第13話 右隣りのあなたへ

なっちゃんと約束した勉強会当日。

学校を出た僕は約束をした駄菓子屋に来ていた。

店舗正面はシャッターが下りたままなので、僕は住居スペースがある裏庭にまわった。

そして、裏庭の垣根から庭を覗き込むと縁側になっちゃんが座っていた。

なっちゃんは僕に気が付くと声を掛けてきてくれた。


「あ、ふゆ君。こっちだよ!」

「あぁ今行くよ」


そう言って僕に笑顔で手を振るなっちゃん。

学校から一緒に行くのかと思ってたんだけど、掃除したいから先に行ってるねと授業が終わると同時になっちゃんは駄菓子屋へと向かってしまった。

"掃除くらい僕も手伝ったのにな"と思いつつなっちゃんが座る縁側へと向かう。

学校帰りということもあり僕もなっちゃんも今日は制服姿だ。


裏庭に面した縁側の先にある和室には、なっちゃんが用意しておいてくれた座卓があり、その上には麦茶が置かれていた。

少し埃っぽい感じはしたけど、なっちゃんが時々掃除に来ていたらしいので部屋は思ったよりも綺麗だった。

ただ、昔ながらの家具と止まったままの時計を見ると何だかこの部屋だけは時間が止まってしまっているかの様にも見えた。


「じゃ早速だけどはじめようか」

「うん。今日はよろしくね♪」


僕が置いてあった座布団に座り教科書とノートを広げると、なっちゃんも僕の"隣"に座りノートを広げ勉強を始めた。

距離・・・近くないか?


梅雨も明けた初夏の夕方。

静かな部屋にセミの鳴き声だけが響く。

なんだろう・・・この部屋落ち着くな。部屋の雰囲気のせいかな。


「あ、あのふゆくん?こ この数学の問題なんだけど・・・」

「え?あ、あぁこれは・・・」


今日のなっちゃん少し様子が変だよな。

お互いちゃんと勉強はしてるし、教え合ったりして捗ってはいると思うんだけど・・・距離感もいつもより近いし会話もぎこちない感じがする。

僕は思い切って聞いてみた。


「なっちゃん」

「ひゃ ひゃい」

「今日のなっちゃん何だか変だよ?どうかしたの?」

「そ そうかな?ふ ふつうだよ」

「・・・・やっぱり2人きりっていうのが・・・図書室の方が良かったんじゃ」

「ソ ソンナコトナイヨ」


いやいや・・・明らかにいつものなっちゃんじゃないだろ。

前に男性と話をするのが苦手とは言ってたけど僕だって男だ。

この間ここで再会したときは2人ともテンション高めだったから平気だったかもしれないけど、教室や図書室ならまだしも2人きりになれば緊張もするだろうし・・・


「でも・・・・」

「ふゆくんは・・・ふゆくんは私と2人きりは嫌なの?」

「え? そんなことないよ」

「わ わたしは・・・ふゆくんと2人きりで勉強会がしたかったの!」

「え?僕と?」

「・・・・三田さんに告白されたんでしょ?」

「え?なんでそれを?」


何でなっちゃんがそのこと知ってるんだ?

このことは博也くらいにしか話してないけど、あいつがなっちゃんに話すとは思えないしな・・・もしかして三田さんが自分で?


「断ったとは聞いたけど・・・折角昔みたいにお話しできるようになったのに・・・私は・・・もっとふゆくんと一緒に居たい!」


となっちゃんは立ち上がり僕に抱き着いてきた。


「あ・・・・」

「私もふゆくんの事が好き」

「なっちゃん・・・・」

「私は・・・ふゆくんの事を裏切ったりしないよ。ずっと一緒にいるよ。

 だから・・・」


そう言って僕の胸に顔を埋めるなっちゃん。

耳まで真っ赤になってる。

・・・頑張って告白してくれたんだな。


何だか情けないな僕は、三田さんやなっちゃんに告白までさせて・・・僕に好意を持ってくれてたのはわかっていたのに。

確かに中学の時のことは辛く嫌な思い出だけどいい思い出だってあったはずだ。

人嫌いだなんて言いつつも良くしてくれる博也とは付き合いを続けてる。

本当ただの言い訳だよな。

拒絶されることから逃げてただけだ。


「なっちゃん・・・ありがとう」

「ふゆくん?」

「人嫌いとか人間不信とか、僕は結局人に裏切られるのが怖かっただけなんだ。こんな僕でもなっちゃんは好きになってくれるの?」


僕が問いかけるとなっちゃんは涙ぐみながら顔を上げ頷いてくれた。


「ありがとう。僕もなっちゃんの事が好きだ。

 なっちゃん僕と付き合ってくれないか?」

「・・・・はい・・・喜んで」


それだけ言うとなっちゃんは再び僕の胸に顔を埋めてしまった。

僕の背中に回されたなっちゃんの手に力が入る。

そんななっちゃんの背中に僕も手を回しそっと抱きしめた。



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結局この日は、お互い勉強に手がつかず会は終了。

お互いさっきまでの事を思い出すと恥ずかしくなってしまい、無言のまま駄菓子屋の戸締りを行い帰路についた。


「あ あの・・・ふゆくん今日はありがとう。私・・ふゆくんの気持ちを聞けて凄く嬉しかった」

「僕の方こそ。そういえばこれからは僕達友達じゃなくて恋人同士なんだよね」

「そ そうだね恋人同士・・・私ふゆくんの彼女なんだね」


生徒会長として全校生徒の前で話をしたりする凛々しいなっちゃんとのギャップが激しい・・・何だか可愛いな。

でも、もしかしたらこれが本来のなっちゃんの姿なのかもな。人見知りをなおすために頑張ってるって言ってたし。


「なっちゃん。僕の前では変に頑張らなくてもいいんだからね」

「うん。ありがとうふゆくん。

 あ、今日はその・・あんまり勉強進まなかったしまた今度勉強会しようね♪」

「もちろん!」

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