第11話 ライホウシャ

 メリークリスマス!

 皆さんに向けてクリスマスプレゼントとして投稿します。


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 統一歴 二千二百九年 弥生 二十三日 10:32 転移五日目 晴天 武蔵総合学園


 雨上がりのこの日、学園付近に目立った野生の獣はおらず、それどころか村落も近くにはないこと調査報告会により知らされ、学園周辺に危険がある可能性は低いと生徒会は判断した。


 その結果、建築科生徒を主体とし補助に教員と有志が付く形で学園敷地内と周辺の測量を始め、農業科生徒も増員された警備要員を伴い周辺の土地で稲作もしくは畑作が出来る土地を探しに出ることが決まった。


 学園の東側から北へ伸びていく川の向こうは分からないが北から西の方角は数時間歩いた程度では何も発見できなかった。

 もう一度調査隊を昨日とは少し角度を変えて送ってはいるが同じ結果が出たのなら今後何度やっても同じだろう、なので更なる調査をする場合には浮き車を使用し、武装したものを何人か乗せた上で調査に向かうべきという方針が決まった。


 ちなみに南側は星の位置関係をはっきりと言える状態ではないので、日が沈まないうちに戻れる範囲で魚介類を収獲する班と、複数のボートを連携して測量する班に分かれている。


 東側の川の水は飲めるのか? と友貞配下の兵に尋ねたら、濾過すれば問題なく飲めると答えたので試しに濾過機を作らせたら元の世界の者とそう大した違いはなかった。


 放射性物質が大量に混ざっているわけでも鉱毒が入っていることもなく、汚染水という訳でもなかった。

 生物部に頼んで魚肉を食べさせた元の世界の魚や動物も一日以上経ても無事であったので、漁を始めることが許可されたのだ。


 現在武蔵総合学園は真西に普通科校舎が向いた五つの辺のそれぞれ北西方向を商業科、北東方向を農業科、南東方向を工業科、南西方向を水産科の校舎がそれぞれ囲む中に各生徒寮をはじめ体育館や講堂、倉庫などが立ち並び校舎の外側に各校庭その向こうに正門という五角形を中心とした形になっている。

 だが昨日の友貞の時のように戦を仕掛けて来る輩に備えて要塞化すべきではないか? という考えが自然と発議された。


 どんな状況でもあの時の警備要員たちのように敵を撃退できるとは限らないし、備えるならもっと効率よくすべきなのだ、何せ外の世界は戦国乱世であることはほぼ間違いないのだから。


 誠の鑑定により築城技能を持つ友貞配下の将を何人か個別に尋問した結果、『荒武者』に備えるには最低でも高さが二十メートルちょっとは必要らしく、荒武者とは巨大な人型兵器であるという情報を得ることが出来た。

 全高9m前後の人型兵器らしいのだが機動性が非常に高く、全高の倍くらいの高さなら能力的に最低な乗組員でも飛び越えてしまうそうだ。


 校舎の防壁化も必要かもしれないが一番高い普通科校舎でも16mもないので、防御力としては不安がある。


 そう報告された後、誰となく敷地の外に外壁を設けるべきという流れとなり、鉄砲があるなら星形の城を築いた方が良いと話が弾み、城に港を構える星形の防壁の設置が可決された。

 攻防の決め手となる鉄砲は機械科と電気科の生徒により鹵獲された物の構造の解明と量産の為の技術研究が行われることになり、友貞配下だった鉄砲隊の兵により知っている情報を提出させている。


 友貞配下だった人質達は500人を2週間食べさせる為の食糧を浮き車に積んでやってきたのだが、幸か不幸か前衛200人のうち半数以上が、中衛の弓部隊200人が穂村達により文字通り全滅した結果生き残った者達は一ヶ月十分食べ繋げる食料が残っている。


 少なくとも捕虜虐待をする必要はなさそうだ。調査報告会で「殺すな、盗むな、犯すな、だが何かされそうならば反撃として殺していい」は捕虜にも一部適用されており、体育館内もしくは排便などの理由により外出中でも見張りがそばにいる場合に何かあったら適応されることになった。


 捕虜は女性しかいないため主に商業科の女生徒を中心に、それなりに武力と統率が高い者を責任者として編制して見張りに付けている。


 昨日までの情報が入るのを待っている雰囲気から、ほぼ全ての生徒が情報収集する姿勢に変わり、一月後には学園関係者すべて含めても十年食べていけるだけの食糧が来ることも知らされ、学園内の雰囲気は非常に明るくなっている。


 生徒会を中心に生き残る事に繋がる作業で気を紛らわせることが出来る為、上向いた雰囲気に沸く学園にドラムの音が響く。


 先日の友貞の軍の時よりもゆっくりと長閑ともいえるリズムを刻むそれは、一瞬聞いた生徒達に緊張をもたらすも、張り詰めた雰囲気は徐々に弛緩し始めるが中には狼狽える者もいる。


 そんな微妙に緊張感の漂う雰囲気の中、普通科一階の会議室から商業科の屋上北端を目指して穂村は走るのであった。




 統一歴 二千二百九年 弥生 二十三日 11:14 転移五日目 晴天 武蔵総合学園 農業科正門前



 農業科の正門からかなり前に出たところに穂村が立ち、後ろに戦闘経験がある警備要員を前列に並べ、その後ろに少し離れて誠に率いられた武力高めの予備戦力を置く形で警戒させ来訪者を待ち受ける。


 地平線の向こうから現れて以降非常にゆっくりとしか近づいてこないので急襲するつもりはまるでないのであろうし来訪者は三台の浮き車しかおらず、しかも武装したものは乗せていなかったが。一昨日あんな事があったばかりなので警戒を強めることにしたのだ。


 ステルスした歩兵を伴っているって訳でもなさそうだな……


 愚にもつかないことを思っている間に更に浮き車が近づく。


 声が聞こえるであろう間合いに入ったと思い穂村は


「止まられよ! これなるは武蔵総合学園生徒会庶務 夏生穂村である! 何故我が校に近寄るのか? 我が問いに答えられよ!」


 穂村は見知らぬ相手に舐められぬよう、友貞を真似て武士のような口調で浮き車の車群に問いかける。


 すると、声をかけられた場所ですぐに車群は止まり、浮き車からそれぞれ一人ずつ美少女たちが降りて来る。


 三角形の頂点を走っていた車両から降りた、艶やかな黒髪を膝裏まで届きそうなほど伸ばした目尻が釣り気味のつぶらな瞳の美少女が前に出て。


「失礼! これなる車群は織田弾正忠家嫡女 織田三郎信長とその配下二名である! 長島の一向宗門徒を撃退した貴兄らと誼を通じたい。城主殿にお目通り願えまいか?」

 と口上を述べる。


 奇しくも昨日共同歩調をとる方針を可決した織田信長が自分から来てくれた!


 穂村は内心の歓喜を抑え込むように

「しばし待たれよ!」

 と叫ぶと誠に向かい、

「タイガーショット! グランドタイガーショット! タイガーアッパーカット!を繋げてくれ」

 と非常に分かり難い指示を出したのだが誠はこれを、

『トラ・トラ・トラ!ってことか……つまり方針がうまくいきそうなので信長を客として迎え入れろという意味だな』

 と正確に意味を受け取り、隊の指揮を副隊長に預けると自ら伝達に走るのであった。


 歴史が、世界が動き始める……

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