第4話 僕とお隣さん

「おはよう 近藤さん!」

「おはよ」


いつも僕は授業の予習をする為、少し早めに登校していた。

去年までのクラスでは教室には当然のことながら誰も居なかった。

誰も居ない教室って何だか落ち着くし集中できるんだよな。


でも・・・・今は僕よりも早い時間に来ている人がいる。

近藤さんだ。

近藤さんも僕と同じく早く登校し予習をしたり本を読んだりしている。


最初の内は自分以外の人が居る教室に少し戸惑ったけど、今は慣れたし何となくだけど近藤さんとも少しは仲良くなれている気がしている。

だって、最初の内は挨拶しても会釈位しかしてくれなかったのに最近はちゃんと声に出して挨拶を返してくれるし・・・僕の気のせいかもしれないけど少し微笑んでくれているような気もする。


なんにしても近藤さんとはもう少し仲良くなりたいな。

ん?今日は予習じゃなくて本読んでるんだな。

僕は思い切って聞いてみるか。


「近藤さんって普段どんな本読んでるんですか?」

「・・・・・」


・・・失敗したかな。

反応無いし近藤さんって男子とは挨拶や必要最低限の事務的な会話以外してるのを見たことないし、そもそもあんまり自分の趣味とか話したがらないタイプなのかもしれないし・・・


「・・・・・あっゴメン。言いたくなければ別に」

「・・・ラノベの恋愛作品とか・・・よく読んで・・・ます」


え?返事してくれた?

それにラノベ?

消え入りそうな小さな声だったけど、確かに近藤さんは僕に向けて話しかけてくれた。


「え、あ、そ そうなんだ。ラノベとか恋愛作品とか意外だな。僕も本が好きで時々読んだりしてるよ」

「・・・・・そう」


か 会話が続かない・・・・

でも、返事をしてくれたってことは少しは僕の事を特別扱いしてくれてるって事なのかな?


その後も途切れ途切れではあったけど近藤さんと話をすることが出来た。

近藤さんが読んだという本の中には僕も知っているメジャーな作品もあり共通の話題を持つことも出来たし、近藤さんお勧めの作品も今度貸して貰えることにもなった。

本の貸し借りとかもう友達になれたとか思っていいんじゃないのか?



徐々に教室に生徒が増えてきたところで会話は終了となり、お互い日課となっている授業の予習に取り掛かった。


そして、始業時間も近くなってきたところで三田さんが登校してきた。


「おはよ・・」

「あっ おはよう三田さん」


いつもだったら"おっはよ~"とか言って笑顔で挨拶してくる三田さんが今日はやけに元気がない。それに普段はもっと早くに登校してくるよな。

どうしたんだろ?


「元気なさそうだけど何かあったの?」

「う うん・・・ちょっとね」

「役に立たないかもしれないけど良かったら相談に乗るよ?」

「え?本当に・・・でも・・・悪いよ」


一瞬嬉しそうな顔をした三田さんだったけど、すぐまた暗い表情に戻ってしまった。そんなに深刻な問題なのかな?


「遠慮しなくてもいいよ」

「うん。ありがとう。実はね・・・」


三田さんによると先週末テニス部の1年の間で揉め事があったとの事だ。

多分、2年の渋川さんが三田さんを呼びに来た件だよな。


渋川さんと現場に駆け付け被害者と思われる部員の話を聞いて、三田さんが部長として加害者の子に注意をしたらしいんだけど・・・・後から他の部員の証言があり実は被害者と加害者が逆だったことが分かったらしい。

注意を受けた子は部活を辞めると言って部室を出て行ってしまっていたらしく

翌日謝罪をして和解はしたものの結局その子は部には戻らず退部してしまったとの事。


「私がきちんと双方の話を聞いて注意していれば彼女も部活を辞めることは無かったのよね」

「でも、話に聞いた状況じゃ間違えても仕方なかったんじゃ」

「そうかもしれないけど彼女まだ1年生なんだよ?

 入部してまだそんな経ってないし麻友に聞いた限り素質もあったみたいなんだ・・・それなのに私が彼女の活躍できる場を・・将来を奪ってしまったんだよ・・・」


失礼ながら僕は三田さんの事をもっと軽い感じの子だと思ってた。

でも・・・自分の発言に責任を感じてたり、部員の将来を考えてあげてるなんて凄く真面目な子なんだな。


「謝罪して和解出来たんならその子も三田さんの気持ちはわかってくれてると思うよ。それにその子もテニスを完全に辞めるわけじゃないんだろ?」

「うん。麻友のお父さんが経営しているテニス倶楽部に入るみたい」


麻友って渋川さんのことだよな。

・・・テニス倶楽部経営とか本当にお嬢様かよ!


「じゃあさ、三田さんも時々練習を見てあげるとかすればいいんじゃないかな?その子だって上手くなりたいだろうし三田さんなら指導とかも出来るだろ?」

「・・・私も大会でそれなりに成績は残してるから出来るとは思うけど・・・」

「高校の部活だけでしかスポーツが出来ないわけじゃないんだし、それで十分だと思うし、その子にも三田さんの想いは伝わるんじゃないかなと思うよ」

「・・・・・ありがとう。話聞いてもらって少し気持ちが楽になった気がする。練習見てあげる話は麻友にも相談してみるね」

「あぁそれが良いよ」


そうだよ。

部長だからって何でも背負うことは無いし誰だって間違いはあるんだ。


「優しいんだね 冬彦は・・・」

「え?何か言った」

「な 何でもない。あ、先生来たよ」


今日は三田さんの普段とは違う一面を見た気がするな。

近藤さんとも色々と話したし・・・何だか今日は朝から色々あったな。

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