【閑話】とみみ

 あっしの名前は富竹とみたけ 直人なおと。もう直き三十路を迎えるアラサーのショップ店員っす。容姿は多分整っている方だと思うっす。お客様からは、バラエティーやドラマなどで活躍するアイドルグループの何某と似ていると言われる事があるっすから。性格は接客業が長いので、社交性には優れていると思いたいっす。最近はクレーマー気質のお客様も増えて辟易とする事もあるっすけど、基本的には来店されたお客様との会話は好きっすからね。


 そんなあっしが現在ハマっている趣味はサバゲーとオンラインゲームっす! サバゲーは大学時代のサークルで初めて経験したっす。あの独特の緊張感と、相手に模擬弾を命中させた時の感触が何とも言えず快感っす! オンラインゲームは、サバゲーの友人に薦められて始めたFPS(一人称シューティングゲーム)のゲームにハマってしまい、それからはオンラインゲームの虜っす。元々FPSは家庭用のゲームでもプレイしていましたが、対人がメインとなるオンラインゲームでのFPSは相手の行動を予測したり、味方と助け合ったりとオフラインでは味わえない要素が魅力っすね。


 初めてプレイしたオンラインゲームは"ファンタジーバトルフィールド(通称FBF)"っす。4つの国に分かれて、国取り合戦をするファンタジー要素も含んだFPSの対人メインのゲームっす。あっしはFBFではライオンの王様が治める国に仕えて、猫耳を生やした幼女のキャラクターでスカウトと呼ばれる弓を扱うクラスを選んで、次々と遠距離から敵国のプレイヤーを討ち取ったっす。気付けば、FBF内でもランカーと呼ばれるプレイヤーになってたっすよ。


 しばらくして、お客様から勧められて始めたゲームが"ギャラクシースターオンライン(通称GS)"っす。


 GSは宇宙を舞台にした所謂(いわゆる)MMORPG(大規模多人数参加型オンラインロールプレイングゲーム)っす。GSではレンジャーと呼ばれるAR(アサルトライフル)を扱うクラスを選んでたっす。ゲームのシステムとしてFBFの方が面白かったっすけど、GSはFBFでは味わえない楽しさがあったす。その一つが仲間と共に広大なフィールドを冒険する日々っす。


