第26話 キリトリ

 統一歴 二千二百九年 水無月三十日 転移百二日目 尾張 ???



 武蔵総合学園に所属する戦闘要員の総数は二千百ほど、その内三百を誠に任せて鳴海城方面に派遣した。

 黒字に白抜きで『誠』の字を描いた旗印は安祥合戦の折今川・松平連合軍も目にしており、信広救出の際には誠自身と他数名の女生徒がヒヒイロカネを持って今川方の兵を蹴散らして撤退した。

 その鮮やかな引き際は、今川義元や太原雪斎をして舌を巻くほどの手並みであったとか。


 その誠がわずかな手勢と共に後詰として動く気配が全くなく、信長は千を下回る兵で凡戦を続けている。

 しかも信長方も山口教継方も兵にとっては相手に顔見知りが多く士気はとても低い。


 これでは信長が本気で攻めても結果は伴わなかったであろう。


 その合戦の模様を今川の将、飯尾乗連の放った斥候が三人一組で見定めている。


「どう思う?」

 一番年長の斥候が年若い斥候に問う。


「双方ともに本気で戦ってはおりませぬな。何より織田方は戦力を遊ばせたままでございます」

 戦場の様子を見やり年若い斥候がそう答える。


「では飯尾様にはそのように伝えてくれ」

 年嵩の斥候が三人目の斥候に命じる、三人目は伝達の術式を使う外勁使いのようだ。


 飯尾乗連は友貞から届けられた山口親子の書状の真偽を確かめるべく事情を説明しないままこの三人を斥候として送り込んだのだが、その三人の目から見てもこの戦は不自然にしか見えないようだった。


 報告を受けた乗連は進軍を一時停止し、岡崎を経由しこちらに向かっている岡部元信へ状況説明の連絡を入れると、岡部の他三将から駿府館の義元に報告がなされる。


 義元からの指示は

『猜疑心を持たれぬように対応しつつ、旧領では何かとやり辛かろうから駿河に加増した新領地を与える故親子共に駿府館に出仕せよ』

 と伝えるようにとの内容であった。


 これにより駿府で山口親子は腹を切らされることになり、今川の誘いに乗って周囲を調略し功を立てても殺されるだけだという認識が尾張に広まったことでそれ以後今川と連携するものはいなくなった。


 穂村の計略の一端はまず成功することになる。



 統一歴 二千二百九年 水無月三十日 転移百二日目 尾張 武蔵総合学園~清州



 学園の戦闘要員である生徒千五百を浮き車に乗せて、穂村達は庄内川沿いを北上する。


 一益配下の忍者による欺瞞情報を清州の織田信友は信じたようで配下ではあるはずだが実権を握っている坂井大膳を将として那古野城に兵を送った。


 ここら辺は大和守家内部の発言権の大きさにより坂井大膳が自領とすべく那古野を欲した可能性もあると政秀は言うが、結果的に清州が手薄になったという事実が重要であり、那古野の防衛を任せている信光には引き付けるだけ引き付けて粘ってくれればいいと指示を出している。


 武蔵総合学園の守りは戦闘要員が三百ほどだが、卜伝指導の下友貞から献上させた良業物の荒武者、長船家助――愛子と融結したことにより金雀枝という真名を得た――がある上に、ヒヒイロカネを持たせた優一もいる上、大名物国俊を持った卜伝もいる。

 いざとなったら鹿島においてある身体を”呼ぶ”と言っていたので、不測の侵攻を受けたとしても対応できると穂村は思っているし実際それだけの戦力はある。

 なので運べる限りの戦闘要員を清州攻めに動員した。


 この三ヶ月ほど平手政秀と山科言継、最近では卜伝の指導を受けた結果穂村はこの世界での武士としてそれなり以上の技能を身につけ、特に印を結び秘名を得たことで現在


 名前:夏生穂村なつおほむら


 性別:男性


 年齢:15歳


 能力

 武力:309

 統率:303

 知力:297

 政治:294

 魅力:300

 交渉:303


 技能

 戦闘技能:格闘 3、刀 2、槍 2、弓 1、荒武者融結 3

 魔術技能:秘名 3、内剄 2、外勁 2

 政治技能:交渉 3、恫喝 4、経済 3、政治 4、戦略 5、戦術 4、謀略 4、指揮 4

 生産技能:

 生活技能:料理 2、掃除 3、房中術 2、運転 2

 回復技能:



 異能

 火之迦具土神の魂

 別天津神の慈愛

 月読命の加護


 呪い

 伊邪那岐の怒り


 と元の能力から成長した上秘名の効果も得てステータスは三倍以上に跳ね上がっている。


 技能レベルは1で初心者、3で一人前、5あれば達人、6以上は神の域で最高レベルは10までである。


 異常に高いステータスにプラスしてそこそこの戦闘技術を持つ穂村は身体能力は高いけれど技術的にはそこまでではないレベルの戦士でしかないが、政戦両略に優れた将ではある。


 卜伝の見込みでは戦闘技術はまだ伸びしろがあると言われており、言継に言わせれば内勁はまだ基礎しか教えていないのでどこまで伸びるか想像がつかないらしい。


 卜伝が来てからは内勁は鹿島新当流の教えに沿って鍛えられており、門下の内穂村と誠と愛子と優一は将来が楽しみになるほど鍛えがいがあるらしい。


 曰く今まで教えを授けた者の中でもとびぬけた素質があるとか。


 元の世界では一介の学生に過ぎなかった穂村達だが、この世界では相当な大物になり得る可能性を持っており、今はその功績の第一歩を示すべく清州に向かっている。


 出来る限り被害を出さずに清州を占領し、那古野の救援に向かう。


 現時点で穂村の計画の要点はこの二つである。


 その為に使える手は何でも打つつもりではあった。



 統一歴 二千二百九年 水無月三十日 転移百二日目 尾張 清州



 鳴海城周辺で信長と誠が山口親子相手に凡戦を続け、清州を発した坂井大膳の軍が那古野城周辺で織田信光に引き付けられている頃、穂村率いる武蔵総合学園の戦闘要員は清州城を厳重に包囲していた。


「主君斯波義統を殺した織田信友に告ぐ、無駄な抵抗はやめて腹を召されよ! 那古野城に兵がいないというのはこちらが流した嘘であり、今頃坂井大膳の軍は殲滅されている。待っていても援軍は来ぬしこの城を落とすのは容易である。無駄に兵を損なうつもりなら城中残らず根切にするが、降るなら信友殿の首一つで許してやろう! 覚悟を決められよ!」

 穂村が言継の外勁による拡声の術式を使って清州城内を恫喝する。


 それを聞いて城内に動揺が広がる。


 清州城は坂井大膳の出兵により守備兵は百もいない。


 そこへ十倍以上の戦力で完全に包囲されているのだから動揺しないはずがない。


 更に自分達はまんまと計略に乗せられ、城主が降らねば城内にいる者を全て殺すというのだから恐怖を覚える者が多数出ても仕方がない。


「信友は降るでしょうか?」

 不安げに政秀が問う。


「降る……というよりは降らざるを得なくなる、だな」

 信友が望まなくても腹を切らされることになるだろう、穂村はそう考えている。


 尾張守護であった斯波義統を織田信友は暗殺している。


 義統の嫡男である義銀はそのまま信長の庇護を得ている為大義は信長に与している武蔵総合学園側にあり、加えて那古野が留守であると聞き兵を放った引け目もある。


 どうやっても釈明できる余地はなく、信友の首を差し出すか? 徹底抗戦をして皆殺しにされるか? しか道はない。


 そして城内のほとんどの者は無駄死にしたい訳ではない。


 穂村の呼びかけに対する反応を見るに、命を捨ててまで忠義を尽くす者はそう多くはなさそうだ。


 そうなると必然的に城主である信友に腹を切るよう圧力がかかる。


 圧力がかかるだけならまだいい方で抑え込まれて無理やり自刃させられる可能性もある。


「あと半刻後に城攻めを開始する! それまでに城主織田信友の首を渡さねば根切にいたす!」

 穂村がダメ押しとばかりに最後通牒を突きつけると、しばらくして城門が開き首を捧げ持った家臣と思しきものが進み出る。


 警護の戦闘要員と共に言継と政秀を伴った穂村は言継と政秀に首実検をさせる。


「間違いなく織田信友殿の首級でおじゃるな」

 言継が断言すると、

「恨めしそうなお顔でござるが信友の首でござろう」

 政秀も同意する。


「ならば清州の城内にある者は武装解除した上で一カ所に集めよ。政秀には戦闘要員五百を預ける故清州の守りと捕虜の扱いが確定するまで見張りをお願いいたす」

 穂村がそう指示を飛ばしながら清州の守りにつく部隊に伝令を出す。


「残りの戦闘要員は那古野の救援に向かう! 浮き車に乗車が完了次第出発する!」

 そう宣言すると戦闘要員の生徒達は浮き車に搭乗開始すべく動き出す。


 尾張切り取りは大詰めの段階に入っていった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る