第2話 ミタコトノナイフウケイ
XXXX年 X月 X日 晴天 武蔵総合学園 メディア室?
「どこって……」
しばらくして愛子が呆然と呟く。
「少なくとも東京じゃあなさそうだな……」
優一が続ける。
誠が壁にかかる時計を確認してから、ポケットの携帯を取り出し、状況を確認しつつ、
「この時計が正確ならばという前提での話になるが、俺たちが気を失っていた間は十分に満たない。その間に東京郊外の学園から四人を全く別のこんな場所に運び込むのは不可能だろう。それと携帯が圏外なんだが俺の携帯は衛星回線通してるから無人島でも圏外になるはずがないんだ……もちろん俺たちが気を失っている間に誰かがすり替えた可能性もあるんだが」
可能性を示唆する。
窓から離れた穂村は部室として使っているメディア室の壁に貼り付けられた美少女ゲームやアニメの美少女キャラのポスターを子細に調べ、
「いや、このポスターの日焼け具合からして別の場所って線は薄いと思う。でも別の場所にこのポスターを張ったとしても……」
そういって少年は一枚のポスターを壁からはがす、そこには野球のボールほどの大きさのものが入りそうな穴が開いていた。
「優一とここでキャッチボールした時に俺が捕球をミスってできた壁の穴がある。ここまで教室を完全再現するとしたらその意味は何だ?」
他の三人に問いかける。
四人の間に沈黙が下りる。
それを振り切るように愛子が、
「きっと異世界転移だよ!学園ごと転移したんだよ!きっとそうだよ」
明るくそう切り出した。
三人はそろってため息をつくと、
「それは可能性として皆考えていたことだが、そんなことが起こり得るのか? そもそもなんで俺たちが学園ごと転移しなくちゃならんのか? そこら辺が分からんので誰も言わなかったんだぞ……」
優一がため息交じりにそう諭す。
誠が眼鏡をかけたり外したりしながら眼鏡を確認している。
「まずは異世界って可能性も考慮した上で対処を考えた方がよいのかもしれない。まぁバカ子の「バカ子言うなし」言うことに従うような感じなのは業腹だが……」
穂村が不承不といった感じで認めるところに愛子が突っ込みを入れつつ方向性を纏める。
「いや、異世界っていうのは案外間違いじゃないかもしれないぞ」
誠が唐突にだが確信をもってそう断言した。
「何かわかったのか誠?」
誠は誠実な性格で確実なことをいう人間だ、なのでこんな突拍子もないことを言うのなら何か理由があるはず。少なくとも穂村はそう思ってるしここにいる誠以外の三人もそういう認識である。
「さっきから俺の視界に皆のステータスらしきものが表示されてる。眼鏡に落書きでもされてるのかと思ったが外しても情報だけははっきり見える。異世界転移のチートかもしれん」
こともなげに爆弾発言を放り投げる。
「ステータス!? どんな感じだ?」
穂村が反射的に問う、
「俺も含めて全員高い方だと思う」
誠がそう返す。
「ステータスがあるんなら表示させる方法があるかもしれないな」
優一が思いついたようにそうこぼす。
「ステータス表示! でた!!」
その言葉に触発された愛子が奇行を始めるがそれが結果に直結した。
名前:秋山愛子
性別:女性
年齢:15歳
能力
武力:96
統率:94
知力:92
政治:43
魅力:98
交渉:97
技能
戦闘技能:格闘 2
魔術技能:
政治技能:
生産技能:
生活技能:料理 3、掃除 3、裁縫 4
回復技能:
異能
と目の前に淡い光を放つ厚さのない画面が表示される。
「能力表示! でるのか。自分のステータスを知りたいと思って声に出せば単語は何でもよいっぽいな」
穂村はそう呟く
名前:
性別:男性
年齢:15歳
能力
武力:100
統率:100
知力:98
政治:97
魅力:100
交渉:100
技能
戦闘技能:格闘 3
魔術技能:
政治技能:
生産技能:
生活技能:料理 2、掃除 3
回復技能:
異能
火之迦具土神の魂
別天津神の慈愛
月読命の加護
呪い
伊邪那岐の怒り
と近くの椅子を引き寄せ
「ステータス表示」
と口にする、
名前:椅子
年齢:3年
能力
耐久度:10
快適性:2
「無機物にもステータスはあるようだな」
驚いたように呟く。
「で『呪い』なんてのがある奴は他にいるか?」
逆境に慣れ過ぎているせいか特に慌てた様子もなく穂村が問う。
「見せた方が早いか……ステータスオープン」
