第7章‐17 夏季限定アフォガード事件
しほりん母との電話は俺にかなりの情報をもたらした。そしてほとんど想像でしかなかった自分の予測の裏付けに、さらにはこれまで思ってもみなかった憶測へとつながってしまったのだった。しかし、そうなると辻褄があってしまうのだ。
そしてそれが本当なのかどうか確かめる時間が来てしまった。知りたくない真実を暴こうとしている怖さと、それを前にして高揚感を感じている自分がいる、そのことが怖い。だが今更退き返すことはできない。
「誰から聞いた……?」
「それくらいHPとか色々調べれば誰でもわかることではないでしょうか」
「ふん。まあいい。それで、だから何だという……」
「でも第一志望の大学は……」
「は?」
しほりん父が立ち上がって、椅子が大きな音を立てた。
「東大……だったんですよね?」
「貴様……」
東大。帝東大学。旧帝大の中で最も早く創立された言わずと知れた日本の最高学府。西の左京大学とともに、東の東大、西の京大と言われ、医学部や地元の国公立志向が強まりつつある中でも、進学ランキングの指標の一番最初はもちろん東大。やはりまだまだ東大の合格者数はモノを言うのだろう。これまでに多くの学者政治家実業家日本の経済界を支える人材を輩出し続ける、名実ともに超名門国立大学である。
いつの間にか自分が立ち上がっていたのに気づいたのか、はっと我に返ったのか、しほりん父が椅子に座りなおす。
「そのことを知っているのは……しほり、いやまさか?」
「そんなの誰だっていいじゃないですか?」
別に「自分がばらしたと言ってもいいわよ」としほりん母には了承を貰ってはいるが、できればあまりご迷惑はおかけしたくないのでできるだけしらばっくれる方向で動く。
「……妻だな。まったく余計なことを喋ってくれたな……くそっ、帰ったらなんて文句を言ってやろうか……」
すいませんお母様。やっぱり隠し通すわけにはいきませんでした。
「でもあと何点か足りなくてぎりぎりでダメだったこと、そして家が浪人は許してくれなかったこと、なども聞いています。そしてそこからのご活躍は言うまでもない……」
「まあ今となっては慶大でよかったと思っている。東大は別に事業を興して広げてというのにとりたてて有利というわけではないしな。で、だから、何だというのだ? ここまで人の過去を漁っておいて何もない訳ではあるまいな」
「お父さんは、その自らが叶えられなかった夢を、娘に託したいと思っているのではありませんか?」
「……それも妻から聞いたのか?」
「しほりさんが小さな頃に「お父さんの代わりに私が東大に行く」って言っていたとお聞きしました」
「はぁ……まったく、一体いつの話だ。娘がまだ幼稚園とかの時の話だ。もうしほりは忘れてしまっているよ」
「でも、お父さんは、覚えていましたよね」
「……」
忘れられないだろう。まだ小さな娘が自分の叶えられなかった夢を代わりに追いかけてくれる。そんなの嬉しいに決まっているだろう、それ位の想像は容易にできる。幼稚園児の戯言……本気じゃないって頭ではわかっていても、
「ずっと考えていたんです……なぜお父さんはテストで何番以内なんて条件を出したのか……今回も結局条件は無視してしまっている、じゃあなぜそうしたのか? 単純にしほりさんに諦めさせるため、ではないですよね? あんな条件を出したらしほりさんはそれこそ死に物狂いで頑張る、それがずっと娘を見続けてきたお父さんならわかっていたはずです」
「……」
「だからそれを利用した」
「…………利用だなんて人聞きの悪い……」
「つまりこうですよね? 今までにないくらい必死に勉強させて、成績を上げさせて、それをきっかけにしほりさんが勉強に真剣に向かうように仕向けたかったんですよね」
「……っ」
もしかしたら東大、とまでは思ってなかったのかもしれない。
しかしひどいのはここからだ。
「そして順位がクリアできなかったことで約束通りアイドルを諦めさせ、しかし成績が伸びたことで娘さんに”頑張ったらいい成績がとれる”という成功体験を植え付け、勉強への自信をつけさせ、アイドル引退後は勉強に打ち込むように誘導するという狙いがあった」
「……君は、一体どこまで……?」
しほりん父はそれきり黙り込んでしまった。
「これが、自分なりの今回の一連の出来事への憶測なのですが……これで、合ってますか……?」
沈黙の時間が続く。自分としてはある程度の確信あっての発言だったが……
この無言が何よりの肯定だろう。
「……すごいな」
ゆっくりと開かれる口。その声にさっきまでの覇気は感じられない。正直かなり失礼なことをしていると改めて自覚させられてしまう。弱弱しいしほり父の姿を見て、もっと他に方法はあったのでは? という気にもなってくる。ただ今はしほりんのことを第一に考えなくては、その一点だけが、俺が今守るべきこと。
「で、何が目的だ? 今の話をしほりにもするのか?」
「そんなつもりは毛頭ありません」
「じゃあ何を……」
「最初に言ったじゃないですか。俺は、お父さんにもう一度条件を出してほしいんです」
「……それで、今度は条件をクリアさせてアイドルに復帰させようという魂胆だろ? そうはさせん、そうはさせんぞ……」
「お父さんはなにか勘違いしていらっしゃいませんか?」
「なんだと?」
「俺も、しほりんにはアイドルやめてほしいんですよ」
p.s 更新が遅くなってしまい申し訳ありません。なんかすごい間隔空いててびっくりしました。ちょっと重苦しい展開で筆が重く、いろいろ考えた結果時間がかかってしまいました。ご心配おかけして申し訳ありません。決して夏フ〇スやアイ〇ラのライブやコ〇ケや小〇唯のバースデーライブや野〇観戦や夏ア〇メ鑑賞やアニ〇マとかに忙しかったわけではありませんので悪しからず……(ちゃんと仕事も忙しかったです!)
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