ノーブルの町
ハーピーを討伐した橋から、北へ30分ほど徒歩で進むとノーブルの町に辿り着いた。
ノーブルの町は、キュロの情報では1000人以上の人が生活をしている商業が発展している町だ。町の入り口には鉄製の重装備を身に纏った門番が佇む立派な門構えが見える。門を通り抜けると町の人や装備品を身に纏った冒険者が行き交う喧騒で賑わう町の通りに出た。
俺はジェネシスに来てからこんなにも多くの人を見たのは初めてだ。まるで初めて東京を訪れた時の様な人混みの多さを思い出し、何やら感慨深いものが込み上げてくる。
「うわぁ。スゴイ人だねー」
俺が感慨深く呟くと、パンドラも隣で「うんうん」と大きな相槌を打って同意してくれる。
「あ?! ソラさんは町に入るの初めてっすか? まぁ、あっしもここ以外の町には行ったことないんすけどね」
とみみが、周囲をキョロキョロと見渡す俺とパンドラを見て楽しそうに話す。
「うん。俺の飛ばされた場所の近くにはトマリ村っていう集落はあったけど、こんなに人もいなかったよ。建物もこんなにも立派じゃなかったしね」
トマリ村の情景を思い出しながら応えた。
「それでは、早速冒険者ギルドに向かいますか」
とみみを先頭に俺たちは町中を進んでいく。
◆
とみみは女神をモチーフにした看板が掲げてある、白いレンガで建てられている大きな建物の前で立ち止まった。
「お待たせしたっす! こちらが冒険者ギルドっすよ!」
「まずは、こちらで冒険者の登録をして、お決まりでしたらソラさんもパンドラさんもLVが10を超えているので、クラスアップの手続きをするのがいいんじゃないっすかね? あっしは向こうで掲示板を見てるので何かあればお声がけを!」
とみみが親切に色々とアドバイスをくれる。
「んじゃ、パンドラさん一緒に冒険者の登録をしよっか!」
パンドラは「はい!」元気に返事をすると、俺と一緒にカウンターに向かった。
「開拓者様、いらっしゃいませ。こちらは冒険者ギルドノーブル支部となります。まずは、こちらのカウンターで登録のお手続きをお願いします」
黒髪ロングのインテリジェンスな感じのお姉さんが対応してくれた。
「初めまして。ソラと申します。早速登録したいのですが、どうすればいいんですか?」
「ソラ様、ご紹介ありがとうございます。私は皆さんの冒険をサポートする事務員のエミリーと申します。登録は、こちらの台の上にソラ様の端末をかざして頂ければ完了となります」
エミリーは笑顔で親切に教えてくれた。登録というからには面倒臭いのかな? と思ったが、端末をかざすだけという非常に楽な対応であった。
俺は言われるままに、台の上で端末をかざすと
端末は光り輝き、端末には新たに"ギルド"というアイコンが増えた。
「おめでとうございます。これでソラ様は、当ギルドの登録が完了致しました。ソラ様は"Eランク"の冒険者として登録されました。今後ギルドでのクエストを果たして頂ければより上位のランクに昇格致します。是非とも、多くのクエストを受けてジェネシスで快適な生活をお送り下さいませ」
アイコンを押してみると
冒険者ランク E
ギルドポイント 0
受注クエスト なし
所属チーム 未所属
と記載されていた。
「クエストは、あちら右手奥のカウンターで受注可能となります。また、クラスアップを行う場合は奥の扉を進み担当の事務員であるヘンリーにお話し下さい」
「また、パーティーメンバーを募集する際には入り口付近の掲示板をご利用下さい。他不明なことがございましたら再度ご質問下さい。また、今説明した内容と同様の内容をナビゲーターより聞くことも可能となります」
エミリーはゲームのNPCのように、親切に形式通りの説明をしてくれた。
隣を見ると、パンドラも無事登録が済んだようだ。とみみは、クエストカウンターで掲示板を見ている。
俺はパンドラと共にクエストカウンターに向かった。
