第20話 ゲンジツ
統一歴 二千二百九年 夘月二十七~皐月十日 尾張 武蔵総合学園
信秀より昨年まで争っていた美濃斎藤との和睦を依頼された穂村は生徒会役員達と言継を集めて現状を把握するために話し合う。
一益経由で信秀より斎藤道三との会見は聖徳寺で穂村と信長それと穂村の奥の者を代表者とし、美濃からは道三と義龍が出席する予定である。
この事を受けて穂村は混乱していた。
美濃と尾張が昨年まで争っていたということは今年は1548~49年辺りなのだろうと思っていた。
だが信長はまだ未婚であり帰蝶は輿入れしていない。
その上で1552年か1553年にあったはずの聖徳寺での会見が嫁入りに先んじて行われるという。
それに対して生徒会役員達の見解を聞き、方針を固めたかったのだ。
「可能性として、この世界はわたしたちの元の世界の歴史と同じ流れで物事が起きる訳ではないってことかしらね? そもそも黄泉の侵攻なんて元の世界にはなかったわけだし」
クラーラがそう見解を述べる。
「わたくしもそうだと思います」
菖蒲がそう口にすると、
「小豆坂の合戦は起きたんですかねぇ?」
とちはやが疑問を口にする。
「弥生に安祥城が今川方に攻められたそうでおじゃるが信広殿が跳ね返したそうでおじゃるよ」
言継が情報をくれる。
「攻め手に太原雪斎はいたの?」
聖子が言継に問う。
「今川、松平連合の総大将は義元公、実質的な指揮は太原雪斎であったそうでおじゃる」
言継が補足する。
「小豆坂の合戦に今川義元って出陣してたっけ?」
愛子が疑問を呈すると。
「確か出陣してたはずだ。安祥合戦にもいたはずだ」
誠がそう教える。
「竹千代は織田にまだいるのかな?」
優一が疑問を口にする。
「松平の嫡男の竹千代でおじゃれば随分前に今川へ人質として召し出されておじゃるよ」
言継がそう答える。
「元の世界の知識は参考にはなっても絶対ではないし、時に邪魔になる可能性もあると考えておいた方がよさそうだな……」
知識チートで無双できる訳ではない事を穂村が周知徹底させるように呟き、
「聖徳寺の会見には信長の手勢だけではなく武蔵総合学園の精鋭と鉄砲を実用レベルで扱える者を護衛として選抜して連れていく」
と宣言すると人員の選抜に入るのだった。
聖徳寺に赴くのは信長配下の250に武蔵総合学園から250名、美濃からも同規模の護衛しか認められていない。
学園の警備に愛子と誠を残し、今回は菖蒲に決定権を任せてクラーラ自身が赴くことになった。
護衛は普通科と商業科から武力が高く戦闘技能を身につけ、いざという時に動ける者を統率が高い者に指揮をさせ上位500人中バランスよい配分で半数を選抜して護衛につけることとなった。
残りは学園の警備として残す。
東にある森の開墾はある程度終わり、今年は田起こしの後種籾で米作りをすることになっている。
時期的に苗代で稲作をするのが無理そうだからという理由と、この世界では主に種籾から米作りを行っているのでまずはそれでやってみる事になったのだ。
開墾して農作に使える土地は確保できたが、魔獣がいなくなった訳ではないし武力の高くない生徒にとっては野生の獣であっても十分な脅威なのである。
なので今でも農作業に従事している者達の護衛はある程度付けているし農作業に従事している戦闘要員も多い。
汗を流したものを優先して風呂に入れるようにしているので風呂周りが脆弱であった頃は苦労したが、魔石を使った温水供給機構を言継が試作し学園内の風呂事情を改善した結果、信長の希望通り那古野城にも同じものを作り、城下に公衆浴場を建てお風呂グッズの試供をしたところ評判が良く、大層な客入りなので城下に複数の浴場を建てることになった。
それらの運営はある程度政治と交渉が高く、それなりに統率の高い者を責任者として配置し武力以外が高い者を送り、現地で情報収集などを行わせている。
機械科と電気科による鉄砲の構造解析は火縄銃ではない着火システムに理解が及ばず行き詰まりがあったが、言継から
「外勁使いと言えない程度の者が弱い魔力で着火し発砲するのでおじゃる」
との助言があって以降捗り、滑空砲であった友貞の鉄砲を元の世界のライフルやアサルトライフルのようなものに発展させるための研究をしている。
幸い銃器マニアが機械科に多数存在し、命中精度の高いAKをという設計思想で試作品を作ってしまった。
今は魔力式AKとライフルの共通弾を量産するために硝石丘の技法で火薬を作り、均一な品質の弾丸を作る為の機械を制作中である。
日本の中部地方には鉄鉱石の鉱山はなかったはずで、刀も砂鉄を加工して作っていたがこの世界の秋津には鉄鉱石の鉱山も燃料となる石炭の鉱山も豊富にある。
ただそれよりも効率が良く煤煙という弊害のない魔石という燃料があるため重要視はされていない。
この世界の刀は鉄より硬い金属の鉱石を技術の限りを尽くして作り上げているらしく、それに使われる金属は比較的高価だが、融点が高く加工しにくい割には強度が足りない鉄鉱石は使い道がないのでかなり安い。
信長に頼んで鉄を始め弾丸や鉄砲に使える金属を集めてくれるよう頼むと
「そんなものを何に使うのだ?」
と不思議がられたが、よほど安かったのか大量に送ってもらえた。
それを工業科の片隅に建てた工場と倉庫に運び、言継に魔石を使った炉を作ってもらうと魔力式AKの量産体制を築いた。
水産科は信長の紹介により佐治水軍から隠居した年寄りを招いてこの世界での航海技術を叩きこまれている。
彼等も夜間航海の技術は発達させていなかったが、近海での航海技術には参考になるものがあったそうだ。
浮き車で海上を走ることもできなくはないそうだが、浮いている間中燃料を消費するので、海は船を使った方が効率が良い。
そのため言継に魔石を使った推進機関の開発を頼んでいるのだが、彼女も仕事が多すぎてまだ形にはなっていない。
流石にオーバーワーク気味なので見かねた学園長から
「どなたかお手伝いいただける方はいませんか?」
と尋ねられ、それならば同族の四条隆益が朽木にいるはずなので呼び寄せたいと答えた。
そして穂村に許可を貰って生徒の教導と研究と開発を手伝ってくれるよう手紙を出す。
具体的には穂村達が持つ加護の力の発現と魔石を使った船の推進装置の開発を任せたいらしい。
加護を持つ者は全くいない訳ではないが、珍しいことは確かで代々の帝の位につく者は天照大神の加護を持っていた。
その他に有名なのは大天狗の加護を持つ源義経、多聞天の加護を持つ楠木正成、近年では越後の長尾景虎が毘沙門天の加護を持っているとか。
その内義経と楠木正成、そして帝には加護の力を発現させたという証言が伝わっており、穂村達にもそれは出来るはずなのだが今の所地の能力が高いということ以外に効果を発揮してはいない。
それに対する研究を手伝ってほしいらしい。
そのことを一益を通して信長、信秀母娘に一言ことわりを入れ使者を出す。
一益の配下を案内に使うので信長に知らせておく必要があったのだ。
使者には魅力と交渉の高い者を選び、尾張以外の土地の様子を探り出来れば情報も集められる人材と護衛が出来る者を複数人付けて送り出した。
難を逃れた公家の多くが六角が治める南近江と朽木に滞在している為、声をかければ来てくれるはずだと言継は言う。
知識人が集まり過ぎてその地は知識の安売りの応酬となっているそうだ。
武蔵総合学園での生活水準は元の世界から一緒に転移したものに加え被服科と農業科、建築科の頑張りによって衣食住ともにかなり高く、都が黄泉に飲み込まれる前の公家の生活はおろか大大名のそれを上回りかねないほど恵まれている。
このまま朽木にいるよりははるかにましであろうという彼女の心遣いも含まれたものであった。
友貞配下の捕虜は既に大金と引き換えに解放したが鹵獲した武器は返さなかった。
それを参考に実用に耐える武器製作をする必要があったし、信秀との会見後そちらを優先した。
出来た武器を護衛に渡すと手入れを怠らないよう徹底し、満足に扱えるよう政秀監督下で訓練させた。
会見は皐月二十日。
依頼を受けてから被服科の生徒達は護衛を務める女生徒が着用する露出の多い水着の制作できりきり舞いでああった。
勁術を身につけた護衛の女生徒達は訓練の他に信長より送られた魔力に反応して体を守る塗料を使った文様の習得に勤しでいる。
道三をどれだけ驚かせることが出来るか?
信長だけではなく穂村達もこの一事に出来る限りのことをかけて臨むのであった。
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