エピローグ
「初めまして横川出版の渋沢です。今日はよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
高校を卒業してから約6年の月日が流れていた。
今僕は"駄菓子のコンドウ"再開に伴う地元タウン誌のインタビューを受けている。
「それにしてもこのお店が再開するとは思いませんでしたよ。堀内さんに紹介いただいたときは驚きました。僕もこの町の出身で小さい頃よくお世話になってたので」
「そうなんですか!ここは僕と妻にとっても思い出の店だったんです。だから是非再開させたくて・・・
実は妻は当時お店をやっていたおばあさんのお孫さんなんです」
「え!そうなんですか?じゃあもしかして奥様って近藤生徒会長?」
「生徒会長って・・・もしかして渋沢さんは川野辺高校出身なんですか?」
「はい。僕が入学した年の生徒会長が近藤先輩で。凛々しいというか凄く綺麗な方で学年でも有名だったんです」
「はは それはありがとうございます。妻も喜びますよ。
実は僕も卒業生で妻とはクラスメイトだったんです。本当は今日一緒に取材を受ける予定だったんですが、どうしても外せない用事が入りまして。もうそろそろ帰ってくるとは思うんですが・・・」
大学を卒業して2年。僕らは結婚した。
僕と夏希が出会った"駄菓子のコンドウ"は僕らが高校生当時、老朽化も進んでいたし不用心だからということで近いうちに取り壊しが予定されていたんだけど、夏希の両親を説得し取り壊しは行わず一部耐震などをリフォームして残すことになった。
ちなみに最初は僕が賃貸で住むということで取り壊しを中止するよう話をしていたんだけど・・・賃貸のご挨拶で夏希の家に僕が行った際に夏希が"私も一緒に住む"って言い出したんだよね。
あの時は嬉しい反面驚いた(僕も聞いてなかった)
結局話し合いの末、大学を卒業したら結婚して2人の新居にするということで夏希のご両親を説得した。
今思うと凄いことしたよな。
いつの間にか結婚のご挨拶というか夏希ご両親に結婚宣言してたんだから・・・
でも普段、おとなしい夏希の頼み事ということと、うちの両親もリフォーム費用を協力すると言ってくれたもあり夏希のご両親も最終的には許してくれた。
まぁいきなり娘に結婚とか新居とか言われてお義父さんは渋いというか寂しそうな顔してたけどね。
大学卒業後、いったん2人とも就職し社会を学び、お互いの生活が安定したところで結婚した。
そして、結婚に合わせ夏希は勤めていた会社を退職し駄菓子屋を再開した。
ただ、今の時代駄菓子屋だけで店を運営していくことは難しく、色々と検討を重ねネットを利用した通販や店の一部をレンタルブースとして提供しハンドメイドの雑貨や衣類の委託販売店も始めた。
もちろん僕も仕事が休みの時は駄菓子屋やサイトの運営を手伝った。
同じような業種の店が近くにないことも手伝い、リニューアルオープン後の売り上げは好調で、駄菓子目当ての小学生や中学生だけでなく、雑貨や衣類を目当てとした女子高生や大学生など幅広い年齢層に受け入れられることになった。
近くに川野小、川野中、それに川野辺高校や森下学園、川野辺大学と学校が多くあるので学生が多いのも強みだったのかもしれない。
ネット利用に関しては、店の運営のノウハウを活かし川野辺商店街全体のマネージメントも請け負い商店街のホームページを作成するなど夫婦揃って積極的に活動もおこなった。
僕も夏希も川野辺の町が大好きだし活性化してもらいたいからね。
ちなみに同じような思いで頑張っている商店街組合の理事の堀内も僕らの同級生だ。高校時代はそこまで仲が良かったわけでもないけど今では同じ商店街で働く同士として夏希や博也含め時々飲みに行ったりする間柄だ。
あ、博也の実家は商店街でスポーツ用品店を営んでいたりする。
