外な事に仕事で大きく役立った。どれだけ深い時間でもパフォーマンスを落とさずに仕事に取り組む姿勢には、同僚も上司も部下も感嘆していたものだ。今はその仕事で慣れた夜更かしの体質が、この世界で役立つのだから、人生何が起こるかわからない。




 ◆




 端末の地図を見ながら、とみみから聞き出したレベル10前後のプレイヤーにオススメとされている狩場の座標を目指して移動する。

 到着した狩場は、ノーブルの町から西へ向かった先にある山の麓だった。山の中腹にはコボルトの集落が多数あるらしく、麓にも2〜5匹のコボルトの群れが彷徨いているとのことだ。

 静けさが漂う周辺を見渡すと、前方に怪しく光る6つの目が見える。目を凝らして光の正体を探ると3匹のコボルトの群れを発見した。

(コボルトです。討伐推奨レベルは7です)


 まずはブーメランを装備した。


 コマンドアタック!


 左手から投擲されたブーメランは弧を描いて、1匹のコボルトに命中すると、手元に再び戻って来た。


 闇夜に光る6つの目をキョロキョロと動かして周辺を見回る。俺を発見すると、バウッ! と雄叫びをあげてこちらに走って来た。コマンドによる硬直が解けても幾分距離があるので、向かってくるコボルトに意識を集中して魔法を唱える。


「コマンドウィンド!」


 ブーメランを手にした左手に体内から奇妙な力が集まる感覚を感じと、ブーメランの先端からヒュルルン! と風が靡(なび)く音と共に小さな風の刃が駆け寄るコボルトの群れに放たれる。風の刃はコボルトの群れを切り裂くがコボルトはスピードを落とす事なく手にした鉈を振り上げて襲い掛かってくる。


 魔法弱くね!? 硬直は直ぐに収まったので慌てて端末を操作して装備を青銅の槍に変更する。事前に装備変更の練習はしていたが、初めての実践に多少もたつく。目の前にはすでに3匹のコボルトが迫っている。


 コボルトは振り上げた鉈を俺に向けて振り下ろす。LV12で覚えたばかりのバックダッシュを使って、後方に大きく跳躍する。俺の元いた場所に振り下ろされた鉈の一撃を無事に躱す事ができたようだ。


 俺は手にした青銅の槍を構えて、パンドラの戦いをイメージしながら、コマンドに頼ること無くコボルトに連続した刺突を繰り出す。連続した刺突にコボルトの行動は阻まれてなかなか前進できずに攻めあぐねている。立ち位置を変えながら刺突を繰り返す事により1匹のコボルトが槍に体を貫かれ地に倒れる。


 イテッ!? 背中に灼けるような痛みを感じる。知らぬ間に背後に回り込んでいたコボルトから鉈で切りつけられたようだ。

(マスター。被害は軽微。被ダメージ18です)


 体の方向を変えるとバックダッシュで大きく跳躍し、2匹のコボルトが正面に来るように位置取り再度槍による刺突を繰り返す。


 戦闘開始からおよそ3分。眼前には3体のコボルトの亡骸が横たわった。


 その後も山の麓を歩き回り、30体以上のコボルトを武器を次々と変更して倒し続けた。


 10分以上周辺を探索してもコボルトの姿が見つからなくなったので、適当に素材を採取してノーブルの町へと帰還した。


 ノーブルの町に辿り着き宿屋に戻ると、自分の部屋で先程の戦闘を思い出して、それぞれの武器で戦った時の特徴と課題を洗いだす。


 まずはブーメランだ。コマンドアタックを使わないとほぼ当たらないし、手元にも戻って来ない。何度も繰り返しコマンドアタックをして投擲の感覚を体に染み込ませる必要性があるようだ。また、コマンドアタックを使わなければ当たったとしても大したダメージは入らなかった。とみみの弓矢の様に遠距離から一方的に攻撃をすることは、今の俺には出来ないようだ。敵との距離がある時に、コマンドアタック限定で使用するのが良さそうだ。


 次に魔法ウインドだ。はっきり言って低威力過ぎる。一応ダメージは入ってるらしいが、本当にこれで敵を倒せるのか疑問だ。俺のワクワクさんを返して欲しい。今はまだ戦力としては期待できないが、いずれ花咲くことを信じて余裕がある時に使っていこう。ちなみに魔法もコマンドで使用した時の感覚をトレースすれば、コマンドを使わなくても発動する事は出来た。


 槍に関しては、パンドラの立ち回りを見ていたこともあり、なかなか使いやすい。弱点としては、刺突を中心に攻撃しているので、側面や背後からの攻撃に弱いことだろうか。リーチもあり、刺突で敵の動きも牽制できるので、今後も状況によっては使えそうな武器となった。


 斧に関しては、見本となる人もいなかったせいか、槍よりも扱いが難しい。一撃の重みはあるが、重量もあるのでコマンドを使わなくても攻撃後に大きな隙が生まれる。アタッカー専門になる時があれば一考の価値はあるか。


 短剣に関しては、とにかく使いやすい。コマンドアタックでも硬直はほぼない。コマンドを使わない攻撃でも、振りが早くスゴイ手数で攻撃ができる。反面、威力は非常に弱い。槍の刺突1回と短剣の斬撃と刺突5回を比較しても、槍の刺突のほうがダメージが入っているかもしれない。小回りの効く武器なので、喉元などの弱点を狙いやすく、隙も少ないので回避もしやすい。これも今後は状況によって使い分けていきたい武器だ。


 最後に新しく習得した汎用スキル"バックダッシュ"についてだ。これは神スキルだ! 10秒に1回しか使えないという制約はあるものの、ノーリスクで敵の攻撃を瞬時に避け、敵との距離も測れる。今後も回避の主要スキルとして使っていくことになりそうだ。


 今日の戦いの振り返りを終えて窓から外を見た。

 すでに太陽が昇り始めている。これはヤバい!? と慌てて布団に入って眠った。


 名前:ソラ

 クラス:盗賊(LV13)

 サブクラス:未設定


 生命力:244

 精神力:82

 腕力 :96

 耐久 :53

 敏捷 :168

 魔力 :68

 神力 :53

 運 :140



 攻撃力:283

 防御力:208


 所持金:670G


 装備品

 左手:フェザーソード

 右手:木の盾

 頭:魔法のバンダナ

 腕:皮の籠手

 体:銀の胸当て

 足:オオカミの脛当て

 装飾品:なし

 アクセサリー:@ホームの絆

[サブウェポン]

 青銅の槍。青銅の斧。鉄の短剣。ブーメラン。


[ユニークスキル]

 マルチウェポン。大器晩成。

[汎用スキル]

 採掘。採取。採伐。料理。

 バックダッシュ 。

(素早く後方へ下がる。硬直はないが連続使用はできない)

[盗賊スキル]

 スティール。解錠。盗賊基礎魔法習得。

[剣術スキル] 剣術LV12

 スラッシュ。スイープアタック。

 受け払い。

(タイミングよく剣を払う事により対象の攻撃を無効化する)

[槍術スキル]槍術LV3

 疾風突き。

(素早く対象を刺突する)

[斧術スキル]斧術LV2

 なし

[短剣術スキル]短剣術LV3

 スタブ。

(素早く対象を刺突する)

[投擲術スキル] 投擲術スキルLV6

 パワースロー。

[魔法]

 ウインド。ウインドヒール。

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