VS ハーピー変異種

 トマリ村を発ってパンドラと出会ってから5日目の昼過ぎ。


 その後も旅は順調に進むが、ノーブルの町までキュロ曰くあと半刻という位置にある橋に差し掛かった時にピンチが訪れた。


 橋のふもとに大きな半人半鳥のモンスターがいた。

(ハーピーの変異種です。討伐推奨レベルは15。強敵です)


 推奨レベル15!? 俺のレベルは9だ。パンドラのレベルは11と俺より高いが、推奨レベルの15には全然届かない。


「んー。どうする?」

 パンドラに尋ねると。


「そうですねー。私のナビゲーターが言うにはあのモンスターは強敵です。勝ち目は薄そうですね」


「あのモンスターを迂回して、ノーブルの町へは行けるのかな?」


(可能ですが、7日ほどのタイムロスが生じます)


「俺のナビゲーターが言うには迂回は可能だが1週間ほどのロスになるらしい」


「1週間ですかぁ。困りましたがしょうがないですね」


 俺たちが、目の前の橋を渡るのを諦めて迂回しようとしたその時


「キシャァアア!!」


 突然、ハーピーが雄叫びをあげてこちらに飛びかかって来た!?


「く!? しょうがない、戦うか! ただし無理は禁物だ。逃げれるようなら、逃げるぞ!」


「わかりました」


「俺が前衛で、戦ってみる。パンドラさんは、隙を見て攻撃かアイテムで俺の補助を頼む」

 一緒に旅をしていて気付いたが、コマンドを使わない戦闘では俺のほうがパンドラよりも優れている。二人で前に出るより、回避が得意な俺が前衛をしたほうが、生存率は高まるだろう。


「わかりました。無理はしないで下さいね」


 俺は鉄の剣と道中でコボルトがドロップした木の盾を構える。


 ハーピーが空中から飛来して来る。眼前に迫ったハーピーは俺の倍ほどの大きさがあり、白く大きな羽を広げて鋭い鉤爪(かぎづめ)を振りかざして降下して来る。


 ハーピーの鉤爪と構えた木の盾が触れた瞬間バシッと言う衝突音と共に木の盾を構えた俺の右手に衝撃が走る。何とか盾で防いで直撃は避けた様だが、少しはダメージを受けたようだ。


 キュロ? 今のでどれくらいのダメージを受けた?


(生命力が24削られました)


 24か。今の俺の最大生命力が188。盾でガードしても1割以上削られるのか!?


 コマンドスラッシュ!


 コマンド操作で放たれた鉄の剣の鋭い斬撃は、ハーピーの羽を切り裂く。斬撃を受けた左の羽から数枚の羽根が舞い落ちるが手に残る感触は薄く、直撃はしなかった様だ。

 硬直する俺の身体をハーピーの鋭い鉤爪が振り下ろされる。痛っ!? 鉤爪に切り裂かれた腕が焼け付く様な痛みに襲われ血が滲む。どうやら相当のダメージを受けた様だ。


(生命力が52削られました)


 !?


 一気に25%以上も削られた。これは危険過ぎる。コマンドでの攻撃はやめておいたほうがよさそうだ。


「大丈夫?!」


 パンドラが、俺に薬草を使ってくれたらしく生命力が回復する。流石は元錬金術師。アイテムを使うタイミングは完璧だ。


 その後コマンドに頼らずにスラッシュを放つが、ハーピーは飛んでいるせいで中々攻撃が当たらない。


 このままじゃ、ジリ貧だな……。


「伏せてっ!」


 パンドラの声に反応して咄嗟にその場で伏せると


 ボンッ! と激しい爆発音と共にハーピーが炎に包まれて悲鳴をあげている。どうやらパンドラは火炎玉を投げたようだ。火炎玉はゴブリンが稀に落とすレアドロップ品だ。


 俺は鉄の剣と木の盾を構えて回避を優先しつつ、ハーピーが地に降り立った隙を見てスラッシュを放つ。パンドラは俺を薬で回復をしつつ火炎玉を投げているが、やはり戦況は芳しくない。


「大変! 薬の在庫が後3つしかない! 火炎玉もさっきので無くなりました!」

 火炎玉を投げ終えたパンドラは慌てた声で悪化していく現状を伝えてくれる。


 状況は悪くなる一方だ。ハーピーも戦闘当初と比べて多少フラついてはいるものの、まだ余裕はありそうだ。


 これは、一旦撤退すべきか。ただし、あいつが俺たちを大人しく逃がしてくれるのか。すでに、1時間以上もハーピーと戦っているが、機動力は明らかに相手に分がある。


 ハーピーの猛攻に耐えつつ苦悩していると……


「ダブルアロー!」


 ヒュン! と風を切る音が耳元を過ぎると二本の矢がハーピーの右羽を貫いた。


 突然放たれた2本の矢に右羽を貫かれたハーピーが空中で体制を崩して墜落してくる。


 突然自分の目の高さまで高度を落としたハーピーの頭部目掛けて鉄の剣を振り上げて渾身の力を込めてスラッシュを放つ。振り下ろされた鉄の剣の斬撃はハーピーの頭部に直撃して、鉄の剣を持つ左手に確かな手応えの感触を残す。悲鳴をあげて苦しむハーピーに追撃を加えるべく、再び鉄の剣を振り上げるが、体勢を立て直したハーピーは再び空中へと退避する。


 空中にいるハーピーに対して 攻めあぐねいていると、後方からこちらを呼びかける男性の声がする。声のする方に顔を向けると、弓を構えスラッと引き締まった体躯の長身で、緑髪のミディアムヘアに猫耳を生やした、イケメンがそこにいた。……ん? 猫耳だと!?


「大丈夫っすか? 良ければハーピー討伐のパーティーにあっしも参加させて欲しいっす!」


 猫耳の男性の声と共に俺の端末がシステム音を鳴らす。端末に目を向けると"パーティー参加希望"と"承諾"の文字が確認出来る。俺はよく見ずに参加承諾のボタンを押す。


「助かりました! 是非、ご協力お願いします!!」


 こちらはすでに死に体だ。空中に浮かぶハーピーを攻撃する手段も乏しく断る理由がない。


「ありがとうございます」

 猫耳の男性はお礼の言葉と共に、弓矢をハーピーに放つ。


 弓矢は的確に空中にいるハーピーの頭部に命中していく。


 ハーピーはたまらずに降下して鋭い鉤爪を振り回し俺に攻撃をしてくる。俺は木の盾を構えて、攻撃を捨てて防御と回避を中心に立ち回る。


「フレイムアロー!」

 猫耳男性の力強い声と共に火を纏った弓矢が、ハーピーの頭部を射抜く。しかしスゴイ射撃精度だ。全ての弓矢が違わずにヘッドショットしている。


 火矢を受けたハーピーは悲痛な叫び声を発して地面をのたうち回る。


「コマンド旋風突き!」


「コマンドスラッシュ!」


 これを契機とみて、パンドラがコマンドによる強烈な槍のスキルを放つ。放たれた鋭い刺突はハーピーの右羽を貫く。俺も立て続けにコマンドによるスラッシュを放つ。スムーズな動作で振り下ろされた鉄の剣の斬撃はのたうち回るハーピーの首筋に叩き込まれる。


 ハーピーの首は切断され、のたうち回っていた胴体も動きを止める。


 どうやら、無事に生き延びる事ができた。


 俺は緊張の糸が切れて、その場で思わず座り込む。


 そんな座り込んだ俺の横にパンドラと猫耳男性が近づいて来る。

 座り込んだまま、猫耳の男性にお礼を告げる。


「ふぅ。助かりました。あなたがいなかったら間違いなく死んでましたよ」


「いえいえ。こちらこそハーピー変異種の討伐依頼が達成できたっすよ! 勝てるかどうか不安だったのでこちらも大助かりっす!」

 猫耳紳士は、爽やかなイケメンスマイルで応えた。


「申し遅れました。私は開拓者のソラと申します。こちらは、仲間のパンドラさんです。ノーブルの町へ向かう途中でしたが、あの鳥の化け物に襲われて困っているところでした。助けてくれて本当にありがとうございました」

 自己紹介とお礼を兼ねて伝えると、猫耳紳士は少し驚いた顔をした後に俺の首に掛けられているフライトゴーグルを見てニマニマと嬉しそうな表情をした。よく見ると後ろの尻尾がピーンッとなってるし。


「"こちらの世界では"初めましてっす! あっしの名前はとみみっす。同じく開拓者で、今はクラスアップして狩人っすけど」


 ふぁ!?


「え?! え?! とみみん?? "@ホーム"のとみみん??」

 俺は軽くテンパった。目の前にいるこの猫耳紳士は、どうやらとみみ――通称とみみん――のようだ。猫耳と尻尾ばかりに目はいっていたが首には確かに俺と同じフライトゴーグルを掛けている。


 猫耳男性の正体はGSで同じギルド"@ホーム"に所属していた頼れるギルドメンバーのとみみであった。


「やっぱり、その話し方と見た目からソラさんかなと思ったすけど本人でしたか。パーティーを組んだ時に名前を見て、もしや? と思いましたが"ソラ"というハンドルネームはそこまで珍しくないっすからね」

 とみみが嬉しそうに話しかけてくる。"とみみ"というハンドルネームは珍しいので、名前を見たら気付いたかも知れないが、あの戦闘中に名前を確認するほどの余裕は流石になかった。


「わぉ!? こんな所で会えるなんてビックリだね!? ってかとみみん見た目変わり過ぎじゃね??」

 俺の知ってるとみみは、緑髪のツインテールで見た目幼女(中身おっさん)の可愛らしい姿だ。


「えぇ。どうもジェネシスでの名前はゲーム時代のを用いるみたいっすけど、見た目はリアルの姿寄りみたいっすね。まぁ、あっしは男のほうが動き易いので助かったすけどね」


 俺ととみみで楽しげに会話を続けていると


「あのー? お二人は知り合いなんですか?」

 蚊帳の外にいてオロオロしたパンドラが問うた。


「あぁ。ごめん、ごめん。俺たちは元の世界で同じオンラインゲームをしてた仲間同士で、リアルで会うのは初めてだけど、気心のしれた友人関係だよ」

 パンドラの事を忘れていたのを思い出して慌ててとみみとの関係性を説明した。


「へぇ。そうなんですか!? いいですねー。こんな広い世界に来て、知り合いと出会えるなんてホントに羨ましいです。私の知り合いもいるのかなぁ??」

 パンドラは笑顔で応えた。


「うーん。こっちの世界には20万人ほど来ていて、これは推測だけど、過去にオンラインゲームで実績を残してるプレイヤーが飛ばされて来たと思うので、パンドラさんも向こうの世界でプレイしてたオンラインゲームのフレンドで相応のプレイヤースキルを持った人がいるなら来てるんじゃないかな?」

 推測を混じえながら答える。


「え? 20万人もこっちの世界に……何でソラさんは知ってるんですか??」

 パンドラは驚きと疑惑の目を向けて質問してきた。


「へ? ナビゲーターに聞いたら、教えてくれたよ?」

 弁解の意味も込めて正直に応えた。


「へぇ。ナビゲーターって、そんなことも教えてくれるんですね。知りませんでした。でも、ナビゲーターが頭の中に住み着いたり、ゲームの中にいるみたいなシステムがあったり、この世界は何なんでしょうね?」

 パンドラは俺の答えに納得はしてくれたが、改めてこの世界への疑問を口にした。


「何だろうね? まぁ、旅を続けて行けば色々と分かることも出てくるんじゃないかな?」

 希望も込めてそう答えるしかなかった。パンドラは「そうですね」と不安そうな表情をしながら応えた。


「そういえば、とみみんは何でここにいるん?」

 再びとみみに視線を戻し、話しかけた。


「あっしは、ギルドで"ハーピー変異種討伐"のクエストを受けたんすけど、そのクエストの受注可能レベルが15で推奨レベルが18だったので、どれほどのものかと思って下見を兼ねて偵察に来たっす」


「ほぉ。推奨レベルが18ってかなり高いね。それを受注したってことは、とみみんのレベルは相当高いの?」

 あのハーピーを苦しめた弓矢の攻撃力から見てもとみみは間違いなく俺やパンドラよりも強いと感じた。


「いやいや。あっしのレベルはまだ16っすよ。ただこのクエストは報酬が良かったので、まずは下見にと思い偵察に来たっす。そうしたら対象のハーピーと戦っているパーティーがいるし、ハーピーもフラついて見えたので、これはチャンスと思って、パーティー申請をしておこぼれを頂戴したわけっす」

 とみみは、苦笑しながら少し申し訳なさそうに応えた。


「いやいや。とみみん来なかったら死んでたし! ってか、ハーピーの存在も知らなかったし、当初逃げる予定だったしね」

 申し訳無さそうなとみみに本音を伝えて応えた。


「いやぁ。でも、2人パーティーであのハーピーと対峙するなんて……お二人も相当強いんじゃないすか?」


「いやいや。端末で俺たちのレベル見てみ?」

 俺は自分のレベルを言うのも恥ずかしいので、端末での確認を促した。ってか、推奨レベル18って足りなさすぎるだろ……。


「ふぁ!? レベル9と11っすか?! よく戦う気になったすね……」

 いやいや、だから当初から戦う気などなかったと言ってるだろ。


「とりあえず、こいつの亡骸を片付けて、一緒に町へ戻りますか。良かったら町の中を案内するっすよ」


 とみみんに促されて、俺は端末を掲げてハーピーの戦利品を獲得した。


 ピロロロロン♪


 どうやら、おれは丁度レベルが10に到達したようだ。パンドラはレベルが一気に二つも上がって13になったようだ。


 お? 戦利品の中に装備品がある。レアドロップの類なら嬉しいな。


 俺はフェザーソードを手に入れた。


 とみみんを先頭にノーブルの町へと向かった。



 名前:ソラ

 クラス:開拓者(LV10)

 サブクラス:未設定


 生命力:197

 精神力:42

 腕力 :53

 耐久 :53

 敏捷 :42

 魔力 :32

 神力 :32

 運 :53


 攻撃力:240

 防御力:105


 所持金:1780G


 装備品

 左手:フェザーソード

 右手:木の盾

 頭:なし

 腕:皮の籠手

 体:皮の鎧

 足:皮の靴

 装飾品:なし

 アクセサリー:@ホームの絆


[ユニークスキル]

 マルチウェポン。大器晩成。

[汎用スキル]

 採掘。採取。採伐。

 料理。

(特定の素材を食品に加工する)

[剣術スキル] 剣術LV9

 スラッシュ。スイープアタック。

[投擲術スキル] 投擲術LV4

 パワースロー。

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