クラスアップ

 とみみとの会食を終えた俺は、パンドラと待ち合わせをした宿屋へと向かった。


 宿屋に到着すると、受付にて宿泊の手続きをする。流石は大きな町の宿屋だ。内装も清潔感があり日本のホテルの様だ。宿泊料金も高く、トマリ村の宿屋の10倍もする100Gであった。

 受付の人にパンドラの事を聞くと、どうやら先にチェックインしているようだ。


 受付の人に案内された自分の部屋に入ると、端末のフレンド会話を使ってパンドラに宿屋に戻ったことを報告。明日の朝食の時間もついでに約束をした。


 そういえば、パンドラは今後どうするのだろうか? 流れで同じ宿屋に泊まったが、当初の話ではこの町に来るまでパーティーを組もうと話していたな。まぁ、明日の朝食の時にでも聞けばいいか。


 部屋に入った俺は、今日1日に起きた出来事を頭の中で整理した。ハーピーとの死闘。ギルドへの登録。とみみとの出会い。ジェネシスに来てから一番慌ただしかった1日は間違いなく今日だろう。


 そして、明日はいよいよクラスアップだ!!


 クラスアップをするにあたって、一番注意しなくてはいけないことは、"クラスチェンジができない"。つまり、やり直しが効かないということだろう。昨今、元の世界でも転職は当たり前として行われているのに、なんて融通の効かない世界なんだろう。


 懸念される事としては、ハズレ職があるかもしれないということだろう。この世界は、ユニークスキルや、開始地点のランダム性等……随分と不平等な事象が目立つ。クラス間でも恐らく同じ様に優遇、不遇があると考えたほうがいいだろう。


 まずは、頼れる相棒に相談してみよう。


 キュロ? 8つの基本職の中で強かったり、有利になるクラスはある?


(全てのクラスに一長一短があります。一概に強い、弱いを判断することはできません。また、マスターが先ほど懸念されていた件ですが基本職から上級職へクラスアップする時も複数のクラスから選べる為、基本職からハズレ職ということはありえません)


 ふむ。クラス間の性能格差はあまりないのか?


 それじゃあ、キュロ? 俺はどの基本職にクラスアップするのがいいと思う?


(マスターがなりたい基本職を選ぶのが一番いいでしょう)


 うーん。ご飯屋さんの相場まで教えてくれる万能ナビゲーターでも、人生相談には乗ってくれないらしい。そういえば、キュロはここぞという選択は全て答えてくれない気がするな。


 頼れる相棒にも振られたので、俺は自分で再度考える事にする。


 基本職は確か8つあって、それぞれどんな特徴があったっけな?


(マニュアルより該当項目をお答えします。

 戦士

 多くの武器を扱い、強靭な腕力で敵を粉砕するアタッカー

 生命力◯精神力×腕力☆耐久◯敏捷△魔力×神力×運△

 闘士

 信じるものは己が肉体、無手にて素早く敵を葬るアタッカー

 生命力☆精神力×腕力◎耐久△敏捷◎魔力×神力×運△

 騎士

 強固な装備を身に纏い、仲間を守る盾

 生命力◎精神力△腕力◯耐久☆敏捷×魔力×神力△運△

 僧侶

 神秘の力にて、味方を癒すヒーラー

 生命力◯精神力◯腕力◯耐久◯敏捷△魔力△神力☆運△

 魔術師

 強大な魔力の力にて、敵を殲滅するアタッカー

 生命力△精神力☆腕力×耐久×敏捷△魔力☆神力△運×

 盗賊

 冒険に役立つ様々な特技を習得する万能職

 生命力◯精神力△腕力◯耐久△敏捷☆魔力△神力△運◎

 狩人

 弓にて、敵を討つサブアタッカー

 生命力◯精神力△腕力◎耐久△敏捷◎魔力△神力×運◯

 従者

 仲間の支援を何よりもの生き甲斐とする支援者

 生命力◯精神力◎腕力△耐久◯敏捷◯魔力◯神力◯運△)


 かつて、公式サイトで公開されていた内容をキュロは答えてくれた。


 ん? 公式サイトといえば、確かユニークスキルを今後のビルド方針に役立てろ、みたいな事も書いてあったな。


 俺のユニークスキルと言えば、マルチウェポンと大器晩成だ。大器晩成は、クラス問わず役立ちそうなスキルなので、マルチウェポンとの相性で考えてみよう。


 全ての武器をクラス問わず扱えるから……


 戦士は、特徴が被る為、ユニークスキルが死んでしまうな。闘士は素手で戦うみたいだから、相性はよくないだろう。騎士は防御主体だから、やはりユニークスキルの効果が活かしきれない気がする。僧侶と魔法使いは、魔法が主体になるだろうから論外だ。狩人も弓主体で戦うみたいだから、相性はよくないだろう。


 こう考えると、消去法で盗賊か従者となる。


 従者というクラスは今まで俺が経験したゲームの中でも聞き覚えのないクラスだな。支援特化らしいが…。うーん……クラス名の響きが好きじゃないから却下だな!!


