募集

 湖畔からノーブルの町へと戻った俺たちは、冒険者ギルドでクエストの報告を済ませてから解散する。


 一人になった俺は、貯まった素材を買取所で換金した。


 先ほどのクエスト報酬と合わせて所持金が8200Gとなった。


 懐も暖まったので、魔法屋へ行き"ライト"と"アラーム"の魔法を購入した。


 魔法を購入すると宿屋へは戻らずに、とみみから聞いていたLV15前後のオススメの狩場へ向かった。


 端末の地図を見ながらとみみから聞き出した座標を頼りにノーブルの町から東へ30分程進むと木々に囲まれた森の中へと辿り着いた。


 確か……対象のモンスターは"キラービー"とか言う蜂型だっけ? 辺りを見渡して、対象となるモンスターを探す。ブゥーンという大きな羽音が聞こえる方角に目を向けると70cmほどの巨大な蜂が木の周辺を飛び交っていた。キラービーは複眼の顔に凶悪な顎(あぎと)。お尻には鋭い針が付いていた。元の世界で蜂に刺された経験は幸い無いが、絶対に痛いんだろうなという確信はあった。


 とみみの情報では、リンクはしないが一定の縄張りに入ると集団で襲いかかって来る習性があるらしいので、ブーメランを使い1匹ずつ釣って倒すことにした。


 コマンドアタック!


 投擲したブーメランが弧を描き1匹の殺人蜂(キラービー)に命中する。ブーメランを受けた殺人蜂は羽音を立てて飛びかかって来た。

(キラービーです。討伐推奨レベルは13です)


 空中を飛び回る殺人蜂に剣や槍では中々攻撃を当てる事が出来なかった。小回りの効く短剣に持ち替えると、ダメージは少ないが確実に攻撃を当てる事が出来た。殺人蜂は素早さこそあるものの、生命力は少ないらしく、短剣の少ないダメージでも数回命中させる事で何とか倒す事が出来た。襲いかかる顎と針の攻撃を躱して、時には"右手"に手にしたフェザーソードで受け払い、短剣での刺突を繰り返す事で殺人蜂を次々と倒していった。


 新しく覚えた"二刀流 (小)"は、逆手に短剣かブーメランを装備することができるスキルであった。斧だけは両手装備の為逆手には何も持てず、左右の手に剣や槍を装備することも出来なかった。コマンドに頼れば、逆手である右手でも問題無く攻撃できたが、コマンドに頼らない場合はぎこちない動きとなり、トレースをする事もできずになかなか攻撃を与えることができなかった。右手でのスムーズな攻撃が今後の課題となった。

 先日のリザードマンとの戦いで気付いたのだが、俺は盾を使うのが余り好きで無いらしい。極力回避か受け払いを選択してしまう傾向があるので、今後は右手には短剣を持とうかなと考えた。


 湖畔帰りで疲れも溜まっていたので、1時間程度でソロ活動を切り上げて、地に倒れたキラービーの亡骸に端末にかざしてからノーブルの町への帰路へと着いた。


 ノーブルの町に辿り着くと、宿屋へ戻った。流石に疲れていたのか、部屋に着いた途端倒れこむようにベットに横たわりすぐに寝付いた。




 ◆




 翌朝、2日振りのベッドでの安眠から目覚めると、1階の食堂ですでに待っているであろうとみみとパンドラと合流をして今日の予定を話すことにした。


「とみみん。今日の予定は??」 


「実はですね、ここから3日ほど西に歩いた先に"ゴブリンの巣穴"と呼ばれる洞窟があるんすよ。奥にはランダムドロップですが、優秀な装備品が手に入る宝箱が存在するという話があるんすよ」


「ほお。でもそんな噂になるような場所ならもう誰かが攻略済みなんじゃないの?」


「へい。それが一定期間経てばまたモンスターも宝箱も復活するらしく、最近は誰も行ってないのでそろそろいい頃合いなんじゃないかと、噂になってるっす」

 どうやら、この世界には無数のダンジョンが存在し、そこのモンスターや宝箱は一定の期間にて復活を遂げるらしい。パンドラの補足では、文献によると、空気中に漂うマナが凝縮し、モンスターや宝箱、素材を生成し続けるとか……なんか難しい話をしてくれた。


 また、こちらの世界では洞窟などのダンジョンを攻略するときは、冒険者ギルドにリーダーの名前・攻略開始日・メンバー人数を届ける事を義務付けられるらしい。洞窟に入れる人数にもキャパシティがあるらしく、大人数による強引な攻略や、攻略に向かったものの何も無いということは回避できるとのことだ。


「届出をしなかったらどうなるん??」


「届出をしなくても、誰も届出をしてなければ攻略は可能っす。実際に確認した訳でないですが、ダンジョンに入った瞬間にギルドでその情報が確認出来るらしく、その時点で他のプレイヤーは届出が出来なくなるっす」


 不思議な現象を聞いて俺の疑問は尽きない。届出済みやすでに攻略を開始しているダンジョンに入るとどうなるんだろ??

