第4話

 山田さんが急に、ポケットの中に手を入れました。

 ポケットから小さな機械を取り出したとき、メリーさんが両手で口を覆いました。

「社長、どうしましたか? ……え、メリーさんと? いや、おれ、普段から仕事場でしか話をしないんで……。はい、はい……多分、電車の中じゃないっすか? マスクしたまま電車の中で話すんの結構、周りの視線が怖いから、電車に乗る前にスマホの電源切ってる人、多いっすよ」

 話を終えた山田さんは、肩をすくめました。

「ね? おれの言った通りっしょ?」

 メリーさんがゆっくりと息を吐きました。

「おれが呼んだオーバーイーターの人なんだから、おれに頼めばいいのにね」

 山田さんは、ロバのローバさんの頭を軽く撫でました。

「山田に頼むと後が面倒だから、頼みづらいのかもな」

 牛のモー太郎さんが笑いました。

「オーバーイーターって、配達員選べんのよ」

「え?」

 メリーさんの声に合わせるかのように、私たちも驚きました。

「注文する時に、前と同じ人に配達をお願いすることができるのよ。まあ、その人が他の配達に行ってたり、お休みだった場合はダメなんだけどね」

「人間ってすげーな」

 メリーさんが何かを言うより先に、モー太郎さんが感心しました。

「じゃあ、山田さんが、たっくんを指名すれば……。それで、たっくんが配達できるんなら……。たっくんはまた、ここに来てくれるってことだよね?」

「メリーさん、そういうこと。次、たっくんが配達に来てくれた時に、連絡先は聞けないけど、お客さんとして牧場に来てくださいって、お願いすることはできるね」

「なるほど……」

 メリーさんは、片手をほっぺに当てたまま動かなくなりました。

「シープちゃん」

 キリンのきいちゃんが、アゴで私の背中を軽く叩きました。

「配達の人って、かっこいいんですか?」

「あれ? きいちゃん、興味あるんだあ?」

 チーターのチッタさんが、きいちゃんのそばに寄りました。

「いやいや、そうじゃなくて。お千代さんが好きになった人って、興味、ないですか?」

「ああ、そうねえ」 

 チッタさんがクスリと笑いました。

「また、ローバさんが好きになっちゃうかもよ~」

 ゾウの花子さんが鼻を高く上げました。

「優しい人だったら、オッケーよ!」

 ロバのローバさんが前足を鳴らしました。

「たっくん、優しいですよ。サーカスにいた時は、たくさんファンがいました」

 ローバさんが、目をキラキラさせながら私の隣に来ました。

「今度、たっくんが来たら、アタシにも紹介してね」

「それまで生きてたらね」

 ローバさんが片足でモー太郎さんのお腹をつつきました。

 モー太郎さんが、大きな音を立てて、横に倒れました。

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羊が一匹 ~新しい生活~ たえこ @marimo-suchiko

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