 最終的に、消去法で残ったクラスは"盗賊"だ。


 キュロ? 盗賊って何の武器を装備できるの??


(盗賊は短剣、投擲武器、鞭、一部の剣と弓が装備可能です)


 ふむ。軽い武器が装備可能みたいだな。


 俺は、マルチウェポンを駆使した盗賊をイメージする。盗賊の素早さを活かしつつ、剣や槍や斧を振るって攻撃する。うん。重量の関係でどうなるか分からないが、なんか楽しそうだ。装備を変えればアタッカーにも支援職にもなれそうだし、決めた! 盗賊になろう。


 クラスアップの計画も決まった事だし、今日はもう寝ることにしよう。明日のクラスアップがホントに楽しみだ。




 ◆




 翌朝、ジェネシスに来て以来初めてのベッドでの就寝から目を覚ます。ベッドの暖かい温もりによる二度寝の誘惑と戦いながら端末の時計を確認すると、パンドラとの朝食の待ち合わせ時間5分前だ!? 慌ててベッドから飛び起き、洗顔をして装備品を身に纏い、パンドラの待つ1階の食堂へと足を運ぶ。


「おはよー!」


「あ?! ソラさんおはようございます」

 約束の時間にはギリギリ間に合ったと思うが、パンドラはすでに朝食の用意されたテーブル席に座っていた。俺はパンドラと同じテーブル席に座り今後の予定を尋ねた。


「パンドラさんのこれからの予定は?」


「私はまだクラスアップをしていないので、ギルドに行ってクラスアップをしようかと思います。ソラさんのご予定は?」


 これからの予定とは、今日以降も一緒に冒険するのか? と聞いたつもりが、今日の予定が返ってきた。まぁ、後でとみみと合流してからでも聞けばいいので、今はパンドラの質問に答えることにした。


「俺も昨日はクラスアップし損ねたので、ギルドに行ってクラスアップしようかと思います」


「お!? 一緒ですね。ソラさんは、どのクラスを選ぶんですかぁ?」

 パンドラは目を輝かせて嬉しそうに尋ねてきた。


「んー。俺は"盗賊"ですね。パンドラさんは?」


「"盗賊"ですかぁ。いいですねー。私は"従者"にクラスアップしようと思います」


「ほぉ。"従者"ですか。何でまた、"従者"に?」

 パンドラは、見たこと無い、そのゲーム独自のクラスを選ぶタイプの人なのだろうか。


「実は昨日、ギルドでクラス関連の文献を見ていたのですが、どうやら"従者"は上級職になると"錬金術師"を選べるようになるみたいなので、私のユニークスキルを考慮して、"従者"になろうかと」

 へぇ。ギルドにはそんな便利な文献があったのか。俺は町の中の人の話を聞きまわったり、文献を隅々まで読み漁るといった作業は苦手だ。

 当然上級職の存在は気になり、キュロに聞いたこともあったのだが

(その情報は持ち合わせておりません。マスター自らの手で探求して下さい)

 という、答えが来たのでてっきり未実装の類かと思っていた。俺はそんな風に答えると

「あはは。未実装って。ここは"ゲームの様な"世界であって、"ゲームの世界でなはい"んですよ」

 パンドラは一度笑うと、真剣な表情に切り替えて答えた。きっとパンドラは俺と違って仲間の死を経験している分、俺よりも真剣にこの世界に向き合っているのだろう。俺はとみみと出会う事が出来て気が緩んでしまい平和ボケしていたようだ。


「ごめん。確かにそうだね。その文献には他にはどんな事が書いてあったの?」

 俺が尋ねると、パンドラは端末を操作して何かを探している。後から知ったのだがこの世界の文献は一度端末をかざすと、端末の中に情報が収納されていつでも閲覧可能になるようだ。


