買い物
パンドラに案内してもらい魔法屋を目指した。杖をモチーフにした看板が掲げてある洋館の前でパンドラが立ち止まった。
「ここがこの町の魔法屋ですよ。昨日も下見したのですが、開拓者では使える魔法が無かったんですよー。今は従者の基礎魔法が習得できるので楽しみです」
パンドラは、獣族だったら尻尾が高速でパタパタしてるんだろうなぁと思えるほどの満面の笑顔で魔法屋に入っていく。
魔法屋の中に入ると、ローブを着込んだ怪しい老夫婦が店番をしている。店内を見渡すと古本屋のような感じだろうか? 所狭しと設置されている本棚に様々な書物が陳列されていた。俺のイメージしていた魔法屋とは少し違った。
「開拓者様。いらっしゃいませ。当店は全ての基本職の魔法書を取り扱う魔法屋ですじゃ。開拓者様はどのような魔法をお探しですかな?」
老婆が対応してくれた。パンドラはすでに欲しい魔法書に目星をつけていたのか、すでに本棚の前で熟考している。
「初めまして。開拓者のソラと申します。先ほど盗賊にクラスアップしたばかりなので、盗賊の魔法を見せて頂ければ助かります」
「ふぇっふぇっふぇ。珍しく礼儀正しい開拓者様だねぇ。これは少しサービスをしてあげなきゃいけないねぇ。盗賊が習得可能の魔法書はこちらの棚になるよ。ゆっくり選んでいきなされ」
案内された本棚には、数種類の本(魔法書)が陳列されている。基礎、応用とあるが俺は基礎までしか習得することができないので、基礎の魔法書が陳列されている本棚を見る。
どうやら、盗賊の初級魔法は4種類あるようだ。価格はどれも1000G。決して安い価格ではない。
そういえば、まだ換金してない素材が多数あるがここで換金できるのだろうか?
(いいえ。素材の換金は村に設置されている万屋(よろずや)か買取所でしか換金できません)
なるほど。そういえば、トマリ村の武器屋(と俺が呼んでいた店)は万屋だったな。
とりあえず、今はどんな種類の魔法があるのかを把握するだけにしよう。
盗賊の初級魔法は……
・ライト
(周辺を炎属性の光で明るく照らす)
・アラーム
(敵が触ると、大きな音を発する罠を仕掛ける)
・ウィンド
(殺傷力のあるつむじ風を起こし、前方の敵にダメージを与える)
・ウィンドヒール
(優しい風を起こし、周囲の者の生命力をわずかに回復する)
どれも便利そうな魔法だが、今の所持金では全ての魔法書を買えない。装備品も見なくてはいけないのでとりあえず値段と効果を頭の片隅に控えた。
「パンドラさん? ちょっと所持金が足りないので、買取所で換金してきますね。あと、装備品も見てから決めたいので、武器屋さんにも行きたいのですが、いかがでしょうか?」
「あ!? そうですよね。私も換金はまだなのでご一緒します。武器屋は昨日行ったらもう閉店してたので、私も一緒に行きたいです」
気の所為だろうか? パンドラから焦りを感じる。まさか、計算しないで魔法書を買うつもりだったのだろうか……。
魔法屋の老夫婦には換金してからまた来ますと伝えて買取所に向かった。
買取所は魔法屋のすぐ近くにあった。買取所はコインをモチーフにした看板が掲げられており、宝クジ売り場の様な小さな建物で窓越しのカウンターには眼鏡をかけた小太りのおっさんが座っていた。
「いらっしゃいませ。買取をご希望なら、こちらの上に端末を置いて売却したい素材を選択して下さい」
窓越しに小太りのおっさんはカウンターに設置されている黒いプラスチック製の板の様な機械を指差す。
俺は言われた通りに端末を機械の上に置くと、端末の画面には所持している素材と買取金額が表示された。表示されている素材を次々と選択して、最後に"承認"と表示されたアイコンを押すとチリーン! と音がして端末にはお金が振り込まれていた。
ハーピーの素材は高額の買取金額が表示されていたが、まだレベルが足りずに受けられなかった納品クエストの対象アイテムにも指定されていたので買取は見送った。
換金した結果、所持金は7720Gになった。
今まで無駄遣いもせずに、約2週間もかけて貯めた俺の全財産だ。
懐も暖かくなり少し気分が大きくなった状態で武器屋を目指した。買取所のすぐ近くにあった武器屋は2階建ての大きな建物で、1階が武器専門店で2階は防具専門店となっていた。鉄製や木製のように素材ごとに売り場は分かれており、店内は大型のホームセンター位の広さであった。
装備可能品も異なる為、パンドラとは別行動をして武器や防具を物色することにした。
装備品の価格帯は安いモノは50G〜。高いモノでは10万Gを超える高額な装備品と様々な装備品が広い店内に所狭しと並べられていた。
店内を見て回ると普段よりも少し安いらしいセール品や、タイムセールの告知がされている安価な装備品もあれば、店内の中央にあるショーウィンドウの中には24万Gという超高額な槍まで展示されていた。店内には多くのプレイヤーが装備品を手に取って確認しており、非常に騒がしい賑わいをみせていた。
そして、陳列されている装備品の能力を見ていて気付いたのだがハーピーがドロップした"フェザーソード"は1万G付近の武器と同等の攻撃力であった。かなりの逸品だったようだ。
俺は買いたい魔法書もあったので、予算は5000Gと決めて防具を中心に揃えることにした。
俺の購入したモノは以下の通りだ。
・銀の胸当て
防御力は87。これが一番高かった……でも本日限定で70%オフの先着3名と言われたら買うしかないだろう。ちなみに2980Gだ
・バンダナ
防御力は16。疾風のバンダナとかいう、能力も高く素晴らしいバンダナもあったが当然予算が足りなく、普通の赤いバンダナにした。ちなみに300Gだ
・オオカミのすね当て
防御力は18。狼の毛皮を使用した足回りを守ってくれる装備品だ。ちなみに500Gだ
あとは、300G未満の槍やブーメランや斧に短剣といった4種類の武器を購入した。これはせっかくのユニークスキルを活かす為だ。
籠手は"盗賊の籠手"という、12,800Gもする高級品があった為、いずれそれを買おうと今回は見送った。
ちなみに、鉄の剣はここで売却できたが10Gだった。販売価格は80Gだし、利幅取りすぎだろ! と思った。
装備品を買い揃えた俺は、槍の販売コーナーで高そうな槍を購入してホクホク顔のパンドラさんと合流した。お互いの購入したばかりの装備品を見せ合いニマニマしながら魔法屋へと戻った。
魔法屋へ戻ると、老婆が笑顔で対応してれた
「おやおや。ソラ様おかえりなさいませ」
俺も老婆に挨拶を返して、"ウィンド"と"ウィンドヒール"を購入したい旨を伝えた。
「お買い上げありがとうございます。こちらの魔法は当然本職である魔術師や僧侶と比べると効果も小さくなっておりますので、ご注意下さいませ」
俺は購入した魔法書を使用して、早速魔法を習得した。
「そういえば、ソラ様には何かサービスをするお約束をしましたねぇ」
俺はてっきり、リップサービスの冗談だと思っていたが、違うらしい。
「それでは、その素敵なバンダナに魔法の力でも付与してあげようかねぇ。本当は、然(しか)るべき施設で対価を払わないと受けられないんだよ」
老婆は笑顔でそう言いながら俺が差し出したバンダナを受け取った。老婆は、バンダナになにやら手をかざして呪文のような言葉を呟いている。
バンダナは淡い光に包まれた。包まれた光が収まると老婆が差し出したバンダナを受け取った。
バンダナは"魔法のバンダナ "へと生まれ変わっていた!?
「ありがとうございます!」
「ふぇっふぇっ。これは、エンチャントというスキルだよ。あたしじゃ大した効果は付与できないが、何もないよりはマシさねぇ」
老婆は笑いながら答えてくれた
「本当は、正規の施設以外でこうした能力を他人の為に使うことは禁じられているから、口止めの意味を込めて、そちらのお嬢さんの籠手にも付与してあげようかねぇ」
突然声を掛けられたからパンドラはビクッとしながらも嬉しそうにピンク色の革製品の籠手を差し出した。
「このことは他の開拓者様には内緒で頼むよぉ」
俺たちは当然「「わかりました!ありがとうございます!」」とお礼を述べて魔法屋を後にした。
魔法屋から出ると
「いやぁ。ラッキーだったね!」
「そうですね!! ソラさんが礼儀正しくて好感度も高かったお陰ですよ!!!」
パンドラは興奮したように話しかけてくる。「よっ!熟女キラー!」とか興奮し過ぎておかしな言葉を口走ったパンドラを華麗にスルーする。礼儀正しいというか、職業柄、初対面の相手、特に商談を行う際に自己紹介をするのは俺に染み付いた習性だ。
「とりあえず、これからとみみんと連絡を取って今後の予定を話し合いたいんだけど、パンドラさんも一緒にいいかな?」
「はい!わかりました。私も今後の予定について話したかったので!」
正直言えば、新しい装備品と魔法を試したくてウズウズしていたのだが、やはり危険な世界にいるのでまずは計画性を持って行動することを重視することにした。
時間もちょうど昼過ぎになったので、端末のフレンド会話でとみみに連絡を取り、宿屋の1階の食堂で合流することにした。
◆
パンドラと共に宿屋に戻ると、1階の食堂のテーブル席に座っているとみみの姿が見えた。
「ごめーん。お待たせ!」
「いえいえ。あっしも今来たところっすよ。それはそうと、ソラさんとパンドラさんは装備を更新したんすね」
俺はパンドラと共に過ごした朝からの行動をとみみに報告した。
「さて、早速ですが飯にしましょう。今日は流石に割り勘っすよー 」
やはり割り勘か……。実は先ほどの買い物で残金は700Gまで減少していた。流石にご飯は食えるだろう。隣に座ったパンドラも端末に表示されている残高と、メニュー表の価格を交互に見て難しい顔をしている。
俺はとりあえず、一番安い30Gのランチを注文した。パンドラも同様のランチだ。とみみだけは50Gもするスペシャルランチを注文している。このブルジョア猫耳紳士めっ。
「お二人はこれからどうするんですか?」
ランチを食べていると、パンドラが話しを振ってきた。
「んー。すぐに出発する訳じゃないけど、"神殿"を目指す予定だよ」
「"神殿"ですか? 何か目的があるんですか?」
先日とみみに話した内容と同様の"神殿"の説明をパンドラにも話した。
「なるほどー。"神殿"はそんな施設だったんですね。この世界の神話のような文献に"神殿には真理を築く英雄達の路の標(みちのしるし)がある"と書いてあったんですが、その事と何か関係あるんですかね?」
んー。今は材料が少なすぎて判断ができない。パンドラは本当に文献とか読むの好きなんだな。
「その文献との関連性は分からないけど、ジェネシスオンラインのβテストがこの世界に来たきっかけならば、とみみん以外にも仲間が来てると思うから、それの確認をするのが目的かな」
「それでいつ頃出発するんですか?」
「うーん……そうだね……」
キュロ? ここから神殿までどの位の時間がかかる?? あと、神殿に行くまでの適正レベルが分かるならそれも教えてくれ。
(はい。マスター。ここから神殿までの距離は、寄り道をせずに向かって、途中モンスターと遭遇して戦闘をすることも考慮に入れるとおよそ90日です。
また、ここから神殿までの最短距離を通る場合に推奨とされるレベルは25〜30です。但しパーティーを組むことにより必要レベルは減少致します)
なるほど。今回の質問にはちゃんと答えてくれたようだ。
「今ナビゲーターに聞いてみたら、適正レベルはソロで25〜30らしいので、途中で成長をする事も考慮してLV20まではこの町を拠点にレベル上げをしようと思うけど、とみみんはどう思う?」
「いいんじゃないっすか? あっしはソラさんの判断と分析を信じているので付いて行きますよ」
そういえば、GSをプレイしてた頃も常に俺が◯◯に行きたいと率先して言い、レイドコンテンツでも作戦を練ると、みんなはそれに付き合ってくれてたな。
「なるほどですね。えーと……実は私も向こうの世界でやってたオンラインゲームのフレンドがこっちの世界にも来てるかもしれないので、探そうと思ってました。それで……最初はこの町を探してから王都に行ってみようかと思っていたのですが、ソラさん達と行動を共にする方が、探しているフレンドに会える可能性は高そうですね」
パンドラは、考えながら言葉をまとめて話しているようだ。
「あのー。私の探しているフレンドに会うことができたらパーティーを抜けるかもしれませんし、とみみさんの様に強くもないですし、ソラさんの様に思慮深くもないのですが……私をパーティーに加えて頂けませんか??」
俺ととみみは、互いに目を合わせて頷く。
「もちろん! これからもよろしくね!」
こうして、正式にパンドラも仲間に加わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます