第2話
しばらくして、小屋に入ってきたのは、山田さんではなく、飼育係のメリーさんでした。
「シープちゃん! 一緒に玄関に来てっ!」
メリーさんは私を抱えようとしました。
「メリーさん、どうしたんですか?」
私はメリーさんから逃げるように、小屋のドアへ向かいました。
「シープちゃんに、会わせたい人がいるの。懐かしい人よ」
私はメリーさんと一緒に玄関へ行きました。
玄関では、山田さんが、黒っぽい服を着た人と楽しそうに話していました。
「たっくん!」
たっくんと呼ばれた黒っぽい服を着た男の人は、私とメリーさんを交互に見ました。
「覚えてるかな? サンデーサーカスにいた羊の、シープちゃん!」
メリーさんは男の人に言いました。そして、私に、男の人のところへ行くように言いました。
私は男の人のところへいくと、「めー」と鳴いてごあいさつしました。
男の人は、しばらく私を見ていました。
「ヤバイ!」
男の人の大きな声に驚いた私は、メリーさんを見ました。
「これ、マジで、ヤバいです!」
メリーさんは私のところへ来ると、優しく私の頭を撫でながら言いました。
「すっかり変っちゃったから、わからないかもねえ。シープちゃん、この男の人はね、サーカスで一緒だった、たっくん。覚えてる?」
メリーさんと私は、この牧場に来る前、サンデーサーカスという小さなサーカスで一緒に暮らしていました。
「めめめ?」
「空中ブランコの王子様の役だった、たっくん。あの頃は棒のように痩せてたけど、顔も体も変わっちゃったから、わかんないか」
「めめーっ!」
私の鳴き声に、メリーさんも山田さんも、男の人も驚きました。
「思い出したみたいだよ。たっくん」
メリーさんが笑いました。
「今日は、マジで、神の日です!」
メリーさんと山田さんは、お互いの顔を見ました。
「大好きなシンパパの山田さんの動画に、サンデーサーカスのアイドル、メリーさんが出てきたとき、神回だって絶叫しました! 今日、憧れの山田さんに会えただけでも、感動なのに、かつての仲間だったメリーさんと、それから、羊さんにも会えて……。もう、マジで、今日は、神の日ですよ! めーーーっちゃ、嬉しいっ!」
ガッツポーズをしながら叫ぶ黒っぽい服を着た人を見ながら、私はメリーさんに聞きました。
「あの人、本当に、たっくんですか?」
「そうだよ。前より、うるさくなったね」
メリーさんは、苦笑いしました。
「男の人の声、ここまで聞こえましたよ」
小屋に戻ると、キリンのきいちゃんが話しかけてきました。
「食事届けるのに、あんなにバカでかい声ださなきゃダメなのか?」
牛のモー太郎さんが、大きく伸びをしました。
「アタシたちも、何か配達しなきゃダメかしらね」
ロバのローバさんが、チーターのチッタさんに言いました。
「うーん、ローバさんが配達したら、お客さんは喜んでくれると思うけど。私は……どうかなあ?」
チッタさんは、首をかしげました。
「私を見ると怖がる人がいるからなあ。配達の仕事、やってみたいけど……」
悲しそうな顔をするチッタさんを見たゾウの花子さんは、ゆっくりとチッタさんの方に近づきました。
「アタシは、やだなあ」
花子さんは、鼻を左右に振りました。ローバさんが花子さんに言いました。
「アナタは、ただ動きたくないだけでしょ?」
花子さんは、何も言わずにローバさんを睨みました。
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