博也と言えば、高校卒業後に三田さんと正式に付き合う事になったとの事だ。
大学は僕や夏希と別になったけど2人は同じ大学に通い、就職した今も付き合いは続いているとの事。
僕達の結婚式にも2人揃って招待したけど、近いうちに今度は2人の式に招待されるかのかもな。
などと色々と思い出しながらインタビューを受けているとお店の引き戸が開き夏希が帰ってきた。
「ただいま 冬彦さん!!!聞いて!聞いて!女の子だって!順調だって!!」
「なに!本当か!そうかぁ~女の子かぁ~名前何がいいかな~」
「もう!冬彦さんったら。後で一緒に考えましょ♡」
「あの~ 取り込み中のところ申し訳ないのですが・・・取材の方あと少しだけご協力を・・・」
「「あっ!!」」
「す すみません。お騒がせしてしまい。あ、妻の夏希です」
「あ あのお見苦しいところを。内村 夏希です」
「いえいえ。こちらこそお忙しいところ・・・
お子様が生まれるんですね。おめでとうございます」
「ありがとうございます。僕も夏希も子供が大好きなので楽しみで♪」
その後、夏希も加える形で現在のお店の状況や夏希のお祖母さんが経営していた頃の話など含め取材を行った。
「今日はありがとうございました。いい記事が書けそうです。
出来上がったらサンプルをお持ちしますので、またよろしくお願いします」
「ええ、楽しみにしてます」
「でも本当お2人は仲が良さそうで・・何だか僕も結婚したくなってきちゃいましたよ」
「・・・失礼ですがそう思うお相手が?」
「実は僕も川野辺高校時代のクラスメイトと付き合ってまして・・・」
「あら、それは元生徒会長として是非お話を聞きたいわね~」
「はは 逆に取材されちゃいそうですね。じゃその話は今度サンプルをお持ちした際にでも」
「楽しみにしてるよ。じゃぁ今日はありがとう」
クラスメイトか・・・・
僕も夏希もそんな時代があったんだよな。
「渋沢さんも同級生の彼女さんと上手くいくといいね♪」
「・・・・大丈夫じゃないかな」
「どうして?」
「人見知りだった僕たちが上手くいったんだしね。彼コミュ力高そうだし」
「それもそうね♪あ、夕飯何か食べたいものある?買い物行ってくるよ」
「・・・久しぶりに今日は何処か外食でも行くか?今から作るの大変だろ?」
「え?いいの?じゃお言葉に甘えちゃおうかな」
「甘えてくださいな。可愛い僕の奥様」
「も もう!そういうの照れる!!」
僕は今幸せだ。
高校生活の最後の年に"なっちゃん"と再会しお互いの想いを告げることが出来た。そして博也や三田さんのおかげもあり友達も増え僕の人生は大きく変わった。
多分あのままな"なっちゃん"と再会し付き合うことになっていなければ、今でも僕は1人きりで・・・つまらない大人になっていたと思う。
人との出会いや繋がりは大切だ。
人は1人では生きていけないのだから・・・・
「ねぇ早く行こうよ!実はお腹空いてたんだ。 ふ・ゆ・く・ん」
*********************
あとがき
お読みいただき本当にありがとうございました。
このエピローグにて「左の席のあの子は僕の事が好きらしい。でも僕は右の席の子が気になるんだけど。」は完結となります。
後半はもう少し話を広げて書くことも出来たのですが、結構悩みながら書いていたこともあり終了とさせていただきました。
今のところアフターストーリーの予定もないのでタグも"完結"としています。
半ば思い付きで書き始めましたが、他の作品と関係性を持ちつつも少し違った感じの話にはなったんじゃないかとは思っています。
他の作品も引き続きよろしくお願いします。
左の席のあの子は僕の事が好きらしい。でも僕は右の席の子が気になるんだけど。 ひろきち @hiro_1974
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます