パーティー
レベルが7に上がった日の翌日、俺はお世話になった宿屋の女将と武器屋の店主に挨拶をしてトマリ村を後にした。
キュロ、ノーブルの町に行って、冒険者ギルドに登録すると何かいいことあるの?
(はい。冒険者ギルドに登録すると、様々な恩恵を受ける事ができます。代表的なモノで、クエストの受注とクラスアップでしょうか)
ほぉ。クラスアップか。そういえば、LVが10になったら8つの基本職のいずれかにクラスアップできると、公式サイトにも載ってたなぁ。
これは大きな楽しみが一つできた。ウキウキした気持ちを抑えて、ノーブルの町を目指して北上した。
道中様々なモンスターが出てきたが、危なげなく倒して進んでいると
誰かが戦っているのか、カンッ! カンッ! と金属が打ち合う音が聞こえてくる。
そちらの方角に目を向けて見ると
槍と盾を手にした皮の鎧を纏った女性が緑色の醜悪な顔をした小学生程の体格で鉈の様な武器を手にした5匹のモンスターに囲まれていた。
お? あれは、ひょっとして噂のゴブリンかな??
(はい。ゴブリンです。討伐推奨レベルは5です。集団で人や動物を襲う習性のある亜人種のモンスターです)
おぉ。人型のモンスターを見るのは初めてだなぁ。やっぱり、獣タイプのモンスターより強いのだろうか。
(今までマスターが戦っていたモンスターよりも知性があります。向こうから襲いかかってくることもあれば、近くで戦闘している仲間を助けに入ることもあります)
ふむ。っていうことは、今までみたいな釣って戦う戦法も通じないのかぁ。大変そうだな。それより、あの冒険者は大丈夫なのだろうか? 助けた方がいいのか? それとも、こんな世界だし、横ヤリとかでマナー違反になるのだろうか?
そんな風にのんきに悩んでいると
「ちょっと! そこの人!! 何してるの!? ぼーっと見てないで、助けなさいよ!」
どうやら、助けるのが正解っぽい。早速助けに入る事にした。
コマンドスイープアタック!
まずは、こちらに背を向けているゴブリン3匹を構えた鉄の剣でまとめて一掃する。滑らかな動きで大きく水平に振るわれた鉄の剣は見事に3匹のゴブリンを巻き込むことに成功した。背後からの奇襲に戸惑ったゴブリンはこちらがコマンド攻撃の影響で硬直していても攻撃を仕掛けて来ない。 硬直が解けると、次にコマンド攻撃で先ほど仕掛けたスイープアタックの動きをトレースする様に鉄の剣を水平に振るって再度3匹のゴブリンを同時に鉄の剣で斬撃を浴びせる。スキル攻撃も正確にトレース出来ればコマンドを使わなくても放つ事が出来た。2度目のスイープアタックを放ち終えると距離をとるように後ろに下がる。
突然の背後からの奇襲により2度のスイープアタックを受けたゴブリン達は1匹が倒れたまま起き上がらない。残った2匹はこちらに気付いて武器を構えて威嚇してくる。
「おい! 大丈夫か?」
冒険者に安否の確認をする。
「ありがとう! 助かるわ。そっちの2体はそのままあなたにお願いしてもいい?」
「了解!」
女性冒険者との会話もそこそこに、2匹のゴブリンと向かい合う。
対多数での戦闘は何度か経験がある。対多数戦でのポイントはコマンドアタックを余り使わない事だ。複数を巻き込んでのスイープアタックを確実に当てる事は難しくなるが、コマンドで戦うと硬直後に攻撃を喰らいすぎる。
前方に鉄の剣を大きく水平に振るうスイープアタックで敵を牽制しつつ、スラッシュにてまずは敵を減らす事にする。
戦闘再開から1分。俺の放ったスラッシュがゴブリンの頭部にヒット。頭に鋭い斬撃を受けたゴブリンが倒れる。1対1になれば、あとは楽勝だ。敵の攻撃をいなしつつ難なく倒す事に成功する。
女性の冒険者の戦況を見てみる。向こうもゴブリンの数は1匹に減っており。優勢に戦いを進めている。この分だと、あと少しで向こうも片付くだろう。
「コマンド! 疾風突き!!」
勇ましい女性の掛け声と共に、最後のゴブリンが地に倒れる。
「ふぅ。ありがとうございます。助かりました」
女性の冒険者は、想像していたよりも丁寧にお礼をしてきた。改めて見た槍と盾を装備している冒険者は黒髪のセミロングでメガネを掛けたあどけない表情の中にもどこか知性を感じる20代の女性であった。
「ご無事で何よりです。初めまして。俺は開拓者のソラと言います」
「開拓者!? ひょっとして、日本人の方ですか??」
女性は驚いた表情をして、話しかけてきた。
「えぇ。俺は日本の金沢市から来ました。っていうことは、そちらも日本から?」
おぉ。意外なところで、同郷の人と会えることが出来た。
「はい。あ!? まだ、名乗ってませんでしたね。私は日野 真琴と申します。こちらでは、パンドラという名前ですね」
パンドラは同じ日本人である事に安心をしたのか、笑顔を浮かべて自己紹介をしてくれた。
「ホントに助かりました。一人であの数のゴブリンには勝てないので、あぁ私もここで死ぬんだなぁと諦めていたところです」
パンドラは矢継ぎ早に話しかけてきた。やはり同じ日本人。初対面の相手にはつい敬語になってしまう。
ん? 私も?? ということは
「大変失礼なことをお聞きしますが、私もということは……誰か亡くなったんですか??」
胸の動悸が早まるのを感じる。デスゲームということは理解しているが、実際にそういう話を聞くと心が恐怖で痛くなる。
「えぇ。実はこの世界に来てすぐに同じく日本から来た男性の開拓者と出会いました。昨日まで一緒にいたのですが、つい先日ゴブリンの集団に襲われて……」
パンドラはその時の光景を思い出したのか、顔は蒼白になり涙を浮かべながら話してくれた。
「それは……ご愁傷様でした……」
俺もこんな経験はないので、こんな時に何て声をかければいいのか、いい言葉が思い浮かばない。
「いえいえ。ソラさんが悪い訳ではないですから。そういえば、ソラさんはお強いですね。難なくゴブリン3匹を倒しているように見えましたし」
パンドラは涙を拭って笑顔で話しかけてくる。
「うーん。実は、自分以外の開拓者の人に会うのは初めてなので、強い、弱いの判断がつかないんですよね。ひょっとしたら、今までソロでレベル上げばかりしてたので、レベルが高いのかな?」
実際に、さっきの戦闘では生命力は1割も減っていない。ゴブリンの数が多少増えても、苦戦はするが死ぬ事はないだろうという漠然とした手応えはあった。
「へぇ。そうなんですか。私はまだレベル7なので、ゴブリンを2匹退治するのがやっとです。早く、私もソラさんのようにレベル上げないとなあ」
あれ? レベル7って俺と同じじゃね? 装備もそんなに大差なさそうだし、ユニークスキルの差なのだろうか?
とりあえず、俺は話題を進めることにした。
「俺は今からノーブルの町を目指しますが、パンドラさんはレベル上げの最中でしたか?」
「いいえー。私もナビゲーターに聞いて、昨日から先ほど話した人と一緒にノーブルの町へ向かうところでした。そんな矢先に一人になってしまったので、どうしようかと悩んでいたところです。良かったらパーティーを組んで町までご一緒してもよろしいでしょうか?」
パンドラは、上目遣いにこちらに尋ねてくる。
「えぇ。もちろんいいですよ! 仲間がいると心強いですしね!」
特に断る理由も見当たらないので、了承することにした。
「そういえば、このゴブリンの亡骸どうしましょ??」
一応、オンラインゲームの世界であれば横ヤリに等しい行動を取ったのだ、報酬の分配については話し合わないと、お互いの関係が悪くなるかもしれない。
「パーティーを組んだら、ドロップアイテムも経験値も、パーティー内でそれぞれ分配されますよ」
そうなんだ!? 俺は早速端末を操作し、パンドラさんとフレンド登録を行いパーティーを組むことにした。
「改めまして、これからよろしくお願いします」
「こちらこそ、お願いします! なんかこうやってパーティーを組んで挨拶するとホントにゲームをしてるみたいな感じですね。」
パンドラは嬉しそうに笑顔を浮かべていた。
俺はこうして、ジェネシスの世界に来てから初めて同郷の人と出会い、パーティーを組むことになった。
◆
パンドラとパーティーを組むと、ノーブルの町を目指して再び街道を北上する。道中ではゴブリンをはじめ、二足歩行する犬のような亜人種系モンスターのコボルト、常に4匹以上で襲いかかってくるウルフ、そして俺を育ててくれたブルーラットやホーンラビットに襲われたが、パンドラとお互いに背後を取られない様に立ち回る事で、危なげなく順調に旅は進んだ。
パーティープレイと言っても、お互い開拓者という初期クラスのためか、特に前衛、後衛や支援などの役割はなくそれぞれが敵を分断しつつ戦うだけではあった。しかし、ソロで戦っていた時よりも数段に効率良くモンスターを討伐することが出来た。
また、初めてパーティーを組んだことにより、パーティーという仕組みについても理解できるようになった。
まずは、経験値とドロップについてだが、分配するのではなく、それぞれに獲得できる仕様らしく、二人だからといって経験値が減る事やドロップ品が少なくなることはなかった。
また、端末を通してお互いの名前、レベル、生命力、精神力、装備品なども把握できた。但し、ステータスやスキルまでは流石に見ることはできないようだ。
襲い掛かってきた3匹のコボルトを倒して、亡骸に端末をかざすと、生命力の回復も兼ねて街道沿いにある大きな木の木陰で休憩する事にした。
「そういえば、ソラさんって私と同じレベルだったんですねー」
「何か、言い出せなくてごめん。まぁ、ジェネシスに来た日も一緒だし、場所も近かったので、似たようなレベルになるのかな?」
「その割には、ソラさんお強いですよね? 装備も似たような感じだと思うのですが……ひょっとして、ユニークスキルがスゴイんですか?」
「んー。どうだろ? 一応大器晩成という成長率にプラス補正されるスキルとマルチウェポンという全ての武器を扱えるユニークスキルを習得してました」
「え? ユニークスキル二つもあるんですか!?」
「うん。あれ? パンドラさんはユニークスキル一つなの?」
「はい。私は、エリート錬金術という、錬金時に必ず成功するというユニークスキル一つだけですね」
「へぇ。錬金ってまだしたことないけど、元の世界のゲーム上での錬金のシステムを思い出すと、必ず成功するって便利そうなスキルだね」
「そうですね。実は私はこの世界に来る前まで、オンラインゲームで錬金術にハマっていたので、このユニークスキルを見た時には喜びましたよ! でも、まだこっちの世界では錬金をしたことがないので、効果と価値は不明ですね」
「まぁ、この世界は色々できるみたいだし、錬金が必要になったときは是非ともご協力お願いしたいところです」
「それは、もちろん! ソラさんの頼みでしたら、特別価格でお受けいたしますよ 」
パンドラは笑いながら答える。
「お金は取るんだ !?」
俺も笑って答える。
「ふふ。冗談はここまでにして、ソラさんがユニークスキルを二つ持っているということは誰にも話さない方がいいかもしれませんね」
「ん? それはなんで??」
まぁ、俺も自分のユニークスキルを他人に言いふらすつもりはないが。
「私は、ゲームを始める前に説明書を隅々まで読むタイプでして、こちらの世界ジェネシスに飛ばされる前に公式サイトのシステムのページをプリントアウトして熟読しました。それで公式サイトに公開されていた情報ではユニークスキルは一人につき一つしか付与されないはずです」
え? そうなの?
(はい。マスター。ユニークスキルは、全ての開拓者様に一つだけ付与される他者とは異なる特別なスキルです)
ナビゲーターのキュロがそういうなら、ホントのことなんだろう。
「そして、私の経験上ですが、経験と言ってもオンラインゲームですけどね。こういう世界で、普通の人と異なる人は、いらぬ嫉妬や誤解を受けて過ごしづらい生活になると思うんですよ」
確かに、俺もオンラインゲームをしてた頃にそういった経験はある。凄まじくレアリティの高い装備品を持つものや、ランキング形式があるゲームだとランカーと呼ばれる存在は、羨望と嫉妬の目に晒されていたな。
「うん。確かにパンドラさんの言う通りだね。幸い、大器晩成は自己申告しない限りバレなさそうなスキルなのでこのスキルの存在は隠す事にするよ。ナイスな助言ありがとです!」
これからの立ち回りや言動は気をつけるように心掛けよう。
「いえいえ。差し出がましいことを言いました。つまり、大器晩成の補正分、ソラさんは私より強いんですね」
休憩も終わり、俺たちは再びノーブルの町を目指して街道を北上した。
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