第3話

 次の日の昼下がり。

 厚い雲が牧場をぐるりと囲んでいるようでした。

「みんな、絶対、メリーさんは、ここには来ていないって答えてね」

 山田さんは、小さな声で私たちに言いました。

「なんで?」

 ゾウの花子さんの声が大きかったので、山田さんは慌てたように、人差し指を口の前に置きました。

「黒いあいつが、メリーさんを探してるから」

「見つかると、メリーさんが困るんだね?」

 チーターのチッタさんの言葉に、山田さんが頷きました。

「そうそう。そういうこと」

 山田さんは、もう一度、人差し指を唇の前に置くと、思い切りドアを開けました。

「社長っ! メリーさん小屋に来てないって、みんな言ってましたぁ! もう、帰っちゃったんじゃないですかねぇ?」

 遠くから、牧場主さんの声が聞こえてきました。

「わっかりましたぁ! 今日、ちえちゃん来ない日なんで、社長が戻ってくるまで、おれ、ここにいますから!……はい、お気をつけて!」

 山田さんは、ゆっくりとドアを閉めました。牧場主さんが乗った車の音が小さくなったことを確認すると、急いでカギをかけました。

「メリーさん、もう大丈夫。あいつと社長、出かけたから。今のうちに、スマホの電源切っといたほうがいいよ。多分、あいつ、スマホでメリーさんの居場所突き止めると思う」

 ゾウの花子さんの後ろから、メリーさんが出てきました。メリーさんはカバンから小さな機械を出すと、何度も触りました。

「山田さん。メリーさん、何かあったんですか?」

 キリンのきいちゃんは、不安そうな顔でメリーさんを見ました。

「ケンカじゃないんだ。オオカミに……」

 山田さんは突然、メリーさんを見ました。

 メリーさんは、小さな機械の前で大きく息を吐くと、機械をカバンに入れました。

 山田さんと目が合ったメリーさんは、ゆっくりと頷きました。

「お千代さんから……オーバーイーターの人……とデートできるようにしてって、言われたの」

「山田さん、オーバーイーターの人って、誰?」

「あの、声の大きい男か?」

「たっくん!」

 ロバのローバさん、牛のモー太郎さんの言葉に続いて、私が叫びました。

「そう。たっくん」

 メリーさんは私を見ました。

「たっくんとは、昨日、本当に久しぶりに会ったし、仕事中だったから連絡先、聞いてないのに。お千代さんは、たっくんのことが好きになったみたいで、なんとか連絡を取れって」

 メリーさんは、大きく息を吐きました。

「懲りない人だね」

 モー太郎さんがモーと鳴きました。

「前に、映画監督の息子にフラれたじゃん。オオカミは嫌いだって」

「モー太郎さん、アイツは基本的に学ばないヤツなんすよ。人間の真似はしても、人間の心がわかってない、残念なオオカミ」

 山田さんが、頭をかきました。

 

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