(その場合はダンジョンに入る事が出来ません)


 それは何で??

(創造主様が、願いによってその様に創られたからです)

 他にも聞きたい事はあったけど、質問すると今みたいな釈然としない答えが返って来そうだ。深く考えずに、今は目の前のとみみの提案に乗るとしよう。


「ダンジョンの仕組みは理解したよ! 楽しそうな案件だし、是非それで行こう!」

 なんやかんやでダンジョン攻略はココロオドルものがある。


「そういうと思って、昨日申請しときました」

 流石はとみみ! 先回りのできる猫耳紳士だ。


「あと…事後報告になるんすけど……」

 とみみは少し不安な顔で告げる。猫耳も心なし下がって見える。


「実は攻略メンバーを4人で登録したんすよ」


「4人?? 誰か当てはあるの?」


「いえ、ギルドの募集掲示板で野良募集でもしようかと」

 特に野良募集に関しては問題は無い。むしろ一期一会の冒険は固定メンバーとは一味違った楽しみもある。


「いいんじゃないかな? 準備も無いならギルドへ行こっか。パンドラさんもいいよね?」

 パンドラも「いいですよー」と賛成してくれたので、早速冒険者ギルドへと向かった。




 ◆




 冒険者ギルドへとたどり着いた俺たちは、入り口にあるパーティー募集掲示板に目を向ける。


 掲示板を見ると30枚ほどの用紙が貼られている。

 用紙には、名前・クラス・レベル・目的・その他 (所用時間や、募集しているクラス、自己PR? など)の項目が記載されており、掲示板の左側がパーティーメンバーの募集、右側がパーティー参加希望とローカルルールで分別されていた。

 

 掲示板に貼られている用紙を見るとレベル上げの募集や参加希望が多く見受けられる。中には、"猫耳の女性冒険者募集!!" という意味不明な用紙もある。

 募集で人気のあるクラスは"僧侶"と"騎士"だ。やはりオンラインゲーム経験者の考えることはみんな同じだ。ヒーラーとタンクは常に需要があるようだ。


 三人で相談しながら、掲示板の参加希望の用紙を吟味する。俺たちが求める人材は"タンク"だろう。"タンク"はパーティーの生命線となる非常に重要な役割だ。


 "騎士"で参加希望をだしている用紙は2枚しかない、"戦士"でタンクもやります! という用紙はいくつかある。


「どうする?」

 と俺が二人に尋ねると


「このアルフォンスさんって騎士は、数回パーティーを組んだ事があるっす。ヘイト管理も上手いですし、頼りになるっすよ! 参加の目的は異なりますが、話せば多分参加してくれると思うっす」

 募集を出していた騎士はとみみの顔見知りらしく、交渉をお願いする事にした。


「アルさん。お久しぶりっす!」

 とみみは、親しみのある笑顔で銀製の全身鎧(フルプレート)を身に纏った、黒髪の精悍な顔つきをした男性に話しかける。


「お! とみさん。久し振りですな」

 アルフォンスも笑顔で答える。


「今から"ゴブリンの巣穴"に行こうと思うんすけど、ご参加いかがっすか?こちらはすでにメンバー3人揃ってるっす」


「んー。"ゴブリンの巣穴"ですか。同行メンバーは誰でしょうか?」

 とみみは、俺とパンドラの方を一瞥する。

「こちらのソラさんとパンドラさんです。クラスはそれぞれ、盗賊と従者ですが、戦力としてはかなりの腕前っすよ」

 とみみが俺とパンドラを紹介してくれた。

「初めまして。ソラと申します。クラスは盗賊でレベルは16です」

 バンドラも俺に続いて、自己紹介をする。


 アルフォンスは、とみみへ近付き何やら小声で話しをしている。とみみは、数回頷き答えている。アルフォンスはこちらに近付き自己紹介してくれた。

「初めまして。アルフォンスです。クラスは騎士でレベルは19です。とみさんには、駆け出し当初お世話になっておりました。よろしくお願いします」


 交渉は成立したようだ。


 後から聞いた話しだが、アルフォンスは俺のレベルが低いことを懸念したらしい。"ゴブリンの巣穴"は攻略推奨レベルが4人パーティーで18〜らしく、レベル16の盗賊が行くことは些か危険と思ったようだ。