呟きながら誠が能力値を開示し
名前:春川誠
性別:男性
年齢:15歳
能力
武力:96
統率:98
知力:100
政治:99
魅力:98
交渉:97
技能
戦闘技能:刀術 3
魔術技能:
政治技能:
生産技能:
生活技能:料理 1、掃除 2
回復技能:
異能
特技
鑑識
鑑定
「という感じで俺には呪いはない」
と言って優一にステータスを表示するよう促す
「能力表示」
優一が宣言する
名前:冬海優一
性別:男性
年齢:15歳
能力
武力:99
統率:99
知力:98
政治:100
魅力:98
交渉:99
技能
戦闘技能:格闘 3
魔術技能:
政治技能:
生産技能:
生活技能:料理 3、掃除 2、水泳4
回復技能:
異能
「吾輩にも呪いはないようだな」
気まずそうに言う。
「ここに四人いて複数の神の影響下にあるものが二人、特技を持っている者が一人……確実に言えることは結論を出すには母集団が小さすぎるということくらいか。誠の特技で能力の意味や異能の内容なんかはわからないか?」
穂村がそう水を向けるとしばらく試行錯誤した後
「わかる……と言っていいのかどうか微妙だが、説明のようなものは表示されるな」
誠がそう返すが、
「しかしこの世界の常識が前提のような説明文なので、正確に内容を把握できているか? という意味では怪しいかもしれない」
と続ける。
「ここが異世界だったとしたらすぐに帰れるかどうかも分からんか。水や食料の確保も必要だし、学園にある避難用の物資では心もとない……危険はあるが組織立って周囲を探索したほうがいいか」
穂村がそんなことを考えていると、
「穂村……」
誠が言い辛そうに声をかける。
「なんだ誠?」
穂村にとって誠は親友である。
愛子と優一も大事な友達ではあるが、誠は穂村が苦しんでいた時期に助けの手を差し出してくれた恩人でもある。
ゆえに、
「君が言うべきだと思った事なら何でも言ってくれ、言い淀む必要はないよ」
快活に笑ってそういうのだった。
それに勇気づけられたのか誠は息を整え、
「穂村のステータスにある呪いの効果なんだが……『何度生まれ変わっても父親に愛されず迫害される』効果があるらしい…」
申し訳なさげにそう話す。
それを聞いて一瞬真顔になった穂村は次第に納得したように表情を変えると、
「俺の家庭環境が酷かったのは、その呪いのせいなのか?」
思い出してフラッシュバックする幼い頃の辛い思い出を振り払うかのように頭を振るとそう呟く。
「それは分からん……ここが異世界だとしてこっちに来てついた呪いかもしれん。確かにお前が親から虐待を受けていたのは事実だ。それに継母ともうまくいってなくて、特待で入れる全寮制の学校を薦めたのは俺自身だ。あのまま実家に居たらお前はホノカグツチのようになっていたかもしれない……」
中学以前も一緒の学校で、家も近所であった穂村の悲惨な幼少期をここにいる他の三人の中で誠だけが知っている。
親に暴行されているところを通報したこともある。あれは躾けなどではなく完全に暴行であった。時には誠の家にかくまうこともあった。あの連中から穂村を助けるために親の伝手を使って新陰流の剣術を習い始めたのだ。子供の腕力と体格では大人に抗うことはできない、故に武器を使うという結論に幼児ながら至った誠は聡明である。穂村の父親は酔っ払って子どもを甚振る屑ではあったが親であることは事実で、中学の一時期見かねた誠は家族と相談し児童相談所を通して穂村を保護してもらっていたこともある。
幸い穂村の亡母の縁者に頼りになる親戚がいて全寮制の高校に入る支援をしてもらうことが出来た。それもこれも誠が穂村を助けようとしたことが切欠だ。
だからこそ穂村にとって誠は恩人であり無二の親友なのである。
それ故に、それだからこそここが異世界ならば穂村は誠を元の世界に送り返したいし、生き残らせるためならばどんな手段でも使うつもりでいる。
「じゃあ頼りになる先輩に『お願い』をしに行こうか」
異世界があるなら自分はそこで生きたいとかつての穂村は思っていた。それは現実逃避でしかなかったがこうして実現した以上親しい者達を無為に死なせるつもりはない。
だからこそ出来る事は全てやり使えるものは何でも使うつもりである。
穂村の異世界サバイバルが始まった。
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