第5話 腐れ縁の親友と
6月も終わりに近づいた金曜の放課後。
珍しく博也から一緒に帰ろうとのお誘いがあった。
今日は部活が休みらしくたまには僕と親睦を深めたいとの事。
家も近所だし小学校の頃とかは良く一緒に帰ってたけど、言われてみると最近はあんまり一緒に帰ったことなかったよな。
帰宅部の僕と違って博也はサッカー部で忙しいし。
ということで今日は新田博也という学年カースト上位のモテキャラ男と一緒に下校しているわけなんだが・・・こいつ校舎を出るまでに何人の生徒から声掛けられるんだ。同級生だけじゃなく下級生含め男女問わず挨拶されたり話しかけられてるし・・・僕みたいに一人で静かに校舎を出れないのかよ。
あ、好きでボッチしてるんだし僻んでるわけじゃないから・・・いやほんと。
そして、ようやく校舎を出て住宅街を歩いていると博也がそれまでとは違って急に真面目な顔で話しかけてきた。
「なぁ冬彦」
「なんだ?急に真面目な顔して」
「この間、三田の相談に乗ってあげたんだってな」
「三田さん?あぁ部活の後輩の事かな?お節介かと思ったけど朝からちょっと思いつめた顔してたからな」
「・・・・アドバイスの通りに動いたら相手の子も喜んでくれたらしくてな。
三田も嬉しそうにしてたよ」
「そっか。よかったなほんと」
本当良かった。三田さんは笑顔の方が似合うからな。
あんな辛そうな顔してるところは見たくない。
「・・・・」
「どうかしたのか?」
「いや。お前って高校に入ってからあんまり人と関わり持たなくなったけど相変わらずいい奴だなって思ってな」
「真顔で言うなよ。でもまぁ最近は誰にでも親切にしてるわけでもないし、そんないい奴じゃないさ」
「誰にでも・・・か」
今日はどうしたんだ?さっきから何か変だな。
いつもの明るい雰囲気じゃないし。
「三田だったから相談にのったのか?」
「・・・う~ん。どうなんだろう。三田さんの辛そうな顔見てたら自然に話聞いちゃってたんだよな。隣の席だし気になったからな」
「そっか・・・・お前さ三田の事好きなのか?」
「僕が三田さんを?どうしたんだよ急に」
「・・・俺さ・・・・三田の事が好きなんだ」
「は?え?なんだよ?お前が?何で急に?」
いきなり何カミングアウトしてんだよ。
確かに博也って三田さんと一緒に居ること多いけどさ。
そんな素振りあったか?
「急じゃないさ。前から好きだった。
でも三田はお前に好意を持ってたし中々言い出しにくくてな。ただ、冬彦が三田の相談にのってあげた件であいつ益々お前に興味を持つようになっちまってな。多分このままいくとお前に告白すると思う。だからその前の俺は三田に告白するつもりだ」
「三田さんに告白・・・」
博也のやつ本気なんだな。
博也が告白された話はよく聞くけど告白したって話は聞いたことないし長年親友やってるけど、こいつが彼女作ったとか言う話も聞いたことがない。
「あぁだから聞きたいんだ。お前は三田のことをどう思ってるんだ?」
「どうって・・・僕だって三田さんが自分に好意は持ってくれてるんだろうなってことくらいはわかってるしその想い自体は嬉しいさ。
ただ、正直恋愛とかする気は・・・お前だって知ってるだろ?」
「・・・結婚の約束をした"なっちゃん"か?でも小さい頃の約束だし再会できるかもわからないんだろ?」
「・・・そうだな。まぁ体のいい断る言い訳なのかもしれないけど。中学の時に色々あったし人を本気で信じられなくなってるのかもな。だから三田さんも近藤さんも友達にはなりたいって気持ちはあるけどそれ以上は・・・」
「三田も近藤もそうは思ってなんだろうけどな。
冬彦の気持ちはわかったよ。悪かったな変な事聞いて」
「いや。それよりも告白頑張れよな」
「あぁ」
多分、博也の事だから今までは僕に遠慮してたんだろうな。
博也と三田さんならお似合いだと思うけど・・・
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博也と別れた僕は昔なっちゃんと遊んだ駄菓子屋に向かって歩いていた。
家からは少し離れているので最近は行ってなかったけど、さっき博也と話をしたせいか自然と足が向いてしまった。
「ここも閉店してずいぶん経つよな」
シャッターが閉まったままの駄菓子屋。
裏手の居住スペースの庭で僕はなっちゃんと出会った。
小さい頃の僕は良く町の中を探検していた。
といってもそれほど家から遠くまで行っていたわけではないけどね。
近所を自分達だけで歩きまわるだけでも小学校入学前の小さな僕達からしたら大冒険だった。
あの日、僕はいつもより少し遠くまで歩きこの駄菓子屋にたどり着いた。
そして、前を通り過ぎようとしたところで路地裏から女の子の声が聞こえたんだ。
僕は何となく声に引き寄せられ路地裏に向かうと裏庭で可愛い女の子が1人でお人形遊びをしていた。楽しそうにはしているけど何処か寂しそうでもあった。
そして、知らず知らずのうちに僕は声を掛けていた。
「一緒に遊ぼ!」
女の子には"寂しくなんかない!"と拒絶されてしまったけど、僕は諦めずに毎日の様に通って女の子に声を掛けた。
そして、いつの間には庭の中に入り女の子と一緒に遊ぶようになった。
女の子は自分の事を"なっちゃん"と言い僕の事を"ふゆくん"と呼んでくれた。
幼稚園に行けば友達も沢山いたけど、なっちゃんと居ると何だか幸せな気持ちになれたし特別な存在に思えていた。
そして"大きくなったらふゆくんのお嫁さんになるの"と言われ、僕も"なっちゃんをお嫁さんにする"とか今考えると赤面しちゃいそうな約束もしていた。
でも・・・なっちゃんはある日突然いなくなってしまった。
僕は何か嫌われるようなことをしちゃったのかなとか不安な思いを持ちながらもしばらくの間は毎日駄菓子屋に通った。
でも駄菓子屋もシャッターは閉まったままでなっちゃんにも会えなかった。
そして、次第に駄菓子屋へ行くこともなくなっていった・・・
今思えば駄菓子屋のおばあさんのお孫さんとかだったんだろうな。
おばあさんも歳だったし体を壊してしまったからこのお店にも来なくなったってところだろうか。
そんなことを思いながらかつて毎日の様に通った路地裏に行くと空き家のはずの庭の縁側に女の人が腰かけていた。
その姿に僕はかつて一緒に遊んだ懐かしい女の子を重ねた。
「もしかしてなっちゃん?」
「うそ!内村君?」
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