「そうですねー。文献の内容によると…」


 パンドラの話しを要約すると、"クラス"について新しく得た知識は

 ・レベルが30になると上級職を選べる。

 ・上級職は基本職によって異なるが、6〜8つの上級職から選べる。

 ・従者は、生産に携わる上級職か支援に特化した上級職にクラスアップができる。

 ・従者は"錬金術師"、"鍛治師"、"踊り子"といった上級職になれる。他にもあるらしいが判明はまだしていない。

 ・盗賊は、素早さを活かした上級職か冒険に役立つスキルを覚える上級職へクラスアップができる。

 ・盗賊は"忍者"、"トレジャーハンター"といった上級職になれる。他にもあるらしいが判明はまだしていない。


 有用な情報はこれくらいだろうか。


 俺はパンドラの話しを聞いて考察し直したが、やはり"盗賊"を選ぶことにした。


 朝食を済ませて、食後のコーヒーも楽しんだ俺たちは宿屋を後にして冒険者ギルドへと向かった。




 ◆




 冒険者ギルドに到着すると、パンドラが教えてくれた様々な文献を端末に記録してから施設の奥の扉の先にあるクラスアップの部屋へと向かった。


 クラスアップの部屋は神秘的な雰囲気のする部屋であった。石のレンガに囲まれた殺風景な部屋の中央には大きな女神の像が設置されており、その前には少し髪の毛が寂しくなった年配の男性がいた。


「開拓者様。いらっしゃいませ。私はクラスアップの儀式を担当するヘンリーと申します。こちらでは、一定のレベルに到達した開拓者様のクラスアップをお手伝い致します。クラスは一度決めますと、二度と変更ができませんので、悔いのないよう慎重にお決め下さい」

 ヘンリーはすらすらと定型文を読み上げる

「開拓者様。クラスアップを行いますか?」

 パンドラと目を合わせ、まずは俺が肯定の返事を返すと

「それでは、ソラ様。こちらの女神の像に触れて、なりたいクラスを念じて下さい」


 俺は言われるままに、女神の像に触れると


(汝はどのクラスを望みますか。

 汝は、"戦士"、"闘士"、"騎士"、"僧侶"、"魔術師"、"盗賊"、"狩人"、"従者"から選ぶことができます。

 汝がなりたいと思うクラスを強く念じなさい)


 頭に突然、キュロとは違う、壮大な女性の声が響く。


 俺は"盗賊"になりたいと強く念じた。


 女神の像と端末が突然強く光始めた。


(おめでとうございます。汝は、"盗賊"としての路(みち)を歩くことを認証されました。この希望溢れるジェネシスの大地にて、汝の冒険に幸が多くあらんことを)


 女神の像と端末の光が消え、女神の声も聞こえなくなった。


 俺は端末のステータスを確認してみると


 名前:ソラ

 クラス:盗賊(LV10)

 サブクラス:未設定


 生命力:208

 精神力:64

 腕力 :75

 耐久 :42

 敏捷 :129

 魔力 :53

 神力 :42

 運 :107


 攻撃力:262

 防御力:94


 所持金:3280G


 装備品

 左手:フェザーソード

 右手:木の盾

 頭:なし

 腕:皮の籠手

 体:皮の鎧

 足:皮の靴

 装飾品:なし

 アクセサリー:@ホームの絆

[盗賊スキル]

 スティール

(対象のアイテムを盗む)

 解錠

(対象の宝箱の鍵、罠を解除する)

 盗賊基礎魔法習得

(盗賊が扱える魔法を習得できるようになる)


 

 耐久以外はステータスが上がったようだ。特に敏捷と運の上昇が目覚ましい。スキルは、"ザ! 盗賊"といったようなスキルを覚えたようだ。


 盗賊基礎魔法習得とはなんだろう?


(盗賊基礎魔法習得とは、魔法屋にて魔法書(スクロール)を購入することにより盗賊の基礎魔法が習得できるようになるスキルです)


 ほぉ。この世界では魔法は魔法屋にて購入して覚えるようだ。後でとみみに魔法屋に案内してもらうことにしよう。


 その後無事にクラスアップを終えたパンドラと共にクラスアップの部屋を後にした。


「ソラさんはこれからどうしますか?」


「んー。そうだねぇ……とりあえず道中で集まった素材を換金してから魔法屋と武器屋に行って、装備を整えようかなぁと思うけど、どうかな?」


「いいですね! 装備の更新ってワクワクしますよね! 早速魔法屋と武器屋に向かいましょう!!」

 パンドラは少し前掛かり気味に食いついてきた。お店の場所の下見も昨日済んでいるらしい。


 俺とパンドラは装備を整える為に店に向かった。

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