 GSを始めた初日の出来事っす。




 ◆




「一緒に"始まりの惑星"行く人募集中!! @2名」

 精悍な顔付をした水色の髪の男性がゲームを開始したスタート地点の町の中で周囲チャット叫んでたっす。


「初心者ですが参加いいっすか?」

 あっしは初めて経験するMMORPGというジャンルのオンラインゲームの世界でドキドキしながら、男性に話しかけたっす。


「もちろん! 今日がサービス開始日だし、全員が初心者だよw 俺の名前はソラです。よろしくね!」

 募集を呼びかけていた男性――ソラさん――と初めて出会った瞬間っす。


「あっしの名前はとみみっす! クラスはレンジャーっす! よろしくお願いします!」


「お? レンジャーなんだ! 俺はファイターだよ。んで、こちらが……」「初めましてアオです。クラスはクレリックです。よろしくお願いします」

 ソラさんの後ろにいた、小柄な青髪のパッツンヘアーのエルフの女性――アオさん――も自己紹介してくれたっす。


「よろしくお願いします。お二人は知り合いなんすか?」


「うんにゃ。とみみさんと一緒で、さっき仲間に加わってくれたの。どうせ遊ぶならみんなでワイワイした方が楽しいしね!」

 凄まじい社交性の持ち主っす!? いきなり周囲チャットで募集なんてあっしにはできないっす。


「うちも参加していいですか??」

 メガネを掛けた紫髪の女性が声を掛けてきたっす。


「もちろん! これで4人揃ったね! 募集〆ます!」

 ソラさんが周囲チャットで募集人数が到達した事を告げました。周囲には、入りたかったのか、遠巻きに見ていたプレイヤーが残念そうに離れて行きます。


「初めまして! ソラです。クラスはファイターです」


「初めまして! チルハと言います。クラスはナイトです」

 紫髪の女性が自己紹介をしたので、あっしとアオさんも自己紹介をしました。


「全員クラスがバラバラだねw これはバランスが良いのかな?? とりあえず、みんな初心者だし、死んでも文句無しで楽しく行きましょ!」

 ソラさんがそう宣言すると、全員で始まりの町にあるターミナルからシップに乗って"始まりの惑星"へと向かったっす。


 これが、ここから3年以上も続く4人の始めての出会いだったっす。


 GSの操作方法はFBFと違って、肩越し(三人称)視点は選べたものの、始めての操作に慣れる事ができず、中々ARによる射撃を敵に命中させる事が出来なかったっす。でも、ソラさんとチルハさんが前線で全ての攻撃を受け止めてくれて、傷付いたらアオさんが回復魔法で癒すというRPGではオーソドックスなスタイルを貫いて慣れないながらも着実に攻略を進めていったっす。


「うぉ!? ボスだ!?」

 始まりの惑星の最奥には熊とゴリラを足した様な大きなモンスターが待ち構えていたっす。


「あわわ!? 回復が間に合わない! ごめんなさい!」


 初めてのボス戦の結果は敢え無く敗北だったっす。


「強かったねー」

「あの動きは反則っす!」

「うちがもうちょっと攻撃を受け止められたらorz」

「オイラの回復が間に合っていればorz」


「まぁ初見だったし、こんなもんでしょ! 楽しめたし、結果オーライだよ!」

「結果オーライです!」

「うんうん。楽しかったねー」

「次こそは勝つっす!」


「んじゃ、今度また4人でリベンジしよう! フレンド登録いいかな??」

「はい!」「お願いします(≧∇≦)」「喜んで!」


「改めまして、よろしくね!」

「「よろしくー!」」




 ◆




 翌日ログインをすると、ソラさんからフレンド会話が来たっす。

「こんばんわー! おヒマなら昨日のリベンジしない??」

「了解っす! そちらに向かいますね!」

 昨日ログオフしてから某掲示板であいつの弱点は頭だと調べたっす。今日こそはARでのヘッドショットを決めるっす!


 待ち合わせ場所のターミナルに行くと、ソラさんとチルハさんとアオさんがいたっす。


「お待たせっす!」

「とみみさん! やほー!」

「「こんばんわー」」


「みなさんこんばんわ!」


「んじゃ、リベンジに行く前にだけど、あのゴリラの弱点は頭らしいんだよね」

 ソラさんもどうやらあっしと同じソースで攻略情報を調べたみたいっす。


「俺があいつを引き付けてる間に、とみみさんの銃であいつの頭狙い撃ちできないかな??」


「やってみるっす!」


「んじゃ、アオさんは俺が被弾したら回復よろろ! チルハさんはとみみさんの攻撃でヘイトが溜まって向かって行ったら妨害よろしくです!」


「ヘイト?? って何ですか(^_^;)」


「あぁ、ごめん。んとね、ヘイトって言うのは敵対心と言うか狙われ度と言うか……オンラインゲームだとよくあるんだけど、攻撃を与えすぎると、近くにいるプレイヤーじゃなくて攻撃をして来たプレイヤーを狙う事があるんだよ。今回は俺がファーストアタックを取って、あのゴリラの足元でウロチョロするんだけと、とみみさんが攻撃をし過ぎると、足元の俺を無視してとみみさんを攻撃しようとすると思うので、チルハさんはそうなったらとみみさんを守る様にゴリラの進路を防いで欲しいんだ。」


「ふむふむ(._.)」


「長々と説明しちゃったけど、通じたかな?? 説明が下手でごめんよ」


「いえいえ! 理解できました! ありがとうございます!」

 後から知ったんすけど、チルハさんはGSが初のオンラインゲームだったみたいっす。


 昨日一緒にPTを組んでて気付いたんすけど、ソラさんは相当のゲーマーなのか、回避がメチャクチャ上手いっす。ステップを駆使して、敵の攻撃を躱し続ける姿は見てて感動したっす。


