第7章‐16 探偵くんと鋭いしほりんママさん


 俺は思い切って問うてみた。やや間があって、


「…………はっ、何を言うかと思えば」


 しほりん父の反応は……


「そんなの……心配はするだろう?。当然だ、親なんだから。娘の将来のことを考えれば成績の心配して当然、何がおかしい?」


 しほりん父が開き直ったように強気に言う。ここでこのまま流されてはいけない。怯むな俺。


「もちろん、それはそうなのですが……」


「そうだろうそうだろう、親というのはそういうモノだ。だから……」


「お父さん、あなたは娘がこのままアイドルを続けるのは嫌だった。しかしそれはアイドルが嫌、というよりは……それではなく、大事なのは、そう、勉強ができなくなること。大事なのはここでしょう?」


「何?」



 最初に違和感を感じたのは、前回お父さんと対峙したとき。俺と桜玖良が完全に論破されてしまった前回の訪問時のとき、しほりん父の娘への心配と愛情ばかりを見せつけられる形にはなったが、あの時確かに聞いたしほりん父の台詞。



 ”アイドルなんて勉強の何の役にも立たない”



 そう、おそらくしほりん父は勉強至上主義。勉強の役に立たないものはやらせる必要はないと思っている。つまり良くも悪くもアイドルをやること自体については何とも思っていないのではないか? ただ、そのせいで勉強がおろそかになる、勉強時間が削られ続けるのは許せなかった……


 そして何より許せないのは


「しほりさんがアイドル活動中心で、日々の勉強が疎かになってしまっていることに、何より憤りを感じていたのではありませんか? それは彼女の将来への不安そのものだった。高校、大学、就職……いい人生を送るためにはいいところへ入り続ける必要がある。そのためには勉強していい成績をとり続けなくてはならない」


 しほりん父は、娘がいい高校、いい大学、いい就職ができなくなることが嫌だった。そしてアイドル活動がその妨げになっていることが、どうにも許せなかったのではないか?


「……娘は、ちゃんと真面目に、勉強していた」


「ですが、それはアイドル活動しながら、です。部活動の両立とはわけが違います。拘束時間も責任も何もかも。ほかの生徒に比べたらしほりさんが勉強に避ける時間ははるかに少ない。それが問題だったのではないですか?」


「まあ……そうだな」


「失礼ながらいろいろと話は聞かせていただきました。お父様は、確か現在もかなりの優良企業の重役でいらっしゃいますし、そして学歴もすこぶる優秀で、確か、あの……」


 その瞬間、しほり父の目がギラリと光った。無言の圧でこちらを威嚇してくるような目。


 まるで、その先は言うなとでも言うかのような……


 だが、俺はそれを素知らぬふりをして話し続ける。


「あの慶大卒なんですよね? 日本が誇るあの超名門大じゃないですか、本当に優秀で……」


「なぜそれを……」




 俺は先日の電話の内容を思い出していた。


「お忙しいところお電話させていただきましてすみません」

「いえ、いいのよ。南方君にはいつも迷惑かけっぱなしで本当に申し訳ないと思っているんですから」

「迷惑だなんて……こちらの方が迷惑なんじゃないかと思って……」

「何言ってるの? ぜひまたうちにいらっしゃい。桜玖良ちゃんが一緒でも、むしろ一緒じゃなくても大歓迎してあげるから」

「ええと……どうもありがとうございます。で、本題ですが……」

「なんかつれないわね……」

「ええと……」

 なんかこの辺はしほりんと違って積極的というかぐいぐい来るというか、まだ彼女のノリがわからなくて正直やりづらいことこの上ないのだが……でも電話に出ていただけるだけでも有難いのだ。


 そう、俺が電話したのはしほりん母だった。桜玖良に連絡を取って事前にアポをとってもらって、教えてもらった番号に勇気を出してかけてみたのだ。


「ごめんなさいね。私に聞きたいことがあるのよね。桜玖良ちゃんから聞きました」

「はい、そうです」

「正直なところ、あまりお役に立てるとは思えないのだけれど……」

「そんなことないです。早速ですが旦那様はいいところの大学出だと桜玖良から聞いたのですが……」

「そうね。あの人は慶蘭大卒よ。エリート街道まっしぐらって感じだったわ。でもそれがどうしたの……?」

「大学受験のときに他にどの大学を受けたかとかご存じないですか?」

「……」


 しばらく受話器の先から沈黙があった。そして




「やっぱり南方君は賢いのね」



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