「開拓者様、いらっしゃいませ。こちらはクエストカウンターとなります。初めてのご利用でしたら、ご説明させて頂きますがどういたしますか?」
ロングヘアーの黒髪を後ろで一つに結んでいるお姉さんが、やはり親切に説明をしてくれた。俺がよろしくお願いしますと伝えると、早速説明をしてくれた。
「クエストには、大きく分けて3つの分類がございます。こちらの掲示板に書かれている指定した素材を集める、指定したモンスターを討伐する、指定されたモノや人を運ぶといった通常クエストと、薬草の材料や武器の材料など定期的に町の人々が欲している素材を納品する納品クエスト。最後に大量のモンスターが発生したり、町が攻められた時などに強制的に請け負って頂く緊急クエストがございます。クエストは、受注可能レベルとランクが定められており、レベルやランクが高くなるほど報酬の質が高まります。冒険者ランクは、一定のクエストと指定されたクエストをクリアして頂くとあがります。また、一部のクエストには失敗や破棄をすることによりペナルティを課せられることもございますのでご注意下さい」
クエストカウンターのお姉さんは、噛むことなく、長い説明をしてくれた。
早速クエスト掲示板を見ると、いくつかのクエストが手持ちのアイテムでクリアできることに気付いた。それらクエストを受注し、達成報告を行った。
180の貢献ポイントと少なくないお金を手に入れる事に成功した。
依頼カウンターで用事を済ませた俺にタイミングを見計らったのか、とみみが話しかけてきた。
「ソラさん。そろそろご飯にしないっすか?」
気付けば、端末が指し示す時間は20時を超えている。確かにお腹が空いてきた。
「ハーピー討伐クエストの報酬で懐も暖かいんで、今日はあっしが奢りますよ」
流石は猫耳紳士! レベルもとみみの方が高いし、ここは素直に甘えよう。
クエスト掲示板と睨めっこをしているパンドラに声をかける。
「パンドラさん。俺たちはこれから飯に行きますが、どうしますか?」
「私はまだ調べたいことがあるので、先に食べてて下さい」
パンドラに今日泊まる予定の宿屋の場所を教えて、とみみと一緒に冒険者ギルドを後にした。
◆
とみみは、小洒落た個室タイプの居酒屋のような店に案内してくれた。
高そうな店だけど、とみみホントに奢ってくれるのかな? 俺の所持金でも足りるよな??
(はい。マスターの所持金でも十分に支払うことは可能です)
うぉ!? 久々のキュロの登場に俺はビックリした。しかし、こんなお店の相場まで知ってるとは、なんて万能なナビゲーターなんでしょ。俺の考えが丸聞こえと、プライバシー対策は実装されてないようだが……。
「とみみん。こんな高そうな店でホントに大丈夫なの?」
「はは。あっしら"プレイヤー"の収入は一般の方と比べて相当高いので大丈夫っすよ。それより、何か食べたいものとか、苦手な食べ物ありますか?」
特にないから注文は任せると伝えた。後からとみみに聞いた話しだが、この世界に呼ばれた開拓者の事を"プレイヤー"と呼び、元から生活をしていた人々は"ネイティブ"と呼ぶのが暗黙の了解で決まっているらしい。
ファーストドリンクが届いたので再会を祝って乾杯した。
「いやぁ。まさかソラさんに会えるとは思いませんでしたよ」
「はは。俺もビックリしたよ。しかも猫耳生やしてるしね 」
「それには、あっしもビックリしたっすよ! 何でもワーキャットとかいう獣族らしいっす」
「まぁ、初期種族は適性を見て決めるとか公式サイトに書いてあったし、猫耳の適性あったんじゃね?」
ジェネシスでは猫耳紳士。オンラインゲームの中では幼女。リアルではおっさん (これは俺の想像だが)。中々、多忙な人生を送ってるようだ。
「そんなことより、ソラさん……」
とみみは、急に真剣な表情で話しかけてきた。
「ソラさんのユニークスキルはどんな能力っすか?」
なるほど、これが個室タイプの部屋を選んだ理由か。俺はとみみを信じているので、正直に話すことにした。
