第3話 シドウ

 XXXX年 X月 X日 晴天 武蔵総合学園 メディア室前廊下?



 メディア室を出た穂村達は廊下の窓から校庭を見下ろす。

「ぬかるんではいるが、晴れてるから校庭を使えなくはなさそうだ」

 穂村がそう呟くと、

「どこへ行くつもりだ?」

 誠が問いかける。


 穂村は人差し指を立て軽く顎に当てながら、

「まだ校内は静かなままだ。もし生徒や教員が一緒に転移してきているなら気を失ったままなんだろう。だがそれもすぐに状況が変わる。その時にパニックを起こしたり自暴自棄になられても困るから、生徒の代表に精神的支柱になってもらう必要がある。その人はまじめだから教室で授業を受けてたはずだ、だからそこへ行く」

 ウキウキとそう語る穂村に、

「鷺宮先輩に面倒を押し付けるということだな……」

 誠は頭を押さえて穂村のやることを見抜く。


「実際、従姉ねえさんは人望もあるし優秀だからね、勿論俺も手助けはするつもりだけど、下手に教員を当てにするより上策だとは思うんだよ」

 真面目な表情に改めて穂村が真意を語る。

「鷺宮先輩なら全学科に睨みも利くだろうから暴発する者が出る可能性も少ないだろうな」

 優一が支持するかのように言う。

「なら急ごうよ。皆起きた後だと面倒だし」

 愛子が急かすように催促し先導するように前に飛び出す。

「ああ、確かにそうだな」

 穂村はそれを認めると歩みを早めるのであった。



 XXXX年 X月 X日 晴天 武蔵総合学園 2年S組



 武蔵総合学園の普通科は、1年次の成績を参考に2年次より成績優秀者の中から希望者をS組として編制する。2年次以降3年1学期末までの定期試験で、上位40名に入れなかったものは資格なしとされ13組と19組を除くどこかのクラスに再編入される。代わりに上位35名に入った者の内希望者が新たなS組の生徒として迎え入れられる。

 過酷な生き残り競争を繰り返すのである。

 S組の生徒数は35名なので5人までなら負けていいというシステムは学校側の恩情である。

 誰にでもチャンスはあるが幸運の女神の前髪はとても短い。

 だがS組に3年生1学期末まで在籍できていれば就職も進学にも破格に有利になるのでこの過酷な競争に参加したがる普通科生徒はかなり多いのだ。

 例外は文系の13組と理系の19組で文系理系でそれぞれ最後の数字を背負う両クラスは成績を追うより自身の好きなことや自由を望んだもので編制される。

 特進クラスに対しこの二組は進撃クラスとも呼ばれている。

 特進クラスであるS組は文系科目と理系科目の選択制で同じクラスでもすべての授業が一緒というわけではない。

 だが同学年の成績優秀者が35人集まっている訳で、毎年雰囲気はギスギスしているらしいのだが、今年は1年次から生徒会長として人望厚い鷺宮生徒会長がクラスの雰囲気をかなりマイルドにしているらしい。


 先ほどまでの授業は共通の科目だったらしく全員が席にいる教室に穂村達は音を立てないよう気を付けてドアを開け、入室する。


 教卓に縋りつくように教員が意識を失って倒れこんでいる。生徒たちも机に突っ伏すように気を失っている中、日の光を反射して銀色に輝く長髪の少女が教室の窓際で机に突っ伏している。

 校内の男子生徒から神の乳とあがめられている胸がその質量を誇るかのように潰れて制服を限界まで引っ張っている。


 教卓辺りに誠たちが止まると、静かに音を立てず穂村は銀髪の少女の元へ向かう。


 少女の席に近寄ると穂村は彼女の耳元に顔を近づけ、

従姉ねえさん、起きてください。朝ですよ」

 と彼女を起こす。


 声をかけられた少女は反射のように、

「う~んほっくんおはよう。いつもありがとねぇ」

 眠そうな声でそう返しながら身を起こす。


「あれぇ? 学校? わたし学校で寝ちゃったんだ?」

 瞼をこすり眠たげに少女がそういうと

従姉ねえさん、その件も含めて話があります教室の外に一緒に来てください」

 穂村が促す。

「よくわかんないけど分かったぁ」

 まどろみの中にまだいるのであろう少女が頷くと立ち上がり、

 教室の後ろ出口を目指す穂村についていく。


 彼女が付いてくることを確認した穂村は、手振りで誠たちにも教室を出るよう促す。


 彼女を引き連れて洗い場で顔を洗わせる。貯水槽に貯めた貴重な水でようやく意識が覚醒したのか美麗な顔立ちにに穏やかな笑みを浮かべ、鳶色の瞳を煌めかせると窓の外を一瞥し、

「何か凄いことになってる気がするんだけど」

 と呟く。

「そうなんです従姉さん! それとこれからやることを見ても声を出さないでください」

 そう前置きすると穂村は

「ステータスオープン」

 従姉に自らのステータスを表示して見せる。


「!!」

 鷺宮先輩は声こそ出さなかったものの吃驚したようである。


「周囲の風景やこの仕組みを含めて俺たちは学園ごとどこかに転移したかもしれないと考えてます」

 穂村が厳かにそう告げる。

「先輩、自分の能力を確認したいと思って『ステータス』を含む言葉を発してください。それで自分のステータスを確認できます」

 誠が説明を加える。

 彼女はしばらく躊躇った後

「ステータス表示」

 と発した。


 名前:鷺宮クラーラ


 性別:女性


 年齢:18歳


 能力

 武力:68

 統率:94

 知力:99

 政治:100

 魅力:99

 交渉:100


 技能

 戦闘技能:

 魔術技能:

 政治技能:

 生産技能:

 生活技能:料理 3、掃除 2、演説 5、書類作成 3、書類整理 3

 回復技能:


 異能

 大国主神おおくにぬしのかみの加護



「スキルがすごいことになってるな」

 優一が感嘆を込めて呟く。

「どうやら技能は特に秀でていることが数値化されているようだな」

 誠がそう分析する。

「それでわたしの能力はどうなんですか?」

 好奇心に負けた様子でクラーラが問う。


「参考は俺たちの分しかありませんが、武力以外は極めて高いと思います」

 そう穂村が返すと目線で三人を促す。

「「「ステータス」表示」オープン」

 クラーラは三人のステータスを確認すると、

「皆さん高い数値なのですね……」

 そうこぼす。


「それで従姉さん、生徒たちが目を覚まして混乱が起きる前に、学園を掌握しようと思うんです」

 穂村がこともなげに言うが一生徒がそんな大それたことを通常ならできるはずがない。

 だが今は通常とはかけ離れた状態である。

 そこで数瞬考えた後、

「良いでしょう。生徒会長として第一校庭に全学科、全学年の生徒と教員を集め。安否確認をしましょう。それでそのあとはどうするの?」

 クラーラが穂村の考えに乗ってくると、

「普通科は各学年男女二名ずつ、その他の学科は各学科各学年ごとに男女一名ずつの代表者を選出してもらい、明日の朝から代表者と生徒会それと教員代表による代表者会議を開きます。そこで周辺探索の班編成を行い、周辺の探索とこの周辺の水と植物を利用できるかの確認、出来るようなら狩猟のための道具作り、それまでに戻れないなら農業科による稲作も視野に入れるべきでしょう」

 穂村は一気に構想を語る。

 それに気圧されながらクラーラは、

「まずはそれでいいでしょう明日には戻ってる可能性もない訳ではないし……それで明日まで、いえしばらくの水と食料はどうするの?」

 と目先の問題を指摘する。

「まずは学園長に掛け合って災害避難時の水と食料を供出させましょう。今夜の食事分から配給を行います。食事をとるときは全員のいる所で食事をする、これを徹底します。それなら水と食料をカツアゲする馬鹿者を牽制できるかと。それと柔道部と剣道部等武術系の部活には安否確認の後に残ってもらって、水と食料など物資の警護をしてもらいます。各部ごとではなく、各部から常に最低一人は人員を出す形で結託せず相互に睨みを利かせながら交代で24時間警備してもらうのがいいでしょう。警備についた報酬として多少の付け届けを与えればわざわざ横領することはないでしょうが保険は何重にもかけておくに越したことはないので。当面はこういう段取りでやっていくのがいいと思いますす。配給は生徒会が主導する形で有志の協力を得てやるといいでしょう。その後は探索と転移の影響次第ですね」

 穂村はそう提案する。


 これは以前穂村が実家で虐待されていた頃、異世界に転移出来たらと現実逃避していた時に考えていたことの応用である。


「ほっくんは治世の昼行燈、有事の英雄だねぇ」

 従弟に向かって呆れとも感嘆ともつかない誉め言葉で称える。


「時間は限られています、急いで行動しましょう」

 穂村は従姉をそう急かす。

「わかったわ、まずは放送室ね」

 麗しの従姉殿がそう返す。


 五人は今後の方針の詳細を詰めなおしながら放送室へと向かうのであった。

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