「んじゃ、行こうか!」


 こうして、ターミナルからシップに乗って"始まりの惑星"へ向かったっす。


 GSをプレイしてから2日目という事もあり、昨日よりもスムーズに最奥のボスまで辿り着けたっす。


「作戦通りに頑張ろう! 負けても、又リベンジすればいいだけだし気楽に楽しもう!」


 2度目のボス戦を迎えたっす。


 ソラさんが、作戦通り熊ゴリラのボスにダッシュで近寄ると、足元を手にした二振りの短剣で攻撃するっす。ソラさんを叩き付けようと振り下ろされる腕をステップで華麗に躱すっす。あっしも肩越し視点にして、熊ゴリラの頭を狙い撃ちっす。ソラさんを狙って動き回る熊ゴリラに中々照準が合わずに苦戦するっす。


 あっしも伊達にFBFでランカーまで上り詰めた訳ではないっす! 熊ゴリラの動きだけではなく、ソラさんの動きも予測する事でようやくヘッドショットが成功し始めるっす。


 熊ゴリラと戦闘を開始してから7分。


 あっしの放ったARの銃弾が頭に命中すると、PCに備え付けられたスピーカーから熊ゴリラの悲痛な叫び声が聞こえて来たっす!


「お?」

「終わった?」

「勝てました?」

「勝ったっす!」


「おお! やったね! とみみさんすげーよ!!」

「ソラさんの回避スキルのがスゴイっすよw」

「やったー!」

「皆さんのお陰ですよー(^ω^)」


 FPSの世界でも、家庭用ゲーム機のRPGでも味わえない達成感に包まれたっす!


 これが4人で始めてGSの世界で一つのクエストを達成した瞬間っす。


 この日以降も、あっしがログインすると……


「とみみさん! こんばんわー! おヒマならレベル上げ行かない??」


「了解っす!」


 こんな感じで、大抵ソラさんからお誘いの会話が届いたっす。ソラさんは凄くアグレッシブで、常に誰かを誘い、冒険をしてたっす。声を掛けるのはあっしとアオさんとチルハさん。ログオフ状態のメンバーがいれば、他のフレンドか野良募集をしてたっす。ソラさんは面倒見が良いのか、あっしやアオさんやチルハさんが欲しそうな装備品をドロップする敵の情報が入れば、率先的に全員を誘って手助けをしてくれたっす。


 あっしもそんなソラさんからの誘いが心地良く、気付けばほぼ毎日一緒に遊んでたっす。




 ◆




 GSを始めてから1ヶ月。気付けば、あっしの呼び名が"とみみさん"から"とみみん"へと定着した頃……


「そだ! いつも一緒にいるしさ、4人でギルド立上げない?」

「オイラはオッケーだよ!」

「うちも賛成よー!」

「あっしも勿論オッケーっす!」


「ギルド名は考えてあるの??」


「うん! "@ホーム"って名前はどうかな?? 他にも3人が付けたい名前があるならそれでもいいし、話し合いで決めてもいいけど……どうかな?」


「んー。@ホームかあ……いいよ!」

 アオさんの賛同を皮切りにあっしとチルハさんも賛同したっす。


 こうしてあっしにとって第二の家族とも言える"@ホーム"ができたっす。


 その後も4人で……そして増え行くギルドメンバーと広大な宇宙を舞台としたGSの世界を冒険し続けたっす。冒険を重ねていく中で、いつもみんなを引っ張る我らがリーダーであるソラさん、笑顔を絶やさないムードメーカーのアオさん、めきめきとプレイヤースキルを伸ばしてみんなを守る優しい盾のチルハさんとはリアルで会った事も無いのに不思議な絆で結ばれていったっす。いつかはあっしが育ったFBFも一緒にプレイしてみたいなと思いながらも、こんないつもと変わらぬ日常が続くと思ってたっす……


 1通のメールが届いたあの日までは……

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