「んと。マルチウェポンというクラス問わず全ての武器を使用できるスキルと、大器晩成という獲得経験値は減少するが成長率にプラス補正が付くスキルだね」
「……え?」
とみみの顔が驚愕に包まれる。
「ユニークスキル二つもあるんすか?」
この反応は、パンドラと同じだがパンドラの時よりもリアクションが大きい気がする。
「うん。そうだよ。ナビゲーターに聞いても、パンドラさんに聞いても、珍しい現象っぽいね。とみみんを信じて言ったんだから、他の人にはナイショだよ」
重大な事だとは理解しているが、どうしようも出来ないので軽い口調で応えた。
「いやいや!? ありえませんって!? あっしもジェネシスに来てから何人かのプレイヤーとパーティーを組みましたが、そんなプレイヤー見たことも聞いたこともないっすよ!!」
とみみが慌てふためく。どうやら相当レアなことらしい。
「しかも、二つ共相当便利そうなスキルっすね! 相変わらずの当たりIDっすか!!」
当たりIDとは、とみみとしてたネットゲームの中で、レアドロップが多いことや、確率系のコンテンツで当たりを引きやすいキャラクターの事を、リアルの運ではなく、運営から優遇されているキャラクターIDであると決めつけた、都市伝説のような皮肉を込めた用語である。
「いやいや。そんな事はないよー。日頃の行いじゃね? ところで、とみみんのユニークスキルはなに?」
冗談っぽく応えると話題を変えた。
「あっしは、"精密射撃"というスキルっすね。使い方は説明しづらいんすけど、狙ったところへ100%命中させるというスキルっすね」
「ほおー。人の事は言えないが、これまたチートなスキルだねぇ。とみみんのプレイスタイルにピッタリじゃないの?」
とみみは、元々FPSが大好きな人種だ。GS時代も銃や弓を愛用して、敵の行動の妨害による支援行動やヘッドショットによるアタッカーの役割を担当していた。
「そうなんすよ。このスキルを見た時に、あっしのプレイスタイルに最適のスキルだなぁと、こんな世界に巻き込まれたのに空気を読まずにガッツポーズしちゃったっすよ」
とみみは当時を思い出したのか多少興奮気味に語り出す。うんうん。分かる。俺も自分のユニークスキルを確認した時には喜んだもんな。
「いやぁ。ソラさんに、ユニークスキルの事を聞いたのはこれから多分一緒に行動すると思ったので、お互いの能力の把握の為に聞いたんすよ」
それは当然だと思ったので相槌を打った。
まぁ。とみみが、聞いて来なかったら俺から聞いてただろうし、問題はないだろう。
「ところで、ソラさんはこれからの予定は立ててあるんすか?」
「そうだね。とりあえずはこの町を拠点に少しレベルを上げて装備を整えてから、残りの@ホームのメンバーを探す意味も込めて"神殿"を目指そうかなと考えている」
「"神殿"っすか? 何かあるんすか?」
あれ? とみみは"神殿"を知らないのかな?
「"神殿"に行くと、ジェネシスに来ているプレイヤーの名前が全部分かるらしいよ」
「え? そんな事初耳っす!? 誰から聞いたんすか?」
「ナビゲーターだよ。聞いたら教えてくれるよ」
「うわ!? マジっすか! ナビゲータは何でも教えてくれるけど、聞かないと教えてくれないので、知らなかったっす。ってかソラさん相変わらずシステムに順応するの早いっすね」
早いのかな?? まぁ、効率はいいほうだとよく言われるが。
「それでは、あっしは今日からソラさんと行動を共にしてもいいですか?」
「もちろん!! 当たり前じゃん!! 改めて、これからよろしくね!」
「ソラさんと一緒ならこんな世界でも楽しく過ごせそうです。こちらこそ、よろしくお願いします!!」
こうして俺は"とみみ"という、頼もしい仲間を得た。
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