 その後、ギルドの共有スペースで今後の予定や戦闘方法の作戦などを大まかに話し合った。道具屋で各自準備を終えると"ゴブリンの巣穴"を目指して旅立った。


 今回のパーティーでの戦闘スタイルは、とみみがアタッカー、パンドラがヒーラー、アルフォンスがタンク、俺がアタッカー兼タンクの遊撃で決まった。




 ◆




 道中ハプニングもなく、代わり映えのしないモンスターを討伐しながら進んでいると、前方から「ギィ! ギィ!」と騒がしい騒音が聞こえてくる。


 注視して見ると、前方に12匹ものゴブリンの大群が何やら獣の肉体を頬張っている。


「12匹か……多いな。どうする?」

 みんなに、迂回するかを尋ねると

「あの程度の数なら問題ない。進もう」

 アルフォンスは戦うつもりだ、とみみも戦う気らしく弓を構えている。

 俺は「了解!」と頷くと。


「アローレイン!」


 とみみが放った先制の弓矢の雨がゴブリンの集団に降り注ぐ。上空から降り注ぐ無数の弓矢にゴブリンが慌てふためき食事を中断してこちらに向かってくる。


「タウント!」


 ゴォーン! と金属同士を打ち据えた音が響く。アルフォンスはいち早く俺たちの前に出ると、手にした槍で盾を打ち叩き、対象のヘイトを集めるスキル"タウント"を発動する。


 鳴らされた盾の音に吸い寄せられる様に、全てのゴブリンが一目散にアルフォンス目掛けて突撃をする。


 カン! カン! キーン! と金属同士がぶつかり合う激しい衝突音が響き渡る。大きな盾を構えたアルフォンスが全てのゴブリンの攻撃を受け止めたのだ。


 おぉ!? カッコいい!! と感心ばかりしてはいられず、すかさずゴブリンの集団の背後に移動してフェザーソードを水平に振るって、アルフォンスに執着して固まっているゴブリンを5匹まとめて一掃する。とみみもヘッドショットの火矢を放ち続けて1匹ずつ確実に倒していく。

 パンドラはアルフォンスにヒールを唱えようとするも、「不要!」と言われ、攻撃に参加する。


 わずか1分ちょっとで、そこにはゴブリン12体の亡骸が倒れていた。


「意外にあっさりだったね。アルさん生命力は大丈夫?」

 全ての攻撃を受け止めたアルフォンスに聞くと。

「あの程度の攻撃、全く問題になりませんな」

 アルフォンスからは頼もしい答えが返ってきた。


 その後もひたすら西へと足を進めた。拓けた草原に辿り着くと陽も沈んできたので、今日はここでテントを張って野宿することにした。




 ◆




 食事をしながら今日の戦いについて、みんなで話し合う。


「アルさん、硬いねー。差し支え無ければ、防御力どのくらいあるの??」

 アルフォンスはまさに鉄壁だ。道中どれほどの攻撃を浴びてもビクともしない姿のアルフォンスに俺は率直な質問を投げかけた。


「ん? 防御力は434ですな」

 アルフォンスは端末見ながら答えてくれた。

「うは!? 俺の倍近くある!?」

 俺は驚嘆の声を上げた。とみみとパンドラも少なからず驚いている。


「いやいや。皆さんだから信用して話しますが、俺のユニークスキルの影響も大きいですね」

 どうやら、アルフォンスのユニークスキルは"シルバーマスター"と呼ばれるスキルで、銀製品の装備品に限り効果が高まる効果があるとのことだ。


「皆さんも、お強いですな。連携した動きもそうですが、ソラさんはレベルに見合わない強さですし、パンドラさんも従者ですが本職さながらに回復に攻撃もできますし、とみさんは相変わらずの超精密射撃での火力が凄まじいですな」

 アルフォンスなりに俺たちの戦力を分析してたようだ。

 俺たちも自分たちのユニークスキルの内容を明かした。ちなみに、俺はマルチウェポンのみを伝えて大器晩成の存在は話さなかった。


 野良パーティーや初対面での相手にはユニークスキルの内容を話さないし聞かないのが暗黙の了解によるマナーらしい。今回告げられた俺たちのユニークスキルの内容を聞いて、アルフォンスは心を開いた事に関してなのか、嬉しそうな表情を浮かべた。

 パンドラのみ、いまだユニークスキルの恩恵に授かれず少し悲しそうだった。


 旅路はその後も順調に進み、ノーブルの町を出てから3日目の昼前に"ゴブリンの巣穴"へ辿